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著者・編者 | ダン・シモンズ=著 |
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出版情報 | 早川書房 |
出版年月 | 2002年2月発行 |
惑星アーマガスト上空にある〈シュレーディンガーの猫ボックス〉で、ロール・エンディミオンは処刑された――はずだったが、彼は救出され、故郷の惑星〈ハイペリオン〉の廃墟エンディミオンで目覚めた。彼を救ったのは、275年前、〈時間の墓標〉を開いた巡礼の一人で千年近い年を渡ってきた詩人のマーティン・サイリーナスだった。エンディミオンは幼い頃、サイリーナスが書いた巡礼の物語〈詩編〉を読み聞かされていた。サイリーナスはエンディミオンに、ヒーローになって、〈時間の墓標〉の〈スフィンクス〉に現れるブローン・レイミアの娘アイネイアーを迎えに行ってほしいと依頼する。彼女こそ人類の救世主だという。エンディミオンは、サイリーナスに長く仕えてきたアンドロイド、A・ペティックを連れ、かつて領事のものだった宇宙船に乗って〈時間の墓標〉へ向かった。
〈大崩壊〉の後、連邦に代わって宇宙の覇権を握ったのは惑星〈パケム〉のキリスト教徒たちが率いる〈パクス〉だった。彼らは〈ハイペリオン〉から盗掘した〈聖十字架〉を利用し、復活の奇跡を司っていた。〈パクス〉の機動艦隊〈東方の三博士〉(マギ)を率いるフェデリコ・デ・ソヤ神父大佐は、6千光年彼方の宇宙空間で〈アウスター〉の軌道森林を焼き払っていた。そこへヴァチカンから急使が訪れ、ソヤは大天使級急使船に乗って惑星〈パケム〉へ向かう。
大天使級急使船は、従来のホーキング航法を大幅に上回る速度で飛ぶことができる代わりに、乗組員はズタズタに引き裂かれ、ジャムのような遺体になってしまう。だが、〈聖十字架〉によって復活することで再び役目を果たすことができる。死と復活を経験したデ・ソヤは、ヴァチカンの荘厳さに感極まり、シモン・アウグスティノ・ルールドゥサミー枢機卿から、レイミアの娘を確保する命令を受諾する。絶大な権限をもった〈教皇のディスキー〉を受け取ったデ・ソヤは、大天使級急使船を〈ラファエル〉と名付け、これに乗って惑星〈ハイペリオン〉を目指す。
教会の正史と禁書〈詩編〉の語る歴史は異なっていた。275年前の〈崩壊〉の時、デュレ神父は教皇テイヤール1世となったが、彼が人類は進化して神に合一できると説いた説は明らかな痛んであり、デュレが事故死した後に復活したルナール・ホイト神父が教皇ユリウス6世となり、〈パクス〉の基盤を築いた。ホイトは死と復活を8回繰り返し、現在はユリウス14世として教会を統治していた。
エンディミオンは、宇宙船に積んでいた領事のホーキング絨毯に乗り、〈スフィンクス〉へと向かう。だが、〈スフィンクス〉の周囲は、デ・ソヤ神父大佐が率いる数万の陸軍と宇宙艦隊が包囲していた。彼らもまた、アイネイアーが出現する場所と時刻を正確に知らされていたのだ。
ついに、〈スフィンクス〉から少女アイネイアーが現れた。と同時に、シュライクが出現し、〈パクス〉の軍隊を相手に大殺戮が行われ、上空の宇宙艦隊も破壊されてしまう。デ・ソヤは、グレゴリウス軍曹に救わる。ホーキング絨毯に乗ったエンデュミオンは、砂まみれになったアイネイアーを救出した。救世主の第一声は「このろくでなし!」、そして次の言葉は「ばかやろう」「くそったれ」だった。
無事、宇宙船に乗り込んだエンディミオン、アイネイアー、A・ペティックの3人は、惑星〈パールヴァティー〉経由で惑星〈ルネッサンス・ベクトル〉へ向かうことにした。宇宙船内で3人は交流を深め、アイネイアーは自分の立場が〈教える者〉であり、そのために建築を学べる惑星へ向かうのだと語った。
デ・ソヤ神父大佐は、グレゴリウス軍曹とキー伍長をともない、惑星〈パールヴァティー〉に先回りし、〈パクス〉の艦隊を率いて、3人が乗る宇宙船を待ち構えていた。
〈パールヴァティー〉で実体化した宇宙船にデ・ソヤの部隊が取り付くと、アイネイアーの映像通信が始まった。彼女は次々にエアロックを開放し、地獄へ落ちると脅してきた。アイネイアーに〈聖十字架〉が付けられていないことを知っていたデ・ソヤは、舞台を引き揚げさせ、宇宙船は再び量子化した。空間の歪みから宇宙船の次の目的地が惑星〈ルネッサンス・ベクトル〉であることを確認したデ・ソヤは、〈ラファエル〉で先回りすることにした。
惑星〈ルネッサンス・ベクトル〉へ向かう途中、アイナイアーは〈テテュス河〉へ行きたいという。かつて、かつて連邦の転移ネットワークを利用した観光川下りであったが、〈大崩壊〉によって転移ネットワークは使えなくなっているはずだ。
惑星〈ルネッサンス・ベクトル〉で宇宙船を待っていたデ・ソヤは夢を見た。夢の中で娘となっていたアイネイアーは、〈聖十字架〉の秘蹟を受けられずに病死したデ・ソヤの姉が大切にしていた磁気のユニコーンを、ポケットから取り出して見せたのだった。
宇宙船が実体化した。ふたたびデ・ソヤの部隊が宇宙船に取り付くが、アイネイアーは自力で宇宙港に着陸すると懇願する。宇宙港に着陸する寸前で宇宙船は向きを変え、〈テテュス河〉にある動かないはずの転移ゲートに突入した。デ・ソヤの部隊は宇宙船を攻撃するが、残骸も遺体も見つからないまま、宇宙船は忽然と消えてしまった。
デ・ソヤ神父大佐らは惑星〈パクス〉へ帰投し、処分を待った。教会は、デ・ソヤに引きつづきアイネイアー捜索を命じた。デ・ソヤは、かつて〈テテュス河〉が結んでいた200余りの惑星をすべて訪れてでも――つまり、200回以上の死と復活を繰り返してでも――彼女を探し出す覚悟だった。
ハイペリオン・シリーズは全4巻だが、各々が上下巻に分かれており、計8冊。しかも文庫本1冊が500ページという大ボリューム。本巻は3番目に当たるから、起承転結の〈転〉――『ハイペリオンの没落』の解説で比較されたアニメ「エヴァンゲリオン」の新劇場版で言うなら「Q」にあたる。それもあってか、ともかく面白い――というか、笑える。
〈シュレーディンガーの猫ボックス〉で絶体絶命の危機にある主人公を救ったのは、前シリーズの英雄の一人で、トリックスターたる詩人のサイリーナス。〈自由意志〉で主人公に同行したいと申し出るA(アンドロイド)・ペティックは、アイザック・アシモフのSFにおけるロボット「R・なんとか」。エンディミオンとの会話の中で、アシモティヴエイターという三原則を組み込まれているわけではないと語る。地球がブラックホールによって隠されたという設定も、アシモフの未来史を彷彿とさせる。サイリーナスが隠していた領事の宇宙船の造形は「マグマ大使」(しかも喋るし)、ホーキング絨毯は「アラジンと魔法のランプ」、〈時間の墓標〉の先にある未来世界は映画「ターミネーター」、〈時間の墓標〉の迷宮を滑走するシーンは映画「インディ・ジョーンズ」、お姫様の救出を頼まれるのは映画「スターウォーズ」、宇宙空間で活動できるよう遺伝子改良した〈アウスター〉はアニメ「翠星のガルガンティア」‥‥前作に引きつづき、古今東西のSFネタが詰まっているだけでなく、情景描写も洗練されてきている。(「ハイペリオン」シリーズは1989年~1997年に発表されており、1995年の「エヴァンゲリオン」は微妙に被るものの、「翠星のガルガンティア」は2013年と後年の作品)
12歳のお姫様アイネイアーの言葉が悪いのは、サイリーナスが育てたせいに違いない。
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