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組織の危機に関する本
著者名:箭内昇著
出版社:日経ビジネス文庫
紹介:組織の老化を防ぐのは一人ひとりの危機管理と説きます。
感想:著者の箭内さんにメールを出したところ、丁寧な返信をいただきました。以下の点に啓発されました。
・長銀を飛び出してみると、長銀が日本の金融界、さらには経済界全体の縮図であることがはっきりと見えた。日本丸という宇宙船は未知の星雲群に突っ込み、重大な危機を迎えているにもかかわらず、船団全体も地上の宇宙センターもこの危機から目をそむけている。
・その底流にあるのは「これまでうまくやってきたのだから、これからもきっとうまくいく」という思い込み、「この快適な宇宙船を失いたくない」という思い入れ、そして「われわれより優れた飛行士がいるはずがない」という思い上がりだ。
・小さな企業でも、「このままいける」と思ったときから大企業病は始まる。継続的な危機感は、高いレベルの経営目標から生まれるのである。
・三井物産と日本ハムの対応の底流には「顧客や社会よりも自分の企業のほうが大事」という天動説の思想と、「何とか逃げ切れる」「うちを潰せるはずはない」という根拠のない楽観主義と驕りがある。こうした企業に社会的使命の発揮や倫理観を期待するほうが間違っているのかもしれない。
・私の経験でも従業員が500人を超す頃から官僚主義が芽生え、1000人を超えて企業名が売れ始めると「潰れない」という潜在的安心感が広がる。危機感が希薄になるのだ。特にユニクロのようにマスコミの寵児になると世界は自分を中心に回っているという天動説に惑わされて、知らず知らず保守的な風土に染まっていく。
・今まで、多くの大企業や役所で大企業病の話をしてきた。部長や課長など中堅クラスのグループが相手の場合、必ずといってよいほど出てくる質問は、「トップの経営や方針が誤っていると確信した場合、われわれの立場で何ができるのですか」というものだ。
・しかし、この質問は難問である。私自身に失敗経験があるし、それぞれの組織で風土が異なるからだ。結局、私は「まず、胆力を鍛える。そして同志を増やせ」と回答している。
・大企業の中には何の危機意識も持っていない者がたくさんいる。それに比べれば問題意識を持っている者は二倍立派だ。しかし、それを公然と口にするのはその二倍難しい。そらに行動を起こすのはその四倍勇気がいる。
・結局「いざというとき」に自分の信念を貫き、行動を起こせるかという「胆力」の違いがサラリーマンとビジネスマンの分かれ目になる。サラリーマンは企業に運命と人生をゆだね、ビジネスマンは自分を見つけ自分に生きる。その差は企業を去った後に必ず現れる。
・結局、私が得た結論は、そもそも、人間が人間の能力を判断すること自体に限界があるということと、人間の能力は顕在化した場合のみ判別できるということだった。つまり、その仕事が「彼にハマった」ときに、初めて本人も上司も人事部も彼の能力を確信できるということである。
・なぜ、優秀なエリートが失敗を重ねるのか。一言で言えば、優秀であることと経営能力があることはまったく別ものということだ。
・その第一は、「優秀さ」の中身である。私も銀行時代に中枢部門を歩き、他行の経営者やMOF担仲間を見てきた。共通するのは「大学時代の成績がよい」「頭がよい」ということだ。ほとんど東大卒であり、中でも法学部卒が多い。しかし、東大法学部の卒業生がもっとも得意とするのは、調整能力である。
・役所や銀行の会議では、革新的な提案があると出席者からできない理由が山ほど出される。成功したときの喜びよりは、失敗したときのリスクを避けたい一心からだ。時たま出現する改革派と称する政治家や官僚が結局は玉砕しきれないで最後に日和ってしまうのも、やはり失うものを目前にするとひるむからだろう。
・私の属する団塊の世代には、官民含めて無数の勉強会やフォーラムが存在する。「日本の何が問題か」「解決策は何か」など、今晩も東京のどこかで口角泡を飛ばした議論が展開しているはずだ。しかし、このメンバーのほとんどは実は「体制派」であり、ヴィシュヌ神の腕の中にいることに気づいていない。勉強会でいくら勉強しても自己満足で終わり、世界は何も変わらない。
・今や「解決策は何か」ではなく、身を捨てて「どう行動すべきか。何を壊すか」という段階だ。
・日本を変えるには「体制」の中にいるエリートが臆病心を捨て、再生のための破壊に着手するしかない。それは自己否定であり、既得権を喪失することでもあるが、それこそがこれまで体制の中でさまざまな特典を享受してきた者が果たす責任だろう。
・壊してはいけないものを壊し、壊さなければならないものを温存しているわが国
の現状を見ると、壊し方の方法と変革のスピードだけは米国を愚直に真似してほしいという気持ちになるのは私だけであろうか。
・メガバンクの経営者に思い出して欲しい格言がある。「少しの人を長時間だますことはできる。多くの人を短時間だますこともできる。しかし、多くの人を長時間だますことはできない」
・不良債権問題の処理をはじめ、構造改革を実現するには、変えることのできる権力を持った者が目を覚まし、みずから変えるしかない。それは既得権の放棄や自己批判を伴うだろう。
・しかし、その辛い行為こそが地位ある者の義務、責任ではないか。言葉を変えれば地位ある者にしかできない武士道の行為であり、それが「ノブレス・オブリージ」である。エリートはいざというときに身を捨てて責任を果たすからこそエリートであって、責任を果たさないエリートはただの「高級ごくつぶし」にしかすぎず、一歩間違えば「国賊」にもなりかねない。
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