陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

この空の下で 50




1年目の授業が5月半ばに終わった。

隆は、開放感で一杯だった。

「これで、やっとゆっくり出来るわね。」

「そうもいかないよ。、就職活しなくちゃいけないからね。夏休みの間に、インターンシップで日本に帰って仕事しようと思うんだ。」

「なら、私も働くわ。お金の問題もあるし。黎は、両親に預かってもらおうっと。」

夏休みの間に、隆は外資のコンサルティング会社で働くことになり、一時帰国することにした。

帰国の途中、ロサンジェルスに観光で寄った。

成田空港には、隆と彩子の両親が迎えに来ていた。

「黎、大きくなったわね。」

「どう、疲れてない?」

「勉強はうまくいったか?」

矢継ぎ早の質問攻め。

近くのホテルで一泊して東京へ。

そして、3日後、隆の実家のある仙台へ行った。

そう、翔の故郷でもある仙台。

不思議な縁で結ばれている。

二人は、同じ仙台の出身。

彩子は、いつか新幹線の中で翔に会うのでは、仙台の街中で翔に会うのではないかと思っていたが、会うことはなかった。

隆に翔のことは話していない。


新しい命の予感


二人は、それぞれ夏休みの間、仕事をし、8月中旬にエバンストンに帰って行った。

まだ暑い夏。

ミシガン湖が懐かしく目に映る。

2年目のアメリカ生活。

新年度の授業も始まった。

また、慌ただしい日々の始まりでもあった。

隆は、朝から夜遅くまで勉強漬け。

彩子も勉強と育児と家事でフル操業。

黎の英語は、親の嫉妬をかうほど上達していった。

「今週の週末、シカゴで面接があるから。」

「私と黎も一緒に行っていい?」

「いいよ。たまには、羽を伸ばしてくるか。」

「うれしいな。黎に日本では売ってないような可愛い洋服を買いたいのよね。」

木々の葉が色付き始めてきた週末。

車でシガゴへ。

「やっぱりシカゴに来るとワクワクするな。」

「ねえ、隆、今日、面接するところどうなの?」

「入れるといいんだけどね。ホテルにチェックインしておこう。車も止めたいし。」

夜、隆の面接が終わり、3人で食事に出た。

「日本食!」

迷わず、日本食レストランへ向かう3人だった。

食事の途中、彩子は、急に気分が悪くなった。

「トイレに行ってくる。」

「だいじょうぶか?」

「うん。夏ばてかな?」

彩子は、少し吐いた。

それ以上、食事が喉を通らなかった。

ホテルに帰ってからも、吐き気が続き、トイレに駆け込む彩子だった。

『もしかしたら・・・。』

翌日、彩子はドラッグストアへ駆け込んだ。

妊娠検査薬を買ってきたのだ。

「えっ、プラス!」

慌ててトイレから飛び出て、隆に結果を伝えた。

「隆、私、妊娠しているかも。」

「えっ、本当か?」

「もう、3年も、間が空いてたから、二人目不妊かなって思っていたの。仕事も忙しかったし。」

「どうする?病院行くか?」

「エバンストンに帰ってからでいいわ。わ~、どうする?今からだと、出産は、あなたの卒業の後だし、日本で産むことになるのかな?じゃあ、先に帰らなくちゃ行けなくなるかも。」

「就職先にもよるけれど、入社時期を遅らせてもらってこっちで出産もありかな。」

「でも、まだ先の話ね。まずは、隆の勉強、就職だよね。」

「確かに。あさって、病院に先ず行こう。」



© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: