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2013.01.19
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 (二)
「起きろ」
 足で蹴られたような気がした。転がったら、ずた袋がぱっと取られ、自由になった。視界を広げると、私が昔遊んだ洞窟だと判った。(五右衛門の獄)だ。
 すでに外はかなり暗く、入口のそばに置かれた油皿に小さな火が灯されている。
 海風が忍んできていて、ゆるゆると炎を揺らしていた。その度にねっとりとした闇色の影が揺れている。地蔵が三つ並んでいるようだったが、次第に地獄の番人に見えてきた。
 目をさらに凝らすと、影の足元が見えてきて、一人が座っていることが判った。座っているのは老人だった。白髪白髭の寿老人のようだ。
「音御様が、お呼びだ」
「昔、御、さま?」
 私は呆けていて、ここがどこかの地獄にいるのかと思ったくらいだ。音御の名を思い出すのに、寸刻かかった。小袖の裾が捲れ上がっていたので、私は少々恥じ入った。
「音御さま。確か、仙人?」
 記憶を思うように思い起こせなくて、乱れた髷を掻いた。簪を触って、夢でないことを確かめた。
「この島一番の長老なのに、村には住まず、無数にある洞窟のどれかに住んでいるっていう、神様?」
 音御様は村一番の長生きだからか、村役人の支配の外で生きることを許されていた。本当はどういう素性なのか、私には全く判らなかったし、噂も流れてこなかった。まさに私にとっては音御様は神仏のような存在だった。
 お付の男たちが世話をしているのだろう、とも思った。親族か音御様の信奉者に違いない。もしかすると平史郎の命で御付の任を受けているのかもしれない。
 私はいつもの癖で、余計なことを考え始めたが、真摯に対応していないと、どう処決されるか判らないと思い、すぐに音御様を凝視していた。
 島に密かに上陸していた罪人や悪人ではなかったので、少しだけ気を許した。
 それほどぴりぴりと凍りつくような威圧感があった。尻が冷えてきたので、少し動かして暖めようとした。
「村の政には関わっていないのに、危機になると出てきて神様のお告げをくれるという。たとえ村役人でもその言動に一切の口出しができない、仙人のような人だと聞きました」
 私は遠慮を知らない女子だったので、言いたい放題だった。首を刎ねられても仕方がないほど、厚かましい女子だった。
「いて」
 四郎もやっと正気に戻ったようだ。頭を盛んに振って、記憶を手繰ろうとしていた。転がされていた身体が痛いようで、あちこちを擦っていた。
「そうだ。今日、お前たちに音御様からのお告げが与えられる」
 左脇に立っていた男が、音御様に代わって私たちに脅しをかけた。
「お告げなら、庄屋や網元にしたほうが。私たちには力がないし。もう、秘――」
 とまで言って、はっとした。秘検になった事実は、まだ内密にしていなければならなかった。
 けれども、仙人暮らしの音御様なら漏らしても構わないだろうと思った。しょせんは、平史郎の言いつけだ。気にすることはない。思い直したら、飛べそうな気さえした。
さらによく考えてみたら、平史郎が内密であると言っても、すでに村中が知っていて公然の秘密になっていることだろう。秘密だと言っておけば、任じられた者が秘検の任に神秘性を感じ、一所懸命に任に励むだろうと思っているからだ。大人たちの思考を推理してみると、笑いがこみ上げてきた。
「そなたたちには若いという力がある。お前たちの力を、村のために使ってくれ」
 老人とは思えない強健な声音に、私は一瞬恐怖さえ感じた。何をさせられるのだろう。
「どういうこと?」
 私は全く意に介さなかった。阿呆のようだと殺されるかもしれないので、必死で理解しようとしていた。
「村の皆は、そう、村長も気づいていまいが、今、村は最大の危機を迎えておる」
「危機? 漂流者が来たこと以外は、退屈ですわ」
「その漂流者じゃ。今回の漂流者は、ただの浪人と女郎ではないかもしれぬ。それが、村に災厄をもたらす」
「よくわからんけど」
 私は漂流者を見つけた時の経緯や、その後の事件を記憶の海から拾い上げながら、回想していた。漂流者が何の危険をもたらしているのかと。
 確かに加納芳郎と八重は、すでに騒動を起こした。
「お前たちは秘検に任じられたな」
「どうして、それを?」
 さすがは仙人。すべてを見透かしている。
「そのくらいは当たり前じゃ。わしは音御よ。仙人のように生きておる」
 私は仙人の千里眼を恐れた。何を言っていいのか判らない。しかし狭い島だ。平史郎とどこかで繋がっているに違いない。いや、きっと村中の大人が知っているのだ。
仙人は人間界を離れ千里の山に住んでいるのではなく、今でも村中の(秘密)を握っているのだろう。
「わしが秘検に命を与える。誰かがこの島から逃げたら、他の者も必ず斬れ」
「えぇ」四郎と私は揃って声を上げた。洞内でよく響いて、耳が痛い。
「女であろうとなかろうと、あやつらは斬るのじゃ。これはわしの命ぞ」
「どうして?」
「お前たちは知らぬだろうが、奇岩霊前島には知られてはならぬ秘密がある。この島が生き延びるためには、秘密を護るのじゃ」
「村長は若い者に人を斬れとはよう言わんだろうから、わしがお前たちに命ずる。訳はこれ以上いえんが、斬れという以上、それなりの重大な任であると思え。秘密については、まだお前たちは知らなくてもよい」
「知らなくてもよいと言われると、余計に知りたくなるし」
「知れば今のような安息の日々が送れなくなるからだ」
「うちらは処刑人でないし。人斬りをするなんて」
 私は何とか音御様から、(秘密)を聞き出そうとしていた。好奇心は抑えられないし、任務であっても(訳)は必要だ。
「訳もなく人を斬るわけには。いくら村長の隠密でも、な」
 四郎は苦虫を踏み潰したような顔をしていた。私にもよく判った。いくら武士の血統でも、罪人の処刑ならやるが、罪人でもない女を追いかけて斬ることはできないだろう。
「人を無闇に殺めることは、阿天様の信仰に反しますわ」
 阿天様の教えに逆らうことなどできない。
「それなら心配は要らぬ。同じ本尊を崇める西の強国でさえ、殺生とは無縁ではない。利と信仰のために、殺生をしておる。信仰を護るためならば、許されることもある」
「どこの国なん?」
 私は好奇心の赴くままに、恐れることなく質問攻めにし続けた。
「知らずともよい」
 音御様はぴしゃりと言って、私の好奇心を押さえ込もうとしていた。いくら音御様でも、離島暮らしだ。知らないのだろうと思った。
「気と体力が充実した若い者に託す。村のためぞ」
「そういう事情なら」
 四郎は、いい声を上げた。もともと、信心が薄い男だ。あまり頓着していないのだろう。
 目の前に差し出された戦に、若い血が煮え滾っているのかもしれない。斬捨て御免の戦だ。武士の血脈の男として、胸が躍るのだろうか。
「わかった。この島から逃げた者は、必ず斬る」
 二人は使命感よりも、退屈な日常に飛び込んできたこの任に胸を弾ませていた。
 四郎は帯刀していないので、腕を振り回して見せた。様になっていなくて、私は笑った。
 洞窟を出ると、月が高く上っていた。すでに夕餉は終っているだろう。このまま帰ったら、平史郎の雷が落ちる。嫁入り前の娘が夜遅く、許婚でもない若い男と出歩いていたのだから。
 私は後悔していた。夕餉までに家に戻らずに、洞窟を探しに行ったことを。





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最終更新日  2013.01.27 12:23:36
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