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2005.01.23
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宮部みゆきの集大成だ。連載3年改稿2年をかけたという作品は,上下2巻の分厚い大作だ。有名な監督と有名なタレント主演で映画化もされ話題になったけど,内容がヒドイらしいので観ないつもり。

○ストーリー
真一は,犬の散歩のおり,公園のゴミ箱から若い女性の右腕を発見してしまう。それは日本全国を恐怖と興奮に巻き込む,女性連続誘拐殺人事件の幕開けだった。
忌まわしい過去の思い出に悩む真一,孫娘を殺されてしまった豆腐屋の老主人義男,容疑者の妹由美子,彼等を結びつける役割を担うジャーナリスト滋子,事件全体を見続ける刑事武上。登場人物たちの苦悩の果てに訪れるのは何なのか?

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作品は真一,義男たち犯人の被害者側から事件の発端が描かれる第1部と,由美子,そして犯人たち側から事件の”反対側”が描かれる第2部,そして登場人物たちが事件に翻弄されつつ懸命に対処しようとする第3部,で構成されている。

第2部の存在については,読者の中でも意見が分かれている。確かに欠点として挙げると以下がある。1)第1部とほぼ同じ経過を,ほぼ同じ枚数を費やして描くことで,作品が長くなってしまっている。2)犯人の生い立ちを描くことで,作品の焦点がぼやけてしまっている。

反面,利点としては,由美子の視点で物語を描き,読者の共感を得ることができる,という点がある。

この作品で宮部みゆきが描こうとしている,”事件の直接的間接的被害者の悩み”というテーマを浮かび上がらせるには,どうしても由美子を準主人公に据え,立体的な物語構成とする必要があったのだと思う。

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作品のメインテーマは,”自責”だ。事件の被害者たちは,当初は犯人により翻弄され悩み,次にマスコミの心無い報道により傷付けられ,さらに社会の中傷や排斥により生活が崩壊し,とめどもなく自分を責め続ける。

もちろん無神経なマスコミへの批判,事件に関わったと言うだけで村八分的な対応をする一般人への批判もきちんと伝わるように描かれている。それでも多くの登場人物たちは,その重みに耐え切れず,逃げ回ったり,誰かに責任転嫁をしたりしようとする。その典型が,真一,彼の過去を知るひとみ,そして由美子だ。

多くの大人たちも,真一たちと同じように事件や社会に屈してしまう中,なんとか踏みとどまろうとする強さを見せるのが,豆腐屋の義男とジャーナリストの滋子だ。彼らはまた真一や由美子に手を差し伸べることで,自分たちの強さを奮い立てようとする。

ただし宮部みゆきの視点は厳しく,彼らの悩みと再起への努力を描くことまでが目的のような印象を受ける。義男や滋子の努力が報われて100%のハッピーエンドとなるわけではない。

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作品の”裏のテーマ”あるいは底辺に流れる和音は,”男性への怒り”だろう。女性連続誘拐殺人事件の被害者たち,登場人物たちの由美子,めぐみ,滋子,それぞれがなんらかの形で男性ないし男性社会により不当な扱いを受けることになっている。

一歩間違えば,どんな境遇になっていたかも分からない真一が,どこに行っても親切な人と出会えるという設定に比べ,家庭や学校とうまく行っていない女性たちの結末はどれも悲劇的なものとなっている。それは,宮部みゆきが意識しているか否かは分からないが,感じているに違いない”男性への不公平感・怒り”の発露だろう。

「模倣犯」のタイトルについて読みながら,ずーっと考えていた。クライマックスで,その意味が分かるという,ものすごいチミツな構成に驚かされた。連載で3年間その疑問を抱き続けた読者たちは,よく我慢したもんだ。

読み終わってみると,クライマックスもタイトルも,ある意味で女性の男性への勝利の瞬間となっている。これは深読みかなあ?

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これもあちこちで言われていることだが,推理小説として考えた場合,この作品での犯人の描かれ方はちょっとおかしい。

第1部では「魔術はささやく」の犯人のような天才的犯罪者として登場する。第2部では生い立ちに問題があり,徐々に精神的に崩壊していく過程が描かれ,第1部の手腕は,部分的に運の良さに救われていたことが分かる。第3部においても,それが繰り返され,再度”不気味なまでの手腕”から”子どもっぽい犯罪が偶然により上手くいった”という展開となる。事件全体の残酷さと,物語が起きている時間帯での犯人のもろさがアンバランスになっている。

その結果,この犯人たちが読者に対し,直接に恐怖を駆り立てることがなくなってしまっている。唯一,滋子が犯行現場に乗り込もうとするシーンがそれに近い。

宮部みゆきが描こうとしていた,現代の若者の考え方のブキミさ,みたいなものが,このために薄れてしまっている。生い立ちの不幸をまた持ち出されてもなあ・・・金銭的になんの不自由がなくても,犯罪に手を染めてしまい,親がらみでそれを隠すってのが,実際に世の中で起きている事件のブキミさでしょ。

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と,いろいろ述べてきたけど,この作品は宮部みゆきの代表作であることは間違いないと思う。カタイ作品だけど”らしさ”が薄い「理由」に比べ,この作品の登場人物たちは,どっぷりと宮部みゆきのキャラクターで,その設定の中での限界までのハードさを展開してくれる。決して甘すぎない感動が味わえる。






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Last updated  2005.01.23 12:22:46
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