ひたすら本を読む少年の小説コミュニティ

2005.08.29
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肌寒い風が体に当たり、薄い上着だけじゃそろそろ寒い。

幾分、街を通る人たちの活気さえも、夕陽のように衰えた気がする。

ゆっくりと道をほのかに照らしだす街灯。

錆びれて傾いた信号機の長い影が地面を這っている。

沈む夕陽を拒むかのように点滅する大きな看板の電球。

誰もいなくなった公園。

寂れたブランコとベンチが、次第に存在を闇へ隠す。

既に真っ暗い闇を溢れさせてる細い裏道に入ると、どこかのアパートから笛の音と三味線が聞こえてくる。

そんな情景を感じると、ため息と共に、

「夏は終わったんだ」

と、意味もなく一人でつぶやいた。


少し急な坂を上ると、自分のアパートが見えてくる。

もちろん、僕と一緒に住もうという物好きはいない。

一匹の猫だけだ。

だが、僕にとっては、それだけで十二分の価値がある。

雨風によって、殆どのドアが錆びれ、軋み、大きくへこんでいる。

建てつけも悪く、かなりの力を入れないと開かない。

部屋に入る。

猫の姿はない。

時折、どこかへ出て行く。

彼女にいつ、そんなあてが出来たか最初のうちは気になったが、もう構わないようにしている。

気の向いた時に帰ってさえくれれば、それでいいと僕も思う。



窓の外の夕陽を体に受け止めて、長い影を伸ばすコーヒーカップ。

何かを必死に主張したいのだけれど、過去にそんなことはもう諦めた様な、そんなコーヒーカップ。

それに、暖めたコーヒーを入れ、砂糖を3欠片ほどいれ、ミルクを混ぜ、昔インドで買ったお気に入りの椅子に座り、静かに飲む。

それだけは誰にも邪魔されたくない。

その間の空間の雰囲気が僕はとても好きなんだ。

全ての時間は、ねじを抜かれたように突然ゆるやかになり、花は水をはじくような美しさを取り戻し、軋む床はさらに軋んで、沈んでいく。

ありとあらゆるものが壁に吸い込まれ、ひとつの物と物の狭間が消える。

全てが壁の中で混合し、他者が自分になり、自分が他者になり、物が結合し、分子原子は崩壊し、過去の自分をも巻き込み、時間を気にすることなく交わり続ける。

そこに、何も意味などないのだ。

ただ、その瞬間が僕は好きなんだ。





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Last updated  2005.08.29 18:59:50
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