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第6回オフ会浅野宮城県知事のお話
「真の地方自治の確立~地方財政自立改革を中心に~」
地方分権をめぐる誤解と偏見がある。地方分権をめぐる動きについて、世の中の関心はほとんど巻き起こっていない。地方と国の綱引き合戦に見える。中央に頭を下げたくないからではない。地方に能力がないから分権できないは、通らない。
今日の話は、皆さんから周りにお話するための話の種、テクニックとして聞いていただきたい。
1 地方分権が進んでいないことの弊害
今のお話は主に国と地方との話である。なぜ補助金行政はいけないのか。
a)事務的煩雑さ
神野先生がフランスに勉強に行かれ、フランスも中央集権国家で、補助金が180件から55件に削減したのだが、連れていった通訳が相手に桁を間違えていると何度も聞き返されたという事件があった。フランスの行政官には日本の補助金が2300件あるということが信じられなかったためである。
まずは補助金をもらいにいくのに文書を持っていく。縦割りの弊害、一つ一つの補助金に要綱がある。市町村レベルになると一人で膨大な要綱を取り扱うことになる。
一方で補助金を配る側としても、課内の9割は補助金分配の仕事をやっている。配る側も大変で、47都道府県に対して申請を読み込んで配って決算を行っている。
b)思考停止症候群
地域地域の事情を考えるのが自治体職員の仕事である。しかし、補助金のメニューを探すだけになってしまう。一昔前の優秀な職員は「電話帳」。どんな補助金があるかの当てはめ能力が果たして優秀だろうか。義務教育費国庫負担金の問題の根っこもここにある。
c)国の国際問題への対応力の低下
補助金分配業に従事している人からその仕事をとってしまったら失業してしまうから抵抗が大きい。しかし、補助金分配業にうつつを抜かしているために犠牲になっている部分がある。
一般住民にどうやったら三位一体改革に関心を持ってもらえるか考えたことがあったが、住民にとってはほとんど利害が関係しない。
そのときに話したのは、BSEの問題は補助金行政の結果だということ。BSEの原因となる異常プリオンは日本にはない物質である。水際で守らなくてはならないのに、補助金分配業に人員を割いてしまっている。水際というのはつまり国際問題への対応のことである。
d)官官接待、口利きの横行
知事になって2年目くらいにこの問題に足を取られた。なぜ官官接待ということが起こるのか。単純に考えれば明確な収賄である。これは箇所付け、希少資源をめぐる取り合い。箇所付けをする権限を持っている人を接待している。
国会議員も選挙において「パイプの太さ」を強調する。それは箇所付けへの影響力に他ならない。ある省では国会議員にランク付けをしていた。箇所付けの情報も権力の源。議員のランクに応じて情報提供の時間も違わせていた。
私が(厚生省の)課長の時には、「土産物じゃなく土産話を持ってこい」と言っていた。地域の自慢や人の情報を知りたかったからである。ところが、都道府県の課長は情報を持っていなかった。47都道府県から土産話を集めたら相当の力になり、他県の課長さんから相談を受けても情報を与えられるようになった。
e)日本国中、駅前の景色がどこでも同じ
f)Fiscal Illusion
補助金はあくまでも人の金で、使わなきゃ損、という気持ちになる。「なんでもいいから作ってください」と地域住民とのミーティングで、ある住民が発言した。「多目的ホールは無目的ホール」。その彼は、「施設があるから発展している」と考えているが、「発展しているから、施設がある」のだ。全部自前でやる、ということになると知事ではなく、町長に頼むことになる。自分たちで作るということになると「無目的ホール」にはならない。逆に町長は問い返すことになる。他の事業止めて作るか?それが民主主義である。「あれかこれか」である。補助金の場合は「あれもこれも」になる。
g)一律主義のリスク
中央集権が一番貫徹しているのは教育行政。義務教育は国の責任、ということは教員の給与を国が半分持つことだろうか。学習指導要領や6・3制の堅持、教科書の検定は国の責任である。義務教育の負担を県に任せると教育水準が落ちる、と言われて知事は怒らなければならない。教育への機会均等の呪縛である。北海道から沖縄まで同じ教育を受けなきゃならない、というのは無理なことである。これには、思考停止症候群にも絡んでくる。文部科学省の基準さえクリアすればいい、という世界の中で自分の町でどういう教育をやっていこうか、と職員が考えることは難しい。福祉の世界では当たり前の話である。「ゆとり教育」では多様性のある教育を2002年から一斉にやった。教育にも「宮城方式」があってもいい。地域教育について、先生方も教育委員会も一生懸命考える。行政におけるリスクとの関係である。リスクは危うさということではない、多様性である。一律にやると一律にダメになる可能性もある。しかも教育の成果がわかるのは18年後かもしれない。
宅老所、グループホームに見る「みやぎ方式」がある。5年ほど前に自主的な自然発生的にできた研究会に呼ばれて、上手くいっていることに驚いた。なぜうまくいったのか。行政が金も口も出さなかったからと言われた。富山方式に「このゆびとーまれ」という老人も赤ちゃんも知的障害の人もいる「ごちゃまぜ方式」がある。
一律主義のリスクの反対、多様性の良さ、新しい分野、評価の定まっていない分野では有効である。
2 地方分権で何を実現するか。
a)財政的規律
「あれもこれも」から「あれかこれか」へ。納税者の厳しい目があり、ほんものの民主主義へ転換する。日本の行政では、タックスペイヤーが裸で出てくることは少ない。北川前三重県知事が知事に対して住民は「補助金を取ってこい」という役割を期待していると言ったことがある。しかし考えてみると、行政改革を促すのは、納税者たる市民である。行政改革を行政が言い出すということはあり得ない。その図式のおかしさに気がつかなければならない。自分たちの払っている税金が有効に使われれば税金が下がり、サービスが上がる。
b)地方のやる気、職員の自立
我々の創意工夫で地方行政を変えられる。
3 これから何をなすべきか
a)税財源の地方移譲
「三位一体改革」では方法論しか言っていない。本当の目的は「地方財政自立」のための改革である。しかしながら財務省は、三位一体改革は財政再建改革だと思っている。まずは3兆円の税源移譲が前提である。
b)補助金の廃止
地方交付税は地方の甘やかし交付金と思っている人が多い。デマが飛び交っている現状がある。全国の水害が起きて、国のある方はそら見たことか、と言っている。「氾濫したところは県がやったところだ」と言っている。じゃあ直轄でやればいい。災害という国民の皮膚感覚に訴える部分にデマを流している。
知事会は災害復旧の補助金は廃止しないと言っている。保険の理論と同じである。しかし、災害の予防は全都道府県でやらなければならない。
霞ヶ関の住人にとって全国の格差は許せない。それは自分たちのミッションだと思っている。現実には格差がある、是正するのが自分たちの役割だ、そのためのツールは補助金だ、と思っている。
本来は、格差が一番許せず、格差に敏感なのは宮城県知事であるはず。衆人環視の中で手が抜けるはずがない。今は行政サービスの全国ランキングがあるのだから。厚生労働省から叱られてまじめにやるのではない。
そして、補助金で格差が是正されるわけではない。是正できるのであれば、既に解決済みのはずである。
4 有志の会のための講演資料
もともとは、新入国家公務員向けの研修資料である。
a)公務員たるもの
「足下に泉あり」公務員になるためにいろいろな我慢をし、それが内在化してしまっている。斜め45度上ではなく足下を見ろ。これが本当にわかるのは仕事に携わって17年後である。足元の仕事を掘り下げてほしい。
b)権利ベースと義務ベース
例えば、与太郎の番台仕事。「攻めの仕事(プロジェクト、成功体験、達成感)」と「こなし仕事(回転寿司)」の違いを認識しておくことである。
情報が命、先ほど言った土産物と土産話である。
c)匿名性を廃する
d)Sense of Wonder
ひいきする公務員としては、ひいきする理由と説得力が必要である。前例踏襲が楽なのはひいきしないからである。
感情豊かな公務員とは、感情的な公務員、感動なき公務員ではないので誤解のないよう。
○質疑
Q)ティボーが足による投票という仮説を唱えているが、浅野知事の講演にもあったが、日本以外の国での自治体の改革の言い出しっぺは納税者、日本の改革は不徹底になりがちだ、という記事を読んだが、そのお考えをお聞きしたい。
A)足による民主主義は発生しない。格差をなくすというのが霞ヶ関の使命だとすれば格差をなくそうとしている。補助金行政をやめて、自主性を重んじると論理的には格差が発生すると思われがちだが、格差が無いように首長は努力する。今の体制は首長が楽な体制である。
Q)地方6団体の改革に関しての案が出たなかで、国の回答を見るとゼロ回答が多い。足して2で割るという形では後退してしまうが、どういう方向になるのか。
A)今の改革の動きは私にとって驚天動地の動きである。知事になっておかしいと思っていたことがこんなに早く現実になっていくとは考えられなかった。新潟の全国知事会議の採決の時には感激して涙が出た。石原知事が手を挙げたのは、質問内容を間違えたからだと言っていたが本心はどうか。今は千載一遇のチャンスである。なんだかんだ言っても小泉首相の「指導力」は大したものである。足して2で割る、という答えになるような問題ではない。本当にどうなるかわからない。梶原さんはすごい。知事会がかなり押し切った形である。
Q)今後の県のあり方について、市町村合併などが進んでも元々の国の構造が変わらないと変わらないのではないか。市町村はいろいろな改革をやっているが、住民との感覚は非常に乖離している。どのように支援されるのか。
A)行政の中核、先端は市町村であるべきだと思う。しかし現実はそうなっていない。ある程度の規模が必要、財政的にも人材的にも。現在は都道府県が代行している部分がある。今後は「当分の間」をどれだけ短縮できるか。県がやるべきことは、目の前で起ころうとしている歴史的な改革を実現させること。先ずこれを勝ち取らなければならない。今すべきことは、道州制の問題を前に出すことではない。市町村が中心にならないとこの国はよくならない。県がやっていることはそのお手伝いという認識でやるべきである。市町村から見ると県が邪魔だと言うだけではなく、今回の地方自立改革の動きの中で、市町村と都道府県が国に対して向かい合っている、というように見られるようになってきた。
Q)浅野知事は自分のあこがれの人である。肢体不自由児の親の会の会長をしていた父から浅野知事の著書を紹介された。今も最重度の障害者がどうやって暮らすべきかという研究会を行っている。今日のレジュメにあった知的障害者施設解体宣言のお話を伺いたい。
A)このレジュメは一言一句私が書いた。これを出したときに知事になってよかったと思った。この質問は、私の胸に響くものである。
知事たるもの、政治家と行政官の関係についてお話したい。
障害福祉課長を怒鳴りつけたことがあった。彼はこれ(知的障害者施設解体宣言)に反対した。行政官の彼としては60点だということである。「施設解体宣言」の意味は、地域に障害者が暮らしていける条件を作る、ということ。しかし、私からすると60点は合格点だが、彼からするとマイナス40点が許せないと言うことである。
島影とは、政治家たる知事は島影を示すべきという考えである。どういう方向を目指すのか。島影はイメージとして遠くにある。「100年かかっても」という島影を示すことが知事の役目である。島影の前には海がある。海は荒れ岩礁もある。しかしどの島影を目指すのかを示さなくては進むことができない。中身の問題ではなく、そういうことを含めても私にとっても大きな存在である。
「Everything Something」と「Something Everything」とは、知事は同じことをずっと掘り進めてはいけない。そういう中でこれを出したことはSomething Everythingに戻ったということである。
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