勝手に最遊記Ⅱ

Decision―4

宿での夕食。　普段通りに皆がテーブルを囲んだ・・・のだが。　静まりかえったテーブル。
黙々と食事を続ける面々は、普通のヒトから見れば・・・“普通”なんだろうけど。

「・・・ぁ、のさ、悟浄・・・・。」「・・煩せぇ。」悟浄が口を開く前に、三蔵が紫暗を細めた。

居心地の悪い空気が――――――――テーブルを支配する。　喉に入れた、焼売の味も判らない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙。　八戒も　悟浄も　三蔵も

　　　　　　　　　　　　　　　誰も　　　　　　・・・・・誰も。　　悟空と目線を交わそうとは、しない。

――――― ダアンッ】 ・・・・・悟空の拳が、テーブルに叩き付けられた。

「・・・なんなんだ、てめぇ・・・。」　常人なら、卒倒しそうな程の剣呑な目つきで。八戒と悟浄も、唖然として。

「なんでっ・・避けるんだよっ！？桃花の事、気にしてるクセに！！いい加減、意地張んのは止めろよ！」叩き付けた拳が、震えている。

「いい加減にするのは、てめぇの方だろうが！」ガタッと。席を立ち上がり掛けた三蔵を抑え、
「悟空！・・しょうがないじゃないですか。」諭すように八戒が宥めた。
「そうそ。・・・別れた女のケツを追っかけるなんて、カッコイイもんじゃねーぜ？」悟浄も、肩を竦めて吐き出すように言う。

「悟浄だって八戒だってっ・・「黙れ、悟空。」ピシャリ、と。三蔵が低い声を出す。明らかに――――心底怒っている時の声。

悟空の肩が、ビクッと揺れた。・・・普段なら、この声を出した時の三蔵に逆らうなど、考えられ無い。のだが。

「・・・俺は、間違ってないっ・・！」　挑戦的に、三蔵を睨み付ける悟空。「貴様っ・・・！」青筋を立てて、立ち上がった三蔵。

「三蔵！悟空っ！・・悟空、貴方の気持ちは判ります。ですが、冷静に考えて下さい。
桃花がこのまま一緒に旅を続けられると思います？」
「戦闘は激しくなる一方だわな。アイツの性格判ってんだろ？俺らに危険が迫ったら、あのオンナに取り憑かれた時みてぇに
迷惑掛けるぐらいなら、アイツ、死を選ぶ。」

――――――そんなのは、ご免だ、と。　　苦い顔で俯いた悟浄。その想いは、三蔵も八戒も同じで。

もう、二度と　大事なモノを目の前で失うなんて―――――――・・・「目の前で死ななきゃイイのかよ！？」

悟空の厳しい声に、ハッと顔を上げた。

「目の前で死ぬのを見るのが怖い？バッカみてぇ！！知らないトコで死なれるより、よっぽどマシじゃねーか！別れるのが桃花の為？
ハッ！俺らがいつ、他人（ヒト）のコトなんか考えたよ？いつだって自分の為だけに生きてきたジャン！！」

――――――――――――八戒が、　　　　　　　　　　　「俺はイヤだかんな！桃花が怒ったって喚いたって・・」

――――――――――――悟浄が、　　　　　　　　　　　「絶対、死なせたりしない！もしも、死ぬとしたら・・」

――――――――――――三蔵が、　　　　　　　　　　　「俺の腕の中で死なせてやる！独りぼっちで、死なせたりするもんか！」

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　・・・・痛そうに、顔を歪めた。

「・・・カッコ悪くったってイイじゃねーかっ！！追っかけて、連れ戻せばイイ！桃花の為なんて綺麗事じゃなくって、
俺ら、自分自身の為に！やせ我慢して、大人のフリなんかしたくねーよ！！八戒だって、悟浄だって、三蔵だって・・・
欲しいモンは欲しいって叫べばイイジャンかっ！！」

・・・一気に。鬱憤（うっぷん）を吐き出すように怒鳴った悟空。はぁはぁと、肩で息をつきながら、
「その情けねぇ・・・“捨てられた子犬”みてぇな面してるクセにっ・・ 【ガツッ!! ガラガンガッシャアアンッ―――――

・・・・三蔵に顔を殴られ、悟空の小柄な体が吹っ飛んだ。

椅子はおろか、テーブルも食器もひっくり返り、店内中が静まり返った。

「三蔵っ！！」再度、掴みかかろうとした三蔵を悟浄が抑え、八戒が間に立ちはだかる。

「てめぇにっ・・・てめぇに、何が判るって言うんだっ！！」　　アイツが　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　“バイバイ、三蔵”

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　アイツが　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　俺に、背中を向けたんだ

・・・ふぅっと息を吐き、悟浄の腕を振り解いた。

「・・・・そんなに降りたきゃ、勝手に降りろ。」冷ややかな三蔵の声に、「勝手にするよ！・・ 三蔵のバカ野郎っ！！ 」
ダアアッと、悟空が食堂を飛び出して行く。

周囲の視線が集まる中、三蔵も素知らぬ顔で食堂を出て行った。

「・・・・やれやれ、ですね・・・・。」割れたビールのグラスを拾いながら、「・・全く、悟空には・・・。」
敵いませんね、と。八戒の顔に苦笑が浮かぶ。

純真で、ストレートな心。　嘘偽りのない、その声が。　自分達の防御をいとも容易く打ち砕いてしまう。
隠そう、隠そうとしている・・・・自分達の弱い、部分を。　失うことを恐れている、自分の心を。声を。

「・・・貴方はどうするんです？」　席を立った悟浄に、問いかけた。「・・さぁな。ちょっくら考えてみるわ。」

お前も考えんだろ？・・・そう問いかけられて。「・・・・ええ。」小さく頷いた。

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