★人生はホラー映画★ただいま労災で休職中★投稿すると抹殺人生★人生は運が全て★

★人生はホラー映画★ただいま労災で休職中★投稿すると抹殺人生★人生は運が全て★

2013.01.19
XML
  (二)
 私と四郎は、まっすぐハルの家へと向かっていった。
 戸口の前に立った私は、四郎に目配せをして合図をし合うと、戸口を叩いた。何度か叩いたが、ハルは一向に出てこない。夕餉が近いので、焦っていた。
「ハル、ハル」
 仕方がないので、戸口に手を掛けて開けようとすると、何とか鈍い感覚がして開いた。心張り棒はしていなかった。
「ハル、いる?」
 ハルは土間のすぐ向こうに座っていた。ただ、ぼうっと座っていた。ハルの様子は干からびた人形のようだ。相変わらず袷の裾から、派手な襦袢が見えていた。
 村中の男衆の視線を、いつも惹きつけていた。女房たちの神経を逆撫でするものだが、ハルは全く頓着していなかった。
「ハル、基三郎のこと、聞いたで。残念やったな」
 ハルは、やっとゆっくりと、人形のような顔を向けた。血がすべて抜けた様相で、墓場へ運ばれる死人に見える。
 髷は乱れ、全く結い直していないことが判った。何本もの髪が白々とした額に垂れ、白い顔が割れたようになっていた。
 闇夜で見れば、亡霊が襲い懸かってくるかのようなおどろおどろしさがある。水の中から現われれば、人を引きずり込む妖怪にも見えるだろう。
「うち、捨てられたわ。きっと阿波で美人の後家さん見つけて入り込もうって魂胆やわ」
「まだ一人もんはおるで。ここで見つけたらいいわ」
「もう、えぇねん。一人でも。下女の口もあるし」
 ハルは、また俯いた。だらりと下ろした自分の手や膝に視線を向けていた。
 私のほうからは横顔しか見えない。顔に寄せて指先も、キクエと六、七歳しか違わないようだが、老女のように痩せて皺皺としていた。
 奇岩霊前島にあっては、十分に食べられるというわけにはいかない。老いてゆくのも、少々早いのかもしれない。
「そうや。明日の明け七ツ半頃に。(潮神様の月宴)をするんや。ハルも一緒にどう?」
「月宴って、朝に?」しまったと思ったが、私は遣り込める算段をすぐに思いついた。
「月を愛でられた潮神様にご馳走を捧げて、一緒に時をすごすという宴や。海から(潮神の座)にやって来られた潮神様を歓待するんや。そしたら潮神様が、この一年の豊漁や息災を約束してくださるんや」
「うちは、どうでもいいわ。だって、あん人は、もういいひんから」
「気が晴れんで。一緒に騒ごうよ」
 私は必死だった。騒動を起こさないために、他人目につかない場所でハルを斬らなければならないからだ。
「わかった。いく。どうせ、この島から出られへんしな」
「明け七ツ半ごろに、迎えに行くわ」
 私は沸き上がってきていた(島を護る)という使命感を、押し留めようとしていた。
 払拭されれば、ハルを見逃せるだろう。せめて、ハルを小舟に乗せて、運よくどこかへ着けるように手配できればいいのにと思った。それだけで済ませられればいいのにと祈った。
 それでも、四郎の決心は変わらないだろう。音御様が四郎の男気に火を点けたからだ。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2013.01.27 12:22:13
コメント(0) | コメントを書く
[★小説「アテンの暁光」★] カテゴリの最新記事


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: