皺くちゃお嬢様

昨年、珍しく親子3人仲良く(?)フィレンツェへ行った折の事。
かかとの傷みを気にしながらも、娘と日本語で会話しながら石畳を歩いていると、後から声を掛けられた。
「すいません!日本の方ですか?」
こちらが満面の笑みで上品に声を掛けても、ヒエ~ッ!と逃げていく日本人が多い中、大変珍しい事だ。

久々の 生の日本語 に大喜びして振り返ると、中年の日本人女性が一人立っていた。
言っては悪いが、見るからに40歳台であろうと思われるその女性、幼稚園児か、はたまた小学校低学年のような服装をしており、見るからに変てこりんな人に見えた。
お皺のいっぱい出来たお顔に、思いっきりファンデーションを塗りたくり、真っ赤な口紅をつけ、お顔に一生懸命労力を使い果たしたのか、長い髪はぼさぼさであった。

≪チョっとばかしヘンな人だナァ・・・≫と思いつつ
「ハイ、そうですけど、何かお困りな事でも?」と尋ねると
先ほどの丁寧な声の調子と打って変わり、怒りを露わに
「わたし、幾つに見えます?」

≪ハァ~~~???≫

異国で日本人に声を掛けられ、いきなり「幾つに見えます?」と訊かれ
「ハイそうですね・・・45歳!!!」とは答えられぬ。
流石のPa~も返答に困り沈黙していると

「わたし、今そこのブティックに入ったんですけど、イタリア人の店員達が、私の事を35歳くらいに見えると言ったんですよ!失礼しちゃうと思いませんか!?サーティーファイブは35ですよね!?」

≪失礼しちゃうって、そのイタリア人店員達も気を遣い、少々低目に言ったのではあるまいか・・・?≫

正直言って無視して逃げ出そうと思ったのだが、何処かで再会し、いきなりブスッと刺されても困るので致し方なく会話を始めた。
「そ、そ、そうですねぇ・・・わたくしには37~8歳にお見受けいたしますが・・・」
と、どもりながら先のイタリア人達と同じく、お世辞を言った。
すると!またまた彼女のお怒り爆発し
「わたし、こう見えても日本では皆から若い!若い!と言われているんですよ!!!」
≪ホォ~!優しい人達に囲まれているんだナァ・・・≫
≪イヤ!待てよ!これほどまで怒っているところを見ると、もしかしたら実際は若いのかもしれない。この幼稚園児のような服装も実は年相応で、不幸にも 皺くちゃ顔の十代 なのかも・・・≫と思い
「すいません、実際はお幾つなんですか?」と尋ねると
何故か知らぬが小声で
「本当の歳ですか?・・・実は38歳なんです」

≪おまえ~~~!≫
「す、す、すいません!それでは先ほどのイタリア人達もわたくしも、間違っておりません事ですよね?」
「そりゃそうですけど、日本では自他共に認める20歳が、イタリアなんぞで30代後半と言われるなんて・・・これほどファッションにも気を使っているのに!!!」

≪ファ!ファ!ファッションって言うほどのモンかぁ~!?≫
ここで会話を中止し、さっさと逃げ出したらよかったのだが、職業柄お節介にも
「若造りをしようとする女性の気持ちは解りますが、お顔とお洋服の差が余りにあり過ぎると、返って老けて見えるものですよ。30代後半と言えば、落ち着いた女性の魅力というものを、上手にかもし出さねば・・・」
と口をついてしまった。
そこで、その女性
「あの~、ファッション関係のお仕事でもされているのですか?」
その問いに正直に答てしまった私。
異人 の彼女から、道端でのファッション指導を頼まれてしまったのである。

≪ヒャァ~~~ッ!!!≫
「申し訳ありません、我々急いでおりますので」
そう言って、夫と娘の手を引き、小走りで逃げ出したPa~であった。

そこへ我が夫の一言
日本人も変な奴が多い けど、 50 のおばさんのあの服装は、まるでコメディだな」
私の年齢をズバリ当てた現夫には、この女性が50歳に見えたのであった。


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