陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

この空の下で 28




朝、彩子は、8時に目が覚めた。

待ち合わせの、日比谷シャンテまで、1時間弱。

『シャワー浴びなくっちゃ。髪を洗わなくっちゃ。』

慌てて、階段をおりていった。

「どうしたのそんなに慌てて。朝ご飯食べるでしょう?目玉焼き焼くから、顔を洗ってらっしゃい。」

「今日、約束あるから、出掛ける。」

「そうなの?どこに行くの?」

「映画。祐子と。」

「祐ちゃんと?朝ご飯くらい食べていきなさいよ。」

「昨日お風呂はいってないから、シャワー浴びる。約束の時間に遅れちゃうから、朝食はいらないわ。」

「あら、そう。」

彩子は、バスルームへ行き、鏡で自分の顔を見る。

『何だか、くすんでるな~。』

シャワーを全開にして、頭から思いっきり浴びる。

『ふぅー。目が覚めてきた。』

バスルームから出ると自分の部屋へ駆け上がった。

クローゼットを開けて、どの洋服を着ていこうかと迷う。

『決めておけばよかった。翔さんは、どんなのが好みかな。初めてだし、無難な感じがいいかな?』


紺のブレザー


シャンテの前に行くと、翔がすでに待っていた。

ライトブルーのシャツにチノパン。

その上に紺のブレザー。

翔らしい装い。

彩子は、結局、ピンクのアンサンブルに膝丈の紺のスカート。

ベージュのトレンチコートを羽織った。

翔は、彩子を人混みの中から見つけると、手を振った。

翔は、昨日のことがなかったみたいに爽やかな笑顔だった。

「おはようございます。いつもお待たせばかりさせてゴメンナサイ。」

「大丈夫、今着たところ。それより、昨日、あんなに遅くに電話して大丈夫だった?」

翔は、12時近くに彩子に電話したことを気にしていた。

「あっ、起きていたのは、母だけでしたから。」

「えっ、お母さん、起きていたの?まずいね。」

「大丈夫、全然、気にしないで。友達からも、夜遅くに電話あるので、母も馴れているので。」

「じゃあ、行こうか。」

映画館の前は若い女の子とカップで当日券を買う行列が出来ていた。

「やっぱり指定買っておいてよかったね。この列だもんね。」

「ホント、すごい人気ですね。でも、翔さん、退屈かも。だって、ラブコメですから。」

「寝てたら、起こしてね。じゃあ、入ろうか。」


プリティー・ウーマン


映画館の中は観客で一杯になろうとしていた。

売店で、飲み物とポップコーンを買って二人は、劇場の中へ入っていった。

翔がとってくれた指定席は、広い劇場の真ん中の席の背もたれに白いカバーが掛けられたエリアだった。

そのエリアの後ろから三列目の、少し右よりの席だった。

周りはやはりカップルが多かった。

映画の宣伝が終わり、いよいよ、映画が始まった。

一匹狼の実業家、エドワード(リチャード・ギア)は、ふとしたことから、ハリウッドの路上で街の女、ビビアン(ジュリア・ロバーツ)に道案内を頼み、気まぐれ半分で、高級ホテルの自分の部屋へ通した。ビビアンには、見たこともないゴージャスな部屋。エドワードもビビアンの無邪気な中にも、プライドを感じた。お互い、自分の知らない人種との出会いだった。エドワードは、1週間、自分のアシスタントを頼む。彼女は、ストリートガールからハイソな女性へ変身。その中で、次第にビビアンに惹かれ、彼女の持つ明るさ、無垢さに触れ、エドワード自身も変わっていった。徐々に近づいていく二人。そして、ビビアンも、ストリートガールから足を洗い、学校へ戻る決心をする。別れの朝。ぎこちない二人。ビビアンは、エドワードの部屋を出て行った。エドワードもNYへ戻る。チェックアウトの時、フロント・マネージャーがリムジンの運転手がビビアンを送っていったことを告げる。エドワードは、バラの花束を買ってビビアンを迎えに行く。

まさに、シンデレラストーリー。

最後のシーンの時、翔がそっと彩子の方に手を回してきた。

彩子は、翔の方に、軽く頭を載せた。

彩子は、翔の方を見た。

翔は、彩子を見つめていた。

彩子は、翔の瞳の中に自分の姿を焼きつけておきたいと思った。


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