「厚い手のひら」 井上優(ゆう)

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November 1, 2011
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解説 かなしみを手のひらの体温で包む光の詩集 
  井上優詩集『厚い手のひら』刊行に寄せて
                  佐相 憲一


「こどもには残酷で見せられないけど、ちょっとこれ見てくださいよ。チェ
ルノブイリのこどもたちの画像です。」
 かなしい目をして井上さんは私にパソコン画像を見せた。放射能の時代に
壊された未来が写っていた。続けて今年の東北被災地にボランティアで行っ
た時に見つけたというこどもの片方だけの黄色い靴の写真を見せてくれた。
靴の持ち主の子の命はどうなってしまったんだろう。彼は涙ぐみ、聞いてい
た奥様の真由美(まゆみ)さんも涙ぐみ、夫婦は今にも抱き合って泣き出し
そうなのであった。そのそばを一歳半の息子さん、史遠(シオン)ちゃんが
にこにこと寄ってきて、私に何やらおもちゃを手渡していっしょに遊ぼうと
促すのだ。
 群馬県水上温泉の隣りの上牧のまちは利根川と緑ののどかな環境で、親子
三人仲良く慎ましく暮らしている様子は、案内して見せてくれた蛍のように、
「詩」そのものであった。
 井上優さんの詩世界は、体の中から流れてくる生き生きとした言葉に血が
通っている。狭い詩の世界にありがちの、人の目を気にしてばかりで大切な
ものを隠そうとする小手先の死んだ言葉や無難な書き方とは一線を画する新
鮮さがある。書かずにはいられない切実さが、この生きにくい社会・世界を
生きる人々の心に直接届いてくるのだ。
 四年前に第一詩集を刊行し、二年前には絵本三冊を電子出版している。イ
ンターネットや朗読会などを通じて、日頃現代詩には縁のなかった一般の人々
が感動し、ひろめてくれたのであった。ある大学では彼の手作り絵本がテキ
ストになったし、地元の喫茶店では彼の著作が販売されているし、ネットか
らの交流もずいぶんあった。
 井上さんは少年時代からかなり複雑な家族事情や経歴を経て来た人だ。カ
トリックのクリスチャンになり、学生時代には革新的な思想にも影響を受け、
イギリス生活では物事をとらわれのない自由な発想で見ることや地球の観点
を身につけたと思われる。精神的にかなり苦しい時期もあったようだが、波
乱万丈の行路にようやく見つけたものが、まゆみさんとシオンちゃんとの優
しい家庭であった。真に自分を受けとめてくれる場を得て、彼はいよいよ社
会へ、世界へ、人の心へ、持ち前の行動力で詩的な発信を始めた。
 第二詩集『厚い手のひら』は、そんな井上優さんの個性がいよいよ明確に
あらわれ、愛の光を力に、この時代この世界の人間存在へ真摯な声を投げか
ける体当たりの詩集である。
153
154
 序詩のかなしみに続いて一章では、十五篇の詩が現代を伝える。行動する
作者の批評性が放射能の時代をうつが、本質はあくまでこどもたちを代表と
する命の側に共に立つヒューマニズムである。「咲いている」には悲惨の中で
もこどたちは花であるという祈りが聞こえる。時代の混沌の空気の中で触れ
合ってきた身近な人々とのことを綴った散文詩群「僕の知らない曲」「愛の銭
湯」「手のひら」はほろりとさせる。「時代の魚」「卵」「とぶ ねこ」「明日が
始まるとき」といった作品群には、バブル崩壊以来混迷の度を増してきた現
代社会に青年期・壮年期を生きてきた者ならではの実感がこもっていて、汚
濁に満ちた現実から目を逸らさずに新しい時代の希望をつくっていこうとす
る詩的なメッセージ性がある。
 二章では、一人の男が一人の女と出会って一人のこどもが生まれて一つの
家庭が光の輪を深めていく普遍的な過程が実体験の具体的な臨場感で、大切
なものを伝えている。この章の感動はこの詩集全体の柱になっていて、愛と
いうものがあらためて新鮮に響く詩人渾身の絶唱と言ってもいいだろう。「誕
生・史遠へ」から「生
い の命

」までの十四篇。ささやかな日常生活の光を見つめ
る親しみやすさの中に、人間存在の深遠なおののきを感じさせる愛の詩が展
開される。そこでは我が子やパートナーを想う心が社会の中の他者の幸せを
願う心とつながっていて、詩の心は密度濃く開かれている。幼子の匂いを「地
球の匂い」ととらえる感性がそのことを象徴している。家庭をめぐる事件が
多発するいま、光である。
155
 三章では、幅広い背景をもつ作者ならではのユニークな作品十五篇が並ん
でいる。国境を超えた時空のひろがりと芸術・文化のつながりがあり、文学
愛好者好みの考察、祈りの心、人間交流などが豊かに展開されている。詩文
学という世界共通語で苦い現実を乗り越えようとする視点がさわやかである。
想像力の翼は内面世界を外界と切り結び、さまざまなものが消化されている。
アラビア古典、オランダ、江戸の浮世絵とドイツ文学ゲーテとフランス印象派、
オスカー・ワイルド、現代ロシア、聖書、絵本、赤毛のアン、ロンドン暮らし、
恩師、ネット詩人。そして、彼は「詩」を定義する。〈高い高い樹なんだ/美
しい樹なんだ/空の小鳥をやすらわせる//そして今も 心臓から/樹液を
流し続けている〉。
 四章は、絵本にもなるような物語り詩「深い森の眠りのバク」「涙をあつめ
る天使」二篇である。語りの優しさと対照的なかなしみの刻印。かなしみに
満ちた世の中で生きることは、それでも喜びに出会う道でもあるんだよ、と
こどもたちを励ますような語りは大人の中に眠っているこども心を呼びさま
してくれる。生きること、触れあうこと、いたわりあうことの光を優しく語
るのであった。
 こうしていま、豊かで新鮮で真摯な一冊の詩集が世に発表された。現代に生
きる広範な人々に、この詩集を届けたい。こんなにかなしい世界だから、厚い
手のひらに象徴される人間の生きた体温が流れているこの光の詩集を届けたい。


http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1106099708





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最終更新日  November 2, 2011 12:11:10 AM
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相互リンク  
farr さん
突然のコメント、失礼いたします。
私はこちら⇒http://blju.net/
で無料オンラインゲームサイトをやっているfarrといいます。
色々なサイトをみて勉強させていただいています。
もしよろしかったら相互リンクをお願いできないでしょうか?
「やってもいいよ」という方はメールを送ってくだされば、
私もリンクさせていただきます。
よろしくお願いします^^ (November 2, 2011 12:11:18 AM)

日本のテレビ番組が懐かしい  
田中 さん
海外に移住してから、十年間も経った。日本は今どうなっているかといつも呟いた。レテビで日本のNHKとかTBSとかのニュースを聞きたいなあ。日本のテレビ番組がどうしても見たくてならない。やっと、www.tv-rec.comにめぐり合った。ああ、助かった。 日本のテレビ番組を全部即時に見ることができる。よし! (January 17, 2012 08:42:10 PM)

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