★人生はホラー映画★ただいま労災で休職中★投稿すると抹殺人生★人生は運が全て★

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2013.01.14
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「過剰9
 ほんの数時間で、情報がやって来た。どういうルートを使ったのか、零細警備会社の割りにこういうことは妙に早い。保安部長はまるで捜査本部をしきる捜査一課長のように胸を張り、説明を始めた。
 部長は刑事にはなったが、警視庁の警察官憧れの捜査一課には一度も正式に所属できなかった。所轄署の刑事として捜査に加わっただけだ。つまりアシスト止まりだったらしい。いまでもそのことにこだわっていて、こうしていつも捜査一課のデカチョウになりきっている。まるでバーチャルリアリティのゲームに参加しているようで、哀れでもあった。
「事件は六月二日午前五時半に、東信ビル八階の健康食品会社「ジャパンイヤー」の高村俊彦がメッタ刺しにされていたのが、朝見回りをしていた管理人が発見したことから発覚した。死亡推定時刻はおよそ六月一日の午後九時半頃だと思われる。高村氏の会社は中国から輸入した漢方系の食品を通販で売っていたが、副作用が確認されて怒鳴り込まれたことがある。裏でヤクザが絡んでいるというウワサもあった。不良会社である。他にも闇で金貸しをしていて、取り立ても厳しかった。という諸事情から怨恨の線が強いが、あまりにも容疑者が多く、その中から金を借りていた男を一人参考人として事情聴取した。取り調べでも、殺しに行ったなどそれらしいことをほのめかしている」
「八階か。美咲陽子のオフィスと同じくらいの高さだな」
「会社に行くんですか? これから?」
「ええ、何かつかめそうです。延長料金は取りませんから付き合ってください」
 きょとんとしている陽子を車に乗せて、また彼女のオフィスに戻ってきた。警備にわけを言って入れてもらう。朝、制服を借りるときに丁重に礼をしていたので、上手く行った。やはり袖のしたは使うものだ。
 二つもあるオフィスのカギを開けて、ずんずんと中へ入って行った。すでの十一時を過ぎていて、残業も終わっていた。まるで墓場のように静かだ。夜はオフィスも怪しげな場所にすぎなくなる。
「六月一日の夜ことを覚えていますか?」
「そうですね。あの日はたしかに夏号の編集のために残業していました。でも、ひと区切りついたので午後九時にはほとんどの者が帰ってしまいました。九時半頃に残っていたのは、あたしと課長と主任、そして新人の竜田君だけでした」
「四人ですか」「えぇ、それは確かです」
「それでは、その四人がどの辺りにいたか覚えていますか?」
「そうねぇ。課長はそっちの課長の席にいて、資料を見ていたの。主任はそちらの奥で商品の確認。竜田君は片付けよ。私はそこのコンピュータの場所にいたの。エクセルに入力していました」
「そうですか言いながら、ゆっくりと歩いてその四人がいたという場所を、一つづつ確認するように座っていった。
 最後に陽子が座っていたという席に座ると、頬杖をついてじっと考えていた。
「見えますね」「は?」
「隣のビルの八階のある部屋が」
「殺人事件のあった場所ですか?」「そうです。丸見えです。もし明かりがついていたとしたら、犯人と被害者が争っていた様子も見えていたかもしれない。警察が聞き込みに来ませんでしたか」
「いいえ。あたしには誰も訪ねて来ませんでしたが、誰かは受けたかも」
「こんなに丸見えだ。来なかったのが不思議だな。被害者の倒れていた場所は見えないから、気づかなかったのか。被害者が刺されてから移動していれば、血痕のあとでわかる。あなたは何か見ましたか?」
「いいえ。早く帰りたくて一生懸命に仕事をしてましたから」
「アレのせいかもな」「アレ?」
「つまりあなたは見ていたのに、見えていなかったんです」
「は?」
 熊川はエレベーターですぐに一階へと下りた。すぐに走っていって、隣の東信ビルへと入っていった。警備員のいる管理室を避け、顔を見せることなくエレベーターに乗ることができた。偶然一人だけいた男と重なって、隠れてしまった。といっても長身の熊川は頭一つ出ているのだが。
 事件現場の八階へと上っていった。殺人現場はもちろん封鎖されている。まだイエローラインが侵入者を阻んでいた。
 熊川は警備員が追ってこないことを確認して、ゆっくりとイエローラインを越えた。オフィスのドアは施錠されている。しかし熊川には、まるで子供のオモチャのようだ。七つ道具を取り出すと、すぐに開錠することができた。
 現場はきちんと保存されていて、まだ血痕や遺体の位置がくっきりと残されている。
 生々しい殺人現場で、誰もが顔をそむけるだろうが、彼は元警察官だけあって現場は見慣れていた。それだけではない。暴走族同士の抗争やヤクザのケンカなど、修羅場をいくつも見てきた。そして恋人だった、いや好きだった女の死の現場も見てきた。
 普通なら照れて言えないような言葉も、彼女になら言えた。
 そうだ。愛していた。
 今ここに彼女がいれば、死ぬまで永久に囁いただろう。
 愛してる、愛してる。
 我に返って、熊川は現場を探索し始めた。鑑識の眼になって見てゆく。
 南の窓に立つと、オフィスビル群の谷間から遥か向こうのきらびやかな尖塔がいくつも見えた。もちろん再開発された高層ビルたちだ。
 そして西側の窓辺に立つと、隣の陽子のオフィスが見えた。夜だとさらに見晴らしがいい。明かりがテレビのブラウン管のようにして、オフィスを浮き上がらせていた。そのくっきりとした美しさは、映画館のスクリーンのようでもあった。
 視線を遠くに移すと陽子が手を振っていた。当日と同じ席に座っていてくれるように頼んでおいたので、明瞭に見えることが確認できた。
 その夜から熊川があることを始めた。毎夜、毎夜ここにやって来た。
 すると一週間後には、彼が期待していた事態が起こり始めた。
「熊川さん。いいんですか?」
 美咲陽子はボディガードそっちのけで、そちらに夢中になっている熊川をにらんだ。
 もちろん、彼女には上司二人が交替で警護についていたから、心配はない。
「そろそろ今日あたりには結果が出るでしょう。そう期待してますよ」
「あそこへ行くんですか?」「もちろんです」
 机の配置を見てみると、そこで判った。向こうのビルからは彼女しか見えないのだ。闇色の景色の中では、使われているオフィスがくっきりと見える。そして仕事に励む労働者たちも。
 そう、彼女を目撃者だと思った者が命を狙っているのだ。しかし彼女は覚えていなかった。普通の視力であれば、殺人現場がくっきりと見えるのにだ。
 熊川には判っていた。灰色の脳内では、すでに答えが出ている。
 そこで、彼女の警備を終わらせるために、犯人を捜すことにしたのだ。
 熊川は警視庁からの資料で容疑者リストを見ていたが、運の悪いことに容疑者はかなりいた。売っていた漢方薬が中国からの輸入食品で怪しげだった。副作用があるのではないかと、怒鳴り込んで来た者が大勢いたのだ。
「てっとり早く容疑者を特定しましょう」
「どうやって?」
「警察の捜査を待っていると、あなたの警備費用がかかります。こちらとしてはありがたいのですが、そう言ってもいられない」





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最終更新日  2013.05.04 10:45:45
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