陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

優しく抱きしめて 6



「おはよう~。きょう、お昼、一緒に食べない?」

「いいよ~。どこに行く?」

「そうだな~、天気もいいことだし、お弁当を買って、日比谷公園にでも行かない?」

「自然派らしい、美奈のご提案、OK。」

「じゃあ、12時にロビーでね。」

「分かった~。」

美奈は、自分のブースに戻って、キーボードを打ち続けた。

アルバイトの女の子に、入力の進み具合を聞きに行った。

「どうですか?今日中に、終わりそう?できた分から、打ち出して持ってきてくれますか?お願いね。」

美奈も大学時代にシンクタンクでアルバイトをしていた。

『彼女も私と同じ道を進むのかな~。懐かしいな、あの姿。』

美奈は、報告書の最後の文字を打ち終わった。

『さ~て、出来上がった。』

出来上がった報告書をプリントアウトして、クリップで止め、室長の川原の所へ持って行った。

「失礼します。報告書のドラフトが出来上がりましたので、お持ちしました。」

「できたの。見ておくね。添付資料の方も後で、見せてね。」

「はい。分かりました。お願いします。」

美奈は、自分のデスクに戻って、残っていたコーヒーを口に含んだ。

そろそろ12時になる。

『そろそろ、お昼だわ。ロビーにいなくっちゃ。』

美奈は、アルバイトの大学生にお昼に行くように声を掛けて、涼子との待ち合わせているロビーへ向かった。

部屋のドアを開けると誠二がいた。

「おう、メシか。鈴木さんと行くんだっけ?」

「うん、たまには、お日様の下でお弁当なんていいかな~って、日比谷公園に行くの。」

「そうか、そろそろUVケアした方がいいぞ。年なんだしな。」

「ぷっ、何それ。田中君の口からUVケアという言葉が出てくるとは思わなかったわ。笑っちゃう!年だなんて失礼ね。」

涼子とお弁当を買って日比谷公園へ向かった。確かに、4月末だが日差しは、キラキラと眩しかった。

「田中君にUVケアしろって言われちゃった。笑っちゃうよね。でも、結構、日差しが強くなってきているよね。」

「田中君が?へ~。UVケアなんて田中君には不釣り合いな言葉だね。美奈のお肌のこと心配しているんじゃない。」

「何それ。でも、気持ちいいね~。たまには、外で日差しを浴びながらのお昼もいいね。久しぶり。」

日比谷公園のベンチは、昼休みを楽しむビジネスパーソンでいっぱいだった。

その中にこの天気に誘われて遊びに来ている親子があちらこちらにいる。ベビーカーを押す母親。男の子を追いかける母親。花壇の花を見ている女の子。

美奈と涼子もベンチに座り、買って来たお弁当を広げた。

「そっちは、どう?川上さんの、あ、Kの仕事は?」

「ここなら、川上でいいわよ。どうにか~。クライアントからの注文も多くてね。大変。そっちは?」

「一応、報告書は、終わったわ。今度、室長と一緒に生産性のコンサルすることになったの。楽しみ。」

「楽しみ?美奈らしいわね。何でも楽しみになっちゃうんだから。私は、仕事はお金のため。自分のできることでの金儲けって感じだけど。美奈は、違うよね。」

「そんなこと考えたこともなかったわ。まあ、私は、両親と暮らしているけど、涼子は、自分で生きているから。しっかりしているのよね。」

昼休みも終わって、コーヒーを買って部屋に戻った美奈。



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