現在形の批評

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Oct 6, 2007
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カテゴリ: 劇評
現在形の批評 #71(舞台)

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KIKIKIKIKIKI

9月28日 アトリエ劇研 ソワレ


小柄なマリオネットの指揮者


白いクロスの掛かった丸テーブルに、舞台開始前から座ったり寝転がったダンサーが準備体操をしている。やがて一人の小柄な女性が酒瓶だろうか、いくつか抱えてやって来てテーブルにうつ伏せになる。すると先ほどの彼、彼女たちはやおら立ち上がり、脱衣を始め下着姿になった後、そこへ集まってくる。全員手に酒瓶を持って乾杯。女はテーブルに乗り上る。ダンサーたちはテーブルにしゃがみこみ、顔を伏せる。酔ってしまったのだろうか。酒瓶を一人抱えた女は、迎え酒を始める。と同時に低いトーンの音楽がインし、ダンサーも尻からゆっくりと起き上がる。そこからは一転、激しい足音、テーブルと女を連打する攻撃的な打撃音が耳に印象的な激しい動きが展開された後、その場に倒れ込んでしまう。そして女はテーブルから降り、立ち去る。これが舞台のファーストブロックの一部始終である。


このダンスカンパニーは初見のため途中まで気付かなかったが、テーブルの上で酒をあおった小柄な女性がどうやら主宰者のきたまりなのであった。私はこの女性に別の人物を投影しながら視線を送っていた。事実上解散してしまった感のある無名の劇団に所属していた女優を。二年前、ある演劇フェスティバルに関わっていた時に一度だけ観ただけだが、参加団体の中で私の琴線に触れた数少ない作品だったことを明瞭に記憶している。その理由の一つが、小柄な身体を跳ねるように駆使し、どこからそんな声が出るのかと不思議になるくらい耳に心地の良いよく通る快活声は、俳優陣の中でも特に目立った存在であった。もちろんその他の劇団にも同じような女優は居たものの、作品のキャラクターを決死に生きようとする類の、よく頑張っているとしか言い様のない存在と比べれると魅力の度合いが格段に違っていたのだ。


その女優が今目の前にいる。あれから舞踊家へと転身したのではないだろうか。なるほど、小柄であることを武器にあれほどの力漲る生命力を発揮していたのだ、それも肯ける。などという思いは先述したようにやがて打ち砕かれてしまうのだが、きたまりは確かにあの時の女優と同じパワーを感じさせるダンサーである。この幻視は私がどういう身体に関心を寄せるかを知らしめるものであった。


振付けられたダンサーの動きは最近観たものでは珍しいくらいダンスダンスしている。自らを皮肉った笑いではなく、何かに対した批評による主張を前面に押し出すでもない。部分的に入る台詞部分はそれらしく思えるもののそれはアクセントに過ぎず、踊り狂う身体の衝迫力、かと思えばピタリと静止するキレ、身体フォルムや卓抜な動きが生み出す組体操のような、テーブル上で行われるダンサーの身体による静止画の形象物の妙にその要がある。そのためシーン同士は見せ場を与えられたかのように幾人かのダンサーが役割をまっとうするのみで、時間軸に則れば半ば必然的に抱え込んでしまう物語性を忌避する。


冒頭で全員酒を飲むシーンや「That is all right」や「一生とは死ぬまでのことであり、その期間にいろいろすることである」といった言葉が表象するのは、腹をくくってマリオネットと化した自殺集団が堰を切ったように点描する死の踊りのように思えてくる。それがまた非常におしゃれな完成に仕上がっているのは、カーテンコールの踊りで見せた、しっかりと観客を見返す、きたまりのつり上がった眼とうっすらと笑みを浮かべた口元がしたたかに何かを仕掛けようと作為的に狙っている表情をしていたからである。


同年齢のこの小柄な女性には並々ならぬ自身が感じられる。


◎中西理氏の サイト にきたまりのインタビュー記事が掲載されてます。





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Last updated  Oct 7, 2007 07:38:03 AM


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