ルナ・ワールド

ルナ・ワールド

少年の最期



苦しい、熱い、痛い・・・
僕は何でここに・・・
あぁ、そうだ、報復のために、兄さんが殺された報復のために・・・
僕はここにいる。

あそこにあるのは、僕の手。
向こうには、僕の脚。
あそこには
僕の左小指。

誰になんと言われようと
決して自分の命を捨てはしないと
母さんと約束したときの小指。

うそついたわけじゃないんだ、母さん。
許してくれよ。
母さんも兄さんが死んだとき
悲しんでたじゃないか。
「殺されたんだ!」って泣いてたじゃないか。

僕がこうすれば
あとに残ったみんなの面倒は一生見てくれるって
となりのとなりに住んでる
愛国団のおじさんが約束してくれたんだよ。

もう、次に産まれてくる
妹や弟の心配しなくてもいいし
仕事が見つからなくて
貧しい思いや
ひもじい思いをしなくてもいいんだよ。
なかなかいい暮らしだろう、母さん。
誇りに思ってくれるだろう、母さん。
誇りに思ってくれよ、母さん・・・。

(San Francisco 2005/07/10)

与謝野晶子 『君死に給ふことなかれ』


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: