★人生はホラー映画★ただいま労災で休職中★投稿すると抹殺人生★人生は運が全て★

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2011.10.13
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「カノウリュウカ?」「そ、そうだけど」
 いきなり背後から声をかけられた。加納が答えて振り向くと、大男のシルエットがあった。知り合いに会うはずはないと思った。
 男の影は、歓楽街の人工照明を背にして、巨大に映っていた。男は二人の肩をつかむと、コンクリートの箱の脇にひきずっていった。
「ど、どうしたの。加納くん?」
「なんだ?」わけがわからない。「カノウ、オマエガワルイ」
 男は大きなナイフを突き出した。確実に、加納の胸元に凶器を突き付けていた。それでも加納は声も出さないで、男の次の行動をはかっていた。
 酔っていた上川も異常な状況に気づいて、小さな悲鳴をあげた。
(強盗だ!)一気に酔いも覚めて、脳細胞が立ち上がった。それでも夜の喧騒の中では、喚声や車の音などに巻き込まれて消えてしまった。男には訛りがあった。沖縄県人がいうと、こんな風になるのだろうかと思いながら、いきなり刺されて殺されるという通り魔事件を思い出した。強盗ならカネをだせといわれても、渡せば殺されずにすむ。だが強盗でなければ、快楽殺人のような通り魔なら理由もなく殺されるのだ。
「た、たすけて!」上川は力のかぎり叫んで、飛び付いてオトコの手をかんだ。加納がやっと行動を起こして、男を突き倒す。それでも男はすぐに体勢を整えた。こんな修羅場に慣れているらしい。
 加納と上川は、何度も大きな刃物を振りおろされて、ホラー映画のなかの犠牲者のように逃げ回った。なんとかかわしていると、パトカーらしい音が聞こえたので、男ははっとした。逃げるかどうするかを、判断しているようだ。いまだ。
「加納クン逃げて!」
 上川は加納の背中を突いて、逃げるようにうながした。二人は二方向にわかれて逃げる。幸運なことに男は追ってこなかった。もしかしたら加納の方に行ったのだろうかと、上川は不安になった。それでも夜の人工照明のなかに、男の影は見えない。何度も振り返って、確認する。まるで、トップを走るマラソン選手のようだ。追われるものは、必ず背後を振り返る。振り返らない勇気があるほど、上川は強者ではない。
「逃げ切れたかしら。人通りが少なくなって、油断できないわ」
「カノウオマエガワルイ」というのはなんのことかと、思考をめぐらせた。オトコは彼を知っていたのだろうか? 加納のことはいまだによくわからない。もちろん、まだ五ヵ月あまりしか付き合いはない。
 上川は加納とはぐれてしまったので、ホテルへ戻るためにタクシーを止めようと、幹線道路まで出てきて手をあげた。一台のタクシーがウインカーを出して、こちらへと寄ってくる。乗ってしまえば、逃げ切れるはずだ。まさか沖縄で、いきなり強盗にあうとはついてないと思った。タクシーのドアが開いたと同時に、加納が手をあげながら走ってきた。
「上川さん、早く乗ってください」
「加納クン。よかったわ、無事で」
 加納にせかされるようにして、タクシーに乗り込んだ。続いて、加納も乗り込む。シートに身を沈めると、ドクドクと高鳴っていた心臓が静かになった。慌てて胸を押さえる。加納の横顔を見ると、汗をべっとりとかいていた。冷汗だろうかと思った。
「警察に届けなきゃ」「ただの強盗ですよ」
「でも」「あいつアメリカ兵だ。ここは多いから。たぶんそうです」
「外人だったんだ? 訛りがあるのかと思ったわ。違ったのね」
 体の大きな強盗から、逃げ切れてよかったと思った。もし相手が狂暴で本気なら、殺されていたかもしれないではないか。
「誰もカツアゲ程度じゃ本気で探さない。関わり合いにならないほうがいい。それに色々と聞かれたらめんどうだ。つきまとわれたりね。俺は経験あるんです。取材に支障をきたしますよ」
「そうかしら」
 加納の忠告をきいて、やめることにした。ここには仕事にきたのだ。まだ取材は始まったばかり。ジャーナリストとしての良心には反するが、仕事がすむ前に面倒なことにまきこまれたくはなかった。
 第一夜は強盗に出会った。男は、ディープな沖縄の夜に消えてしまった。


恐怖の夜を生き延びて、二人はホテルへと行った。チェックインをしていなかったので、すぐにすませる。そこで二人は二部屋に別れた。
 自分の部屋に入った加納は、飛行機で拾った胸ポケットの小瓶のことを思い出した。確か、上川の座席の下に落ちていたものだ。
「・・・・・・morphine。モルヒネか」
 出してみてラベルを慎重に読んでみると、確かにモルヒネとあった。間違いではないらしい。加納は思いついたように、辞書をひいてみた。
(モルヒネ。アヘンに含まれるアルカロイド。痛覚だけを抑制し、麻酔罪。鎮痛剤に用いる。習慣性が著しい)
「鎮痛剤? ホスピスなどで末期ガンの痛みを和らげるのに、使うやつだ。まさか彼女がガン? あんなに元気なのに。それとも何かの古傷の痛み止めなのか?」
 本当に彼女のものだったのか? 掃除もしているはずだが、先のフライトの客かもしれなかった。明日、訊いてみようかと思ったが、訊いたところでどうするのだ。しばらくは気づかなかったふりをしよう。東京に戻ってから、それとなく確かめることにする。
 疲れたので何もしないで、ベッドに体を横たえた。ベッドが自分の体の重みで沈み込むと、それが自身の深呼吸に思えた。カーテンの開けられた窓から夜の海が見える。船はなく、波間に反射している月光だけが、海の存在を示していた。
 傷ついた女性たちへの取材は難しい。もう一日を無駄にした。このまま「ディープな沖縄」に差し変わりそうだ。こうなったら沖縄戦の主な跡地でも回って、戦没者の取材に切り替えるのもいい。
 終戦から六十年あまり。すでに戦後は終わったと言われている。記憶している者はもう一握りの年配者だけだ。今では悲劇性も薄れ観光地化しているが、この島にはそういった場所が無数にある。
 アメリカ軍の激しい爆撃のなか、当時の沖縄県知事は行方不明になった。沖縄はすでに捨て石にされることが決まっており、着任を嫌がる人々の中で彼は勇敢にも沖縄へと赴任し、人々と共に消えていった。彼はすべてを承知して、死地へと向かったのだ。
 沖縄は広島や長崎の原爆の慰霊碑ほどは世界的に有名ではないし、本土には空襲の悲劇がある。教科書で「凧になったおかあさん」という童話を読み、子供心に涙したこともあった。空襲の中を逃げ回る母親がお腹をすかせた子供に乳を飲ませ、乳を含ませた後、凧のようになって空に飛んでいってしまうというものだった。挿し絵では母親の姿が凧のように描かれてあったので、フランダースの犬の次に衝撃的だった。空襲も原爆も知らないが、母親はいつの時代も子供のために死んでゆくものなのだと思った。だがこの南の島にも多数の死者がいるのだ。日本史の中に埋もれることなく、忘れられたくはないが、過去を忘れることで、人は未来を生きて行くのかもしれない。
 筋肉をおとさないために、風呂の前に鍛練をする。腹筋と片手腕立て伏せを二百本づつだ。毎日朝と夜にこれをやって、朝は四キロ走ることが日課だ。沖縄では仕事がメインなので、ジョキングはしない。風呂場に入る度に体中の傷を見て、網膜に焼きつける。あざではなく、刺青のように肌に呪咀は刻まれている。
 今夜の男のことが気になった。あいつは俺を知っていた? 俺をカノウリュウと呼んで、殺そうとした。強盗にあうことはあっても、殺される覚えはない。ベテランのジャーナリストであれば、取材での情報収集活動でのもめ事なども数多くあるだろう。権力者や裏社会との癒着などを記事にしたりして、記事にしたことでヤクザに恨みをかうこともあるかもしれない。だが自分はまだ新人だ。何をしたというのだ。
 まさか東京から外人が追ってきたとは思えない。自分が動くことが、何かを刺激するのだ。やはり東京を離れるべきではなかった。ここに来るべきではなかった。
 深いため息をついて、両手で顔をおおった。軽い筋肉の疲労が心地いい。呪いの言葉は汗をかいても、消えることはない。加納は明日のために早く眠ることにした。

 午前七時半、昨夜の打ち合せどおり、二人はロビーで落ち合った。朝のメニューの後、シャワーを浴びたので、まだ石けんの匂いがする。
 上川はすでにメイクをすませていた。やはりこういうところは女の性だろうかと加納は思った。女は殺されかけても、どんなに恐ろしい目にあっても、夜が明けると立直っている。そういうところが長寿の秘訣なのかもしれないと考えた。昨日とルージュの色が変わっていた。
「おはよう、昨夜はついてなかったわね」「そうですね。今日はどうしますか?」
「あたしは沖縄は初めてだから、最初に沖縄の主要なところを見て、
モチベーションを高めたいわ。沖縄の風や匂いをたっぷりと浴びることが、そこに生きる女性たちの心情を汲み取るためには必要だと思うのよ」冴子は力説した。
「いいですよ。この取材がダメになったら、沖縄戦の特集にしませんか。それなら取材もしやすいですよ」
「そうね、それはいい考えだわ。加納くん、あなたジャーナリストの顔になってきたわね。いい顔だわ」
「じゃあ、今日は南部戦跡周辺を順番に回りましょう。ここは那覇から二十キロ圏内で、沖縄戦最大の激戦地の戦跡や慰霊塔があります。玉泉洞から平和の礎、ひめゆりの塔などを合理的に回ることができます。上川さんがほしがってた琉球ガラスもここで手に入りますよ」「ま、それは別にいいんだけど。仕事第一だから」
 イスに座っている加納の足に目がいくと、膝下が長いので羨ましいと冴子は思った。自分の足ももう少し長ければ、パンツスーツももっと決まったのにと思う。遠めで見てもいつも加納をみつけることができるのは、この足のせいだと思った。
 今日の予定が決まって、朝食をすませる。手配したタクシーを止めておきますといった加納が出ていった。席にデニムのベストを忘れていたので、声をかけるがもういなかった。ベストのたくさんのポケットはいっぱいに物がしまわれていた。携帯電話にペンにメモに、それから若い男は何を持っているのだろうと上川は思った。これにはたくさん小物をしまえるからか、加納は愛用していた。ほとんどこれとスーパーで買ったようなシャツを着ている。恋人はいないのかもしれない。もしいたとしたら、うるさく言われてもっとセンスがいいだろう。男のファッションセンスを磨くのは、たいていは恋人の女だ。
 ポケットにこっそり手を入れてみた。定期入れがあった。自宅から社までの通勤定期券だ。加納はいつもこれしか持っていない。サイフはいつも二、三百円しかなかった。一度は給料をもらっているはずである。よほどのマンションにでも住んで、高額の家賃でも払っているのだろうかと思う。
 たしかにサイフに金を入れておかないことが、一番の無駄遣いをふせげると聞いたことがある。まだ若いのに結婚のための貯金でもしているのだろうか。
 定期入れを開けてみると、女性との写真があった。加納と並んで映っている。十代のような加納と若い女。かなりの美女だったので、驚いた。白人だ。真っ白な肌に、くっきりとした双眸。美しくあがったまつ毛。髪はハニーブラウン。典型的な白人の容貌だ。誘うような強烈な視線を、カメラを持つ者に向けている。日本で知合ったか、それとも留学経験があってそこで知合った女性かと思った。やはりもてるんだなと感心していた。たさの知り合いだったのか、それとも恋人だったのだろうか。なぜか気になる。しばらくして加納が戻ってきて手を振ったので、意気揚揚と取材に向かった。









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最終更新日  2013.04.12 21:58:49
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