★人生はホラー映画★ただいま労災で休職中★投稿すると抹殺人生★人生は運が全て★

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2006年04月11日
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 最後を締める壮大な音楽も、終ってしまった。すでに次の上演を待つ観客たちが、入り始めている。
 若いカップルの女が、いい場所から離れない二人を、早く空けてといった視線でうながしていた。
「泣いてるのか?」
 荻原の低い声が聞こえて、飛び出しそうな心臓を押し戻した。
「い、いえ」「そうです。ヒロインがステキで」
「追いかけてくる女か。俺は静かに、待ってくれる女がいいけど。この場合は仕方がないか。作り物だし」
「ヒロインは、地のはてに追われていく男を追いかける。男のこれからの運命は苛酷なのだとわかっていても、彼女の気持ちは変わらない。だから、彼を追っていった。あぁ、かっこいい」
「これは映画だろ。現実はどうかな? やっぱり女性は経済的安定を(幸せになる)ことにの基準にするだろう。わざわざ不幸を背負うかな? 安定しているほうが、子供も安心して生めるし。老後も安心だ」
「荻原さんって、現実的で夢がない人ですね」
「男だから。夢はいつまでも追っていけないって知っているから。俺だって、夢はあった。けれど、あっけなく壊れたよ。だから今は給料をもらうために現実を受け入れて、それなりに任務を遂行している。生きるためにカネは必要だろ?」
 そこで二人の会話は終ってしまった。どちらも何も言わないまま、劇場を出た。
 みすずがはっと我にかえって、立ち止まった。
「どうしたんだ?」
「あっと、えっと。混んでるなって」
 河村隆二がいるかもしれない。二人ここで出会ったら、トラブルになるかもしれない。
 あの河村のことだ。何も起こらないはずはない。荻原と昔の男とのトラブルはさけたいと思った。
「荻原さん、混んでるからエレベーターはやめて、階段にしましょう」
「階段って、ここ四階だよ」「お願いします」
 そういって、荻原を非常階段というシールを貼ってあるドアの方へひっぱっていった。
 はずみで手を握ってしまった。まだ、ただの同僚なのにだ。シャツをひっぱればよかった。
「あ、すいません」二十数年の年月を経てきた、武骨な手だった。あらゆる摩擦に耐え、マメを何度も作ってきたような感じだ。その感触に驚いて、ぱっと離す。
「べつに、いいけど」荻原は鈍く反応した。
 二人が顔を見合わせたとき、妙な気配がした。観察されている。
「あれ、みすず?」
 聞いたことのある声がした。振り返るとそこにミカと岸田がいた。「あー?」
「まさか、そちらもデートだなんてな」岸田は皮肉っぽく笑って、手を握ったままのみすずと荻原を見ている。
「金子さんが、一人で映画を観にきたって言ったから、それなら一緒に観ようかということになった」
「へぇ、荻原にしちゃ進歩だな」「そういうわけじゃ。男が一人っていうのもな」
「ま、いいじゃないか。俺たちはこれから観るよ。面白かったか?」
「女性向きかな。男は現実的だから、よくわからないよ」「はは、そうだな」
 岸田は面白がっている風で手を振りながら、そのままミカと劇場へと入っていった。もちろん二人も(愛と宿命の荒野)を観るらしい。
 岸田はミカに合わせたのかもしれないし、女を落とすにはラブストーリーと思ったのかもしれない。

 荻原とみすずは、強引な彼女の意志で四階から一階へと下りていった。ビルディングの脇に出るので、入り口付近をうろうろしているかもしれない河村には会わなかった。
「!」携帯電話の着信音だ。自分のメロディだったので、慌てて探した。
 こういうときは便利だ。昔なら、数人がいっせいに探したものだ。
「河村?」「え?」
 小さなディスプレイに現われた電話番号は、河村隆二のものだった。
「誰だい? 出てもいいよ」「あ」
 みすずは出ようか出まいか、迷っていた。きっと十時五分すぎに来ても、みすずがいないので何度もかけてきたのだろう。劇場内にいたので、今までかからなかったのだ。最近の劇場は電波を遮断している。
 ここで出てしまえば、河村のたまりにたまっていた怒りが爆発するだろう。
 いきなり怒鳴りだすに違いない。そうなると、せっかくのこのムードがだいなしだ。
 あの男の声は、しばらく聞きたくはない。
「あ、あの、きっとワンギリのアレです。悪名高い出会い系です。コンピューターで無作為にかけさせるっていうヤラシイのです」
「そっか」
「ランチにしましょう」「そういえば、昼だな」
 腹をさすっている荻原を連れて、グルメガイドで選んでおいたカフェレストランへ向かって歩いた。
 すると、近道だと荻原を連れていった道には、恋人たちのためのホテルが乱立していた。
「このあたりは、ラブホテルばかりだな」 「え、そうですね」
「普通に歩いていても、こうやってあるんだ」
「今は、ブティックホテルとかおしゃれにいうんですよ」
 なんて馬鹿な話をしているんだろうと思った。さっさと通り抜けて、ホテルから意識をそらそうと思っていたのに、どんどん深みにはまってゆく。
 (恋人)ではない二人がやってきても、トキメキはない。ただの動悸息切れがするだけだ。それでも、奇妙な振動が胸の奥でしている。荻原の手を握っているからだろうか。
「なるほどね。そういうことには疎いから。イタメシ並みに難解だな。俺なんて、ディズニーランドにシーとかいう、新しいパークができたことも最近まで知らなかった。東京に住んでいるのにな」
「あ、あそこです。あのカフェレストランです。もうすぐですよ」
 話をそらせることができたほっとした。
「いらっしゃいませ」
 入ってみてしまったと思った。ここは河村用だったのだ。少し高めだったが、どうせ河村が出すからいいかと選んでいた店だ。同僚の荻原と入るには、ちょっとバツが悪い。
おごらせるわけにはいかないが、荻原の男としてのプライドで彼からは嫌だとは言えないだろう。
「や、やっぱり、ファーストフード店にしましょうか。ここってちょっと高いみたい。たしか道路の向こう側にあったような」
 みすずは席に案内しようとしたウエイトレスを無視するように、きびすを返した。
「俺は別にいいよ。割勘でいいなら」「そうですね」助かった。
 結局、荻原の許可が出てその店になった。うまくまとまり、二人とも嫌な思いをすることもない。
 グルメガイドにデートにおすすめとあったので、同じようなカップルがたくさんいた。時間もちょうどランチタイムだ。
 乾いたノドを癒すように、グラスの水を飲み干す荻原を眺めながら、みすずは白馬を駆る荒野の男を、思い出していた。
 赤く乾いた大地。大地を切り裂くように突き抜ける岩盤。
 荒れ狂う砂煙のなか、懸命に女を救出に向かう男。
 負傷し濁流に飲まれながらも、男は女の元へと戻ってくる。
 女の運命は、その男にゆだねられていた。
 旅に出ようか。運命の男を探すために。






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最終更新日  2013年05月04日 11時16分15秒
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