4男5女の部屋

4男5女の部屋

山口 敏太郎



「返してください」
こんな話を聞いた。四国のTという友人。
優秀な民俗学の研究家である。
その丁氏が民俗学の聞き取り調査中に出会った怪談である。
「具体的な地名は伏せてくださいよ」
そう断ると、丁氏はクールな口調で怪談を語りはじめた。
四国の某所に廃病院がある。かつては、そこそこ繁栄し
地元住民にも親しまれた病院であったが、経営難には勝てず
とうとう倒産してしまった。
その白亜の建造物は、いまは朽ち果て、子どもたちに人気の
幽霊屋敷となった。
往時に人でにぎわった建造物ほど、朽ちるにつれ、ほどよい哀愁を
かもし出すらしい。
そのなんともいえない幽寂なムードは、心霊好きの心をくすぐった。
「おい、気をつけろよ」
廃病院は毎夜、心霊マニアの探検にさらされることになった。
ある日、心霊好きのDさんが、同好の仲間と廃病院に踏み込んだ。
「よし、なにか目撃できないかな、スリルを味わいたいね」
「心霊写真が写るといいな、ワクワクするぜ」
Dさんと仲間たちは期待に胸膨らませ、廃病院を捜索した。
だが、期待は裏切られ、なにも起こらず、そのまま帰ることになった。
「なんだよ、心霊スポットっていったって、なんにもないじゃん」
「あ~あ、期待して損したよ」
それもそうだ。ここまできたのに、手ぶらで帰るのも悔しい。
「あっ、そうだ、これ戦利品としてもらっちゃおうか」
「おっ、いいねえ、おれも欲しいよ」
Dさんたちは、病院内に散乱していたカルテを持ち帰ってしまったー。

その日の深夜。Dさん宅に突如、電話がかかってきた。
Dさんが電話に出ると、相手はこういうのだ。

「カルテ……返してください……」

翌日の深夜、ほかのメンバーの家にも電話が鳴った。


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