ワルディーの京都案内

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2021/05/26
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テーマ: 京都。(6078)
カテゴリ: 若冲と応挙
【2021年5月26日(水)】

 昨日は、午前、午後、別々の会の用事で事務所に出向きました。サプライズの件もあり、今日で会の勤務最後の方にご挨拶をさせていただくなど、濃厚な一日でした。

 歯の痛みは続き、昨日も昼間と寝る前に鎮痛剤を服用したのですが、今日は、昨晩服用してから12時間経った今も痛くはないので、治まりつつあるのかなと思います。痛みが続くようであれば、歯医者に駆け込もうかと思ったのですが、見合わせました。

 昨日は雨は降りませんでしたが、曇り空で、残念ながら皆既月食を見ることはできませんでした。今日はまた雨です。本当に梅雨らしい天気が続きます。6月1日の月イチ打ち合わせに向け、準備を進めました。


「奇想の画家 若冲と応挙」の12回目。当時そして現代の若冲人気について探ります。


◆第2章 伊藤若冲(続き)

2-8 若冲人気

 若冲は、第1回で述べた 辻惟雄 氏の 「奇想の系譜」 で紹介されましたが、その後も一般の人々にとっては、まだまだ無名の存在でした。一般の人々が名前を知るようになり、いわゆる「若冲ブーム」が起こったきっかけが、平成12年(2000年)に京都国立博物館で開催された 「特別展覧会 没後200年若冲」 だったといわれています。 「こんな絵描きが日本にいた」 というキャッチコピーでした。この言葉のように、皆さんの中にも、「生前から最近までずっと埋もれていた画家」という印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。決してはそうではなかったということも含めて、以降の若冲の生涯を紹介していきたいと思います。なお、第10回で紹介した プライス・コレクション の作品群も、このときに多く展示され、一般の方もジョー・プライス氏の名を知るようになり、海外に多くの若冲作品が流出したことが認知されることになりました。

 若冲によって相国寺に寄進された 「動植綵絵」 「釈迦三尊像」 は、その後どのように扱われたのでしょうか。

 明和3年(1766)若冲51歳のとき、真如堂本尊開帳の際に、相国寺方丈室中正面に「釈迦三尊像」、左右に「動植綵絵」12幅が飾られ、同年、相国寺例年の虫干しで「釈迦三尊像」と「動植綵絵」24幅(まだ24幅しかなかった頃)が、中の間に掛けられました。

 続いて、明和6年(1769)若冲54歳のときには、相国寺 閣懴法 に「釈迦三尊」と「動植綵絵」が掛けられました。閣懴法とは、観音菩薩に帰命信従して、自己の罪業を懺悔する儀式です。相国寺のそれは京の年中行事になっていました。以降、毎年掛けられ、その折には、門前に出店が軒を連ね、多くの参拝者が列を作りました。これらは相国寺の記録に残っています。

 真如堂開帳の際や、虫干しの際は、どこまで一般の人々に公開されたかは、私自身は詳しく研究できていませんが、少なくとも閣懴法の際は、一般にも公開され人気を博したようです。真如堂開帳の際や虫干しの際に、若冲作品を目にした一部の人々から口コミで伝わって、閣懴法での人気に繋がったのかもしれません。「釈迦三尊像」は仏画ですが、仏教には 「草木国土悉皆成仏」 (草木や国土のような非情なものも,仏性を具有して成仏する)という考え方がありますので、「動植綵絵」も一種の宗教画といえるでしょう。若冲も「釈迦三尊像」の脇幅という意味を込めて「動植綵絵」を寄進したのでしょう。相国寺もそういう意味を込めて、「釈迦三尊像」と「動植綵絵」を並べて公開したとのだ思いますが、お寺の宣伝にもなったのではないかと思います。そんなことは解説本には書いてありませんが。

 明治時代になると、この脇幅の「動植綵絵」が、廃仏毀釈で困窮する相国寺を助けることになります。明治5年(1872)に 「京都博覧会」 が開かれました。その後毎年開かれ、昭和3年まで続きました。明治5年の第1回では、西本願寺も会場となり、そこに「動植綵絵」30幅が展示されました。その後の「京都博覧会」でも、何度か展示されました。幾ばくかの出展料が相国寺を助けたはずです。

 しかし、廃仏毀釈による相国寺の疲弊はさらに続き、ついに明治22年(1889)、京都府知事の斡旋で、「動植綵絵」は、皇室に献上されることになり、見返りとして1万円(詳しくは分かりませんが、当時の1万円は相当の価値です)の下賜金が相国寺に納められました。これによって、相国寺は失われようとしていた寺地を確保することができました。今の相国寺の姿があるのは、「動植綵絵」のお陰だと言っても過言ではありません。

 このように、若冲は江戸時代の生前から、明治前半に至るまで、一般の人々にも人気があった画家なのです。決して平成になって、初めて発掘された画家ではないのです。では、何故最近まで注目されなかったのでしょうか。「動植綵絵」は明治中期に皇室への献上によって、 御物(ごもつ、ぎょぶつ) になりました。これによって若冲の代名詞でもあり、一番の飛び抜けた代表作群である「動植綵絵」が一般に人々の目に触れる機会が無くなってしまいました。こういったことも一つの要因となって、最近まであまり注目されることがなかったのかもしれません。

 昭和天皇崩御後、平成元年(1989)に「動植綵絵」は国に寄贈され、 宮内庁三の丸尚蔵館 蔵となりました。それが2000年の特別展が企画・開催に繋がり、若冲ブームに火が点くことになりました。

 さて、江戸時代若冲の生前時代には、若冲の人気がいかに高かったかを示す、動かぬ証拠があります。 「平安人物志」 という書物です。江戸時代中期から後期にかけて刊行された書物で、京都の市井の各方面の文化人を紹介し、人気番付のかたちで掲載しています。明和5年(1768)から慶應3年(1867)にかけて、計9回刊行されました。平均すると約12年に一度の刊行で、都度アップデートされました。「画家」の項もあり、京都の市井の画家の人気番付を知ることができます。死亡すると名簿から抹消されますので、若冲の名が記載されているのは、明和5年(1768)版、安永4年(1775)版、天明2年(1782)版ということになります。

 まず、明和5年版(1768)(下図)を見てみましょう。右から左へ1番人気、2番人気と続きます。


「平安人物志」明和5年(1768)版 画家の項
(赤の四角は、筆者追加。現在もよく知られた画家。他の版も同様)



 番付1位は「 大西酔月 」。いきなり名前も聞いたことのない画家です。このように我々のあまり知らない画家も多く記載されているので、よく知られた画家だけピックアップしていきましょう。2位: 円山主水(応挙) 、3位: 若冲 、4位: 池野秋平(池大雅) 、5位: 与謝蕪村 、9位: 嶋田内蔵助 島田元直 ・応挙の弟子)、16位: 玉蘭 (池大雅の妻)。後に詳しく紹介する応挙が堂々2位に入っています。若冲は3位。応挙だけでなく、弟子の島田元直もランキングに入っていることが注目されます。

 次に、明和5年版の7年後に刊行された、安永4年版(1775)(下図)を見てみましょう。


「平安人物志」安永4(1775)版 画家の項 



 明和5年版で1位だった大西酔月は亡くなったため、もはやランキングには登場しません。替わって1位になったのが、円山応挙、そして2位が若冲、3位:池大雅、4位:与謝蕪村、5位:島田元直、6位:玉蘭と続きます。このあたりまでは、明和5年版と同じような顔ぶれですが、以降、新しい顔ぶれが加わります。11位: 原在中 、12位: 松村文蔵 呉春 、円山派から派生した 四条派 の祖)、14位: 駒井幸之助 源琦 、応挙の弟子)、15位: 曾我蕭白 。「奇想の画家」の一人、曾我蕭白が加わり、円山派関係の画家がさらに加わっています。

 その7年後の天明2年版(1782)(下図)を見てみましょう。

「平安人物志」 天明2年版(1782) 画家の項



 1位:応挙、2位:若冲、3位:蕪村、4位:島田元直(名が変わって嶋田主計頭<かずえのかみ>)、9位:原在中、11位:源琦です。大雅が亡くなったので登場しませんが、1位、2位の応挙、若冲は動かず、蕪村も3位と相変わらず強いです。15位: 山本主水 山本守礼 、応挙の弟子)、19位: 岸健亮 岸駒 、岸派の祖)、20位: 長沢蘆雪 (応挙の弟子、奇想の画家の一人)が新たに登場します。25位に玉蘭です。

 このように、応挙、若冲は常に大人気でした。若冲は決して埋もれていた画家ではなく、生前から非常に人気の高い画家だったということが、この「平安人物志」からも知ることができます。それから、多くの応挙の弟子も人気があったことが分かります。このことは、応挙の紹介のところで触れたいと思います。また、このような「人物志」が何度も刊行されたのは、経済力をつけた町人たちが、価値のある絵画とか書を手に入るための参考にするという需要があったからだと考えられます。町人文化の発展の一端を示す事実といえるでしょう。絵描きを目指す人が、誰に弟子入りしたらいいのかを考える指針になったのかもしれません。


 次回から、若冲の老年期、晩年に入っていきます。


前回はこちら 次回はこちら



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最終更新日  2021/06/01 11:52:25 AM
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