専業主婦VS兼業主婦

イタリアのテレビ番組で「専業主婦VS兼業主婦」というのを放映していた。
スタジオの観客席側に100人ほど、ステージ側に12人の女達が座っており、その12人は右に専業主婦6人、左に兼業主婦6人、その間に司会者(女)が立っていた。観客席側の約100人は、80%ほどが女で残りは男。
イタリア人は元々超おしゃべりな人種で、討論大好き人間達である。よって、テレビの討論番組も異様に多い。この番組もその一つである。

専業主婦と兼業主婦との戦い(?)は、先進国なら何処でもある永遠のテーマなのかもしれない。
日本でも最近、ある女性が「専業主婦は世の中のゴミ」みたいな本を書いて、世間の論議をかもし出したはずである。私も日本に一時帰国していた折、この女性が出演して芸能人と一般人混合チームで、このテーマに付いて激しい討論をしていたのを偶然見た。
この女性曰く、「専業主婦は税金も払っていない価値の無い人間」みたいな事を言っていたように思う。
私はこの発言に対して、「そうすると、 世の中の人間の価値は、税金を納めた額に比例する のかしらん?」と疑問に思ったと同時に、この女性がここまで専業主婦を無価値な物のように表現するのは、彼女の過去の結婚生活で、きっと何か辛い事があったに違いないと同情した。私は彼女の前夫のことなど全然知らないが、おそらく彼は、専業主婦だった彼女の事を、無能者のように扱っていたのであろうと推測する。

私は学生時代は学費稼ぎの為にスナックで働いたり、22歳の学生時代からフリーデザイナーとして、一匹狼で世の中の社長さん達と渡り合ってきたし、自分のブランドメーカーが倒産したり、ブティック経営も離婚が原因で閉店したりと、結構世の中の荒波にもまれてきた。ある都市銀行本社で2年ほど銀行員もやったし、色んなアルバイトも経験して、社会の厳しさや労働の大変さを認識しているつもりである。

しかし私は、「世の中で一番大変な仕事は主婦である」と思う。
確かに手を抜こうと思えば、早々細かい旦那でもない限り、いくらでも手は抜けるだろう。そんな抜け道はあるものの、この「主婦」という職業を完璧にこなそうと思えば、残業手当も休日出勤手当てもなしに、朝から晩まで休みなしに働かなければならない。しかも仕事の内容は多種多様にあるのだ。

「働いているお母さんの子供は可哀想」という発想もある。 私も幼少の頃、両親が商売をしていた為とても淋しい思いをした。共働き家庭の子供が全員淋しいとは思わないし、働いていても子供と一緒にいる時間を大切に出来る母親なら、子供に早々淋しい思いもさせないだろう。専業主婦でも自分の趣味や遊びに夢中になって、子供を放ったらかしにしていたのでは、これは偉そうな事は言えない。

要するに、専業主婦がどうだとか兼業主婦がどうだとかという問題ではなく、自分に与えられた仕事をこなし、尚且つ子供との時間を大切に出来る母親が素晴らしいと私は思う。
ある特殊な能力を持って社会に出、その能力を生かして働く人も居れば、昔からある日本のお母さん的イメージで、地域の事や学校の事を心配する専業主婦が居てもいいだろう。
何も自分の意見や生き方を、他人にまで強要する権利は誰にも無いのであるから。

前置きが随分長くなったが、前述のイタリアの討論番組の話に戻ろう。
6人ずつの女達が一生懸命、自分達を正当化すべく討論していた。
日本と同じように、この討論の根本にあるのは「子供」である。未だ子供が小さいうちは母親が傍に居るべきだ!イヤ、母親が働いている子供のほうが自立心が育つ!非行は兼業主婦の子供に多い・・・などなど。
観客席の人達も目くじら立てて「ああだ!そうだ!こうだ!」と、私にしたら「全く、五月蝿いこった」と思っていた。

先にも書いたように、この議論の焦点は母親が働いているかいないか・・にあるのではなく、母親個人の人間性や性格の問題であるから、いくら討論しようが結論は出ないのである。
討論でありがちなのは、余りに意見が食い違いすぎると、あながち討論のテーマがずれてくることである。

私は彼らのボルテージの高さに少々うんざりし始めていた。
すると、そこに衝撃の場面が現れたのである!私は一瞬、自分の目を疑った。
その女司会者の指示の元、スタッフがアイロン台とアイロンをステージの中央に持って来たのである。
私は一体何が始まるのかと画面に再集中した。
そこで女司会者
「この決着は、カッターシャツのアイロン掛けで決めましょう!」と言ったのである。

≪ウ~ン、すごい!さすがイタリア人のする事は違う!≫
私は可笑しくなって、12人の女達が「負けてたまるか!」と必死にアイロンを当てるのを見ていた。
途中からこの番組を見た人は、一体何の番組か解らなかっただろう。
結局、彼女達がアイロンを当てた12枚のカッターシャツ、観客にお披露目してのジャッジとなったが、その結果は・・・
「引き分け」 であった。


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