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2013.03.02
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「アイシテル」6

「え、アキラ君の伯父さんを知っているって?」
 携帯電話で呼びつけたミチルに、藍子は冷凍だった高級ケーキとコーヒーでもてなした。今、姪にへそを曲げられると、どうにもこうにもならない。息子たちは空の向こうだ。
 スイーツで若い女をてなづけられる。ミチルは菓子のオマケを見つけた子供のように、ケーキを眺めていた。
「えぇそう。きっとあの人の甥だと思うやけど。今では年賀状を交換し合うだ
けの仲だけど、きっとあたしをからかってやろうとして差し向けたんよ」
「差し向けた? とうとう呆けたん?」
 とうとう、ミチルは寝たきりにボケが加わってどうにもならんわといった顔をしている、
「スパイ映画じゃあるまいし。あたしだって学生なんだから
授業があるん。単位を取らないと大学を卒業できないの」
 ミチルは、ケイタイの番号を教えるんじゃなかったというような顔をしていた。
「だからその男の所へ行って、しっぺ返しをしてやりたいん。だからついてい
ってちょうだい。おこづかい五千円あげるから」
 藍子はあの手この手で若者を手なづけようとしていた。年をとるとずる賢くなる。
「今どき五千円で飛び付く子供なんていないで」
 可愛い姪は、なんでもはっきり言う。にらむように口を曲げた。
「じゃあ、八千円にしてあげる」
「アキラくんに連れていってもらえば?」
 藍子がビセイネンに会いたいのを、見透かしたように姪は言った。
「カレは今日休みやし、黒幕のオジサンとこに行くのを知ったら、きっとバツが悪いと思うよ」
「黒幕って。じゃ、仕方がないわね」やっと姪が折れた。ワコウドを手なづけるのは難しい。「タクシーでいいから」
 藍子はアキラに見覚えがあった。どこで会ったかは覚えていないが、たしか
に会ったことがあるのだ。それはきっとカレの伯父にあたる男が幼馴染みで、
似ているからだと思った。
 最近のタクシードライバーはヘルパー二級を持っていることが多いので、
藍子を丁寧に乗せてくれた。けれども、あのビセイネンにお姫さまダッコをし
てもらうコトにはかなわない。
 幼馴染みの家は、子供の頃に住んでいた祖父母の家の近所だった。といっても
農家だったのでご近所とは数百メートルも離れていた。鏡のような水田が、ま
るで檻のように、築八十八年の家を取り囲んでいた。どこにでもある典型的な
農家の造りで、南側に大きな窓が連なり、縁側がある。そこに誰かが座ってい
て、まどろんでいる。視界を広げると豊かな緑陰が水田と家を包み込み、穏や
かに癒している。
 確かに、緑を眺めることは爽快だ。ずっといると退屈かもしれないが、時折
見つめるにはちょうどいい。
 あの幼馴染みはあの頃は鹿児島出身の母親似の美少年だったが、たぶん今
は・・・・・・。あのはっきりとした顔立ちはどうなっているだろう。
「あ、あ、藍子ちゃん。そうか、久しぶりやな」
 立派なオジさんになっていた。顔は日に焼けこんがりと小麦色になり、筋肉
が作り出した深いミゾが笑うたびに口の回りに現われている。紅顔の美少年も
すでにオヤジ世代。歳月をは恐ろしいと藍子は思った。
「そう三十六年ぶりくらい? あたしが引っ越ししちゃったから、それっきり
やね」
「君が両親の離婚で、祖父母のうちのあるここにやって来たとき、都会から可
愛いコが来たなって思ったけど、そうでもなかった」
「それってどういうこと? そんなに可愛くなかったってこと?」
 藍子は持って生まれた気の強さで、言い返した。
「ハハハ。そういうことかな。都会から来たコは垢抜けて見えるからな」
 頭皮が透けて見えるようになった幼馴染は、容赦がなかった。言いたいことを行ってしまうと、豪快に声を上げて笑った。
「で、あなたが差し向けた甥ごさん、よく働いているわよ」
「甥?」「ヘルパーのアキラくんよ。あなたに何となく似ていたから、きっと
そうだと思ったのよ」
 幼馴染は目を丸くしていた。
「からかってやろうと思ったんじゃないの? 幼馴染みのアタシが寝た切きり
寸前だから」
 さぁ、白状しなさいと藍子は強気で探りを入れた。
「寝たきり寸前? だから車椅子で来たやな?」
 さらに不思議そうな顔をして、藍子がボケ老人になったのではないかというような顔をしていた。
「じゃ、アタシの怪我のこと知らなかったの?」
「当たり前だろ。年賀状には書いてなかったじゃないか。その後だったんだろ
、怪我をしたのはさ?」
 そうだった。骨折したのは二ヵ月前の三月末だ。年賀状には書いていない。
藍子はあっと思った。思い違いだ。
「じゃ、どこで会ったのかしらね」
 謎は解けなかった。





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最終更新日  2013.03.02 11:16:13
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