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2010.09.06
テーマ： 最近、読んだ本を教えて！(24303)
カテゴリ： がちがちハードボイルド
鯨統一郎が2つの顔を持つ包丁人をブラックに描く。
○ストーリー
中野にある小料理屋「ふく嶋」には，刑事の植田と渡辺が常連だ。不思議なことに2人が語る”法律では裁けない犯人”が，凄腕のナイフ使いに命を奪われていた。店のオーナーの福嶋彩乃は，店の板前であり，救世主でもある桃次郎を疑いつつも，いつしか惹かれていく。
－－－－－－－－－－－－
ひじょうに評価の低い作品だが，なぜか個人的にはとても気に入った。
鯨統一郎の作品の大きな特徴として，”意図的な繰り返し”というものがある。連続ドラマ，人気芸人のコントなどを意識していると思えるのだが，連作短編集などで，明らかにワザと同じシチュエーションで，同じセリフを用い，似たような解決へと導くものがある。
フツーの作家だったら，当然こうしたことは避けるのだが，鯨統一郎はあえてそれにチャレンジしている。これに対してキチンと説明している批評はあまり見ない。僕が感じるところでは，悪く言えばワルノリだが，良く言えば繰り返しの定型の枠組みに物語を入れることで，連作短編集としての特徴を強く打ち出している。
－－－－－－－－－－－－
この作品でも，7編の短編を用いて，堂々とした繰り返しが展開される。各編とも事件が起き，その犯人が法律の網をすり抜ける。その一方で小料理屋「ふく嶋」に，7人の料理人から料理対決が持ち込まれる。事件の犯人は謎の男に成敗され，包丁人・桃次郎は謎の隠し味で辛くも対決に勝つ。
この繰り返しを，ワンパターンだと笑い飛ばすのは簡単だが，同じ鯨統一郎作品でも，この作品は趣向が少し異なる。まずは，これまでの鯨作品では，いくつかが破綻していたとは言え，ギリギリミステリーの謎解きという要素があったのだが，この作品ではスッパリと切り捨てられている。
この作品では，いわゆる「闇の仕事人」パターンで，物語は進み，次に料理対決，という和風で統一された展開となる。
－－－－－－－－－－－－
ミステリーを期待した読者には，落胆を与えるらしく，その方面からの評価がいちじるしく低い。けれども，鯨統一郎を評するに当たって，「ミステリーでなければいけない，謎解きが無ければいけない」というスタンスで臨むこと自体が間違いだと思う。
鯨統一郎はサービス精神と稚気にあふれた作家だ。作品には積極的他のジャンルのモチーフを取り込んでおり，必ずしもミステリーのパターンを踏襲しないし，おそらくジャンルとしてのミステリーにもあまり拘泥していないと思われる。
－－－－－－－－－－－－
この作品で言えば，新しく導入したモチーフは明確に2つだ。
1つには現代社会の問題の1つである，裁ききれない犯罪だ。7つの短編で順番に，オヤジ狩り，ストーカー，児童虐待，快楽殺人，同級生への暴行，薬物依存症による殺人，監禁暴行事件。こうした事件の描写に，犯罪者への怒りが盛り込まれているように感じられた。
もう1つは，小料理屋「ふく嶋」で開催される料理人対決だ。順番に，ブリの照り焼き，アジの刺し身（＆大豆の煮物），カレイの煮付け，レバニラ炒め，ソーセージ，焼き鳥，そして鯛茶漬け。
犯罪についても，料理についても，手抜きが無く，まじめに調査をしている印象を受けた。単純な繰り返しでなく，ましてダジャレなどではない。その短編を考え，組み合わせを選んでいる。
－－－－－－－－－－－－
ミステリーとして読むから落胆するのかも知れないが，ハードボイルドの連作短編として読めば楽しめると思う。
ただし隠し味の食材については，さすがの僕もブラック過ぎると思った。
－－－－－－－－－－－－
最後に各編の名称を記しておく。
「冥福を祈るな」
「死んでゆくのはなぜか」
「悪ふざけは嫌いだ」
「厭なことは忘れよう」
「俺は悪魔か」
「怖い人はいなくなれ」
「いつか罰があたる」
○ストーリー
中野にある小料理屋「ふく嶋」には，刑事の植田と渡辺が常連だ。不思議なことに2人が語る”法律では裁けない犯人”が，凄腕のナイフ使いに命を奪われていた。店のオーナーの福嶋彩乃は，店の板前であり，救世主でもある桃次郎を疑いつつも，いつしか惹かれていく。
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ひじょうに評価の低い作品だが，なぜか個人的にはとても気に入った。
鯨統一郎の作品の大きな特徴として，”意図的な繰り返し”というものがある。連続ドラマ，人気芸人のコントなどを意識していると思えるのだが，連作短編集などで，明らかにワザと同じシチュエーションで，同じセリフを用い，似たような解決へと導くものがある。
フツーの作家だったら，当然こうしたことは避けるのだが，鯨統一郎はあえてそれにチャレンジしている。これに対してキチンと説明している批評はあまり見ない。僕が感じるところでは，悪く言えばワルノリだが，良く言えば繰り返しの定型の枠組みに物語を入れることで，連作短編集としての特徴を強く打ち出している。
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この作品でも，7編の短編を用いて，堂々とした繰り返しが展開される。各編とも事件が起き，その犯人が法律の網をすり抜ける。その一方で小料理屋「ふく嶋」に，7人の料理人から料理対決が持ち込まれる。事件の犯人は謎の男に成敗され，包丁人・桃次郎は謎の隠し味で辛くも対決に勝つ。
この繰り返しを，ワンパターンだと笑い飛ばすのは簡単だが，同じ鯨統一郎作品でも，この作品は趣向が少し異なる。まずは，これまでの鯨作品では，いくつかが破綻していたとは言え，ギリギリミステリーの謎解きという要素があったのだが，この作品ではスッパリと切り捨てられている。
この作品では，いわゆる「闇の仕事人」パターンで，物語は進み，次に料理対決，という和風で統一された展開となる。
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ミステリーを期待した読者には，落胆を与えるらしく，その方面からの評価がいちじるしく低い。けれども，鯨統一郎を評するに当たって，「ミステリーでなければいけない，謎解きが無ければいけない」というスタンスで臨むこと自体が間違いだと思う。
鯨統一郎はサービス精神と稚気にあふれた作家だ。作品には積極的他のジャンルのモチーフを取り込んでおり，必ずしもミステリーのパターンを踏襲しないし，おそらくジャンルとしてのミステリーにもあまり拘泥していないと思われる。
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この作品で言えば，新しく導入したモチーフは明確に2つだ。
1つには現代社会の問題の1つである，裁ききれない犯罪だ。7つの短編で順番に，オヤジ狩り，ストーカー，児童虐待，快楽殺人，同級生への暴行，薬物依存症による殺人，監禁暴行事件。こうした事件の描写に，犯罪者への怒りが盛り込まれているように感じられた。
もう1つは，小料理屋「ふく嶋」で開催される料理人対決だ。順番に，ブリの照り焼き，アジの刺し身（＆大豆の煮物），カレイの煮付け，レバニラ炒め，ソーセージ，焼き鳥，そして鯛茶漬け。
犯罪についても，料理についても，手抜きが無く，まじめに調査をしている印象を受けた。単純な繰り返しでなく，ましてダジャレなどではない。その短編を考え，組み合わせを選んでいる。
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ミステリーとして読むから落胆するのかも知れないが，ハードボイルドの連作短編として読めば楽しめると思う。
ただし隠し味の食材については，さすがの僕もブラック過ぎると思った。
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最後に各編の名称を記しておく。
「冥福を祈るな」
「死んでゆくのはなぜか」
「悪ふざけは嫌いだ」
「厭なことは忘れよう」
「俺は悪魔か」
「怖い人はいなくなれ」
「いつか罰があたる」
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