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サイド自由欄

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トールも製作に関わったオラクルカードです♪
2009年04月01日
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少年は、誇らしい気持ちで小さな右手をドアのセキュリティパネルに押しつけた。
パネルが虹色に輝き、鍵が外れる音がする。

シュリカンとの打ち合わせに行ってから来ると言われた通り、一応軽くノックをしてみたが返答はない。
ジョゼは体重をかけるようにして、大きなドアを押し開けた。先にひとりで入っていていいと言われたのだ。

部屋の中は、廊下から想像するよりもかなり広い。全体が白と茶色にまとめられ、師匠らしいとても穏やかな雰囲気だと彼は思った。

入って右に大きな作りつけの本棚、奥にベッド。長身の持ち主のためにベッドは広くて、小柄なジョゼなら3人は同時に寝られそうだった。
左側にはクローゼットと机に大小のコンピュータ。
この部屋にもやはり所々に植物やクリスタルが置いてあって、気持ちのいい波動で住人を癒してくれている。

クリスタル・ローズ・ガーデンにあるトールの部屋はどこを見ても興味津々なものばかりで、ジョゼは目を輝かした。
師匠は言ったのだ。

「ジョゼ、君にクリロズの僕の部屋の認証コードをあげよう。
約束事はふたつ。まず、ホストにアクセスできるメインコンピュータには触らないこと。
何重にもセキュリティがかかっているけど、一応ね。隣にある小さいサブ端末は使ってかまわない」

「それからクリスタルや魔法道具の位置を変えないこと。
元に戻すなら、ちょっと触って見るくらいはかまわない。
あとは、本は好きに読んでいいし、ベッドで寝ててもいいよ」

昨晩布団に入りながら、敬愛する師匠の優しい声とともにこの台詞を頭の中で繰り返しては、何度も寝返りをうっていたジョゼであった。
信頼されたことが嬉しくて、つい顔が笑ってしまう。

少年はおそるおそる本棚に指をすべらせた。
神聖幾何学、上級魔法理論、魔法大全、歴史書、植物、鉱物などさまざまな辞書事典類、背表紙のすりきれた古い呪術書。
トールにとっては蔵書の一部にすぎないが、少年には読みたい本がなんでも揃う図書館のように思われる。

本を手にとってめくってみたい衝動と、部屋のほかの物も見てみたい衝動とに挟まれながら、ジョゼは机に視線を動かした。
中央部に大きな3D端末がある。基本設備のシステム管理をしているトールの部屋のコンピュータは、責任者である緑の少女の部屋のホストと直接繋がっており、遠隔操作することができるのだ。

もちろん約束を破る気などこれっぽっちもなく、手を握ったまま気をつけて端末を見つめる。少年にとって、このメインコンピュータは憧れの集大成でもあった。

それから隣のやや小さな端末に目をやる。それはジョゼの部屋にあるものとも似ていたが、もちろんもっと高性能なのだろう。
ジョゼの指がそっと触れると、サブコンピュータは白く淡い光を吐き出し、画面が立ち上がった。
コンソールに手を載せ、ちょっといじってみる。しばらくすると、画面上に多面体の画像があらわれた。

自分の思い通りに動いてくれたことに心躍らせ、多面体をいろいろに回転させたり、色をつけてみたりする。
だんだんと慣れてきたジョゼは、画面を閉じるのもそこそこに今度は後をふりむいた。

視線の先には大きなベッド。
ワクワクした気持ちを抑えきれなくなり、少年はベッドに飛び上がって猫のように転がった。
なんだか嬉しさがこみあげてきて、笑いながらごろごろベッドの端まで転がってしまう。そのままどすんと床に落ちても、まだ少年は笑っていた。

床の上でも二、三回転がって顔をあげると、隅に直接小さな敷物をしいて大きめなクリスタルが置いてあるのが見えた。
深い海のような青で、クラスターというほどではないが何本かのポイントが寄りそった形をしている。
窓からさしこむ陽の光をうけて輝くクリスタルを、ジョゼはうつぶせに寝転がったまま顎を手にのせ、足をぶらぶらさせながら、うっとりと眺めた。石は大好きなのだ。

元に戻すなら触ってみてもいいよ、と言われた言葉を反芻して、彼は指先でかすかに青い石に触れてみた。
優しい海のような、彼を包み込むバイブレーションが感じられる。

それをもっと感じてみたくて、今度はそっと、掌全体で包むように石をつかんだ。

そのときだった。

ぽきん、という小さな音が聞こえたような気がした。
ぎくりとして、背筋がさっと寒くなる。

唾を飲みこみ、指を動かさないようにして掌を外すと・・・・・・
青い小さなポイントがひとつ、折れて彼の手に乗っていた。

壊してしまった。壊してしまった。
この石も師匠の魔法陣の一端であるに違いないのに。
どうしようどうしようどうしよう・・・・・・

思考がぐるぐると回ってしまい、何も考えることができない。
目は折れたポイントに釘付けになっている。心臓が早鐘を打ち、身体じゅうから冷や汗が吹き出ていた。
せっかく先生が信頼してくれた矢先だというのに、なんと謝ればいいのか、想像もつかなかった。
深い深い海の石は、何年かかったら彼に弁償することができるだろう。
もしも、もう手に入らない珍しいものだったら?
あんなふうに羽目を外してしまうなんて、なんて馬鹿だったのだろう・・・・・・。

目にたまった涙が堰をきってあふれだそうとするころ、セキュリティが外れて扉が開く音がした。

「遅くなって悪かったね、ジョゼ。あ――」
「ごめんなさいっ!」

遊べたかい、と言いかけたトールの言葉は飲み込まれた。
ジョゼは折れたポイントを掌にかかげ、目をぎゅっとつぶって、ほとんど土下座しそうに頭を下げている。

「え? ああ、これか」

少年の手の青い石を、長い指がつまみあげた。陽に透かすようにして、さまざまな角度から調べてみる。少年は頭を下げた格好のまま、身体をきつく緊張させて微動だにしなかった。
トールは部屋を見回し、最後にそんな彼を見てふっと微笑んだ。

「ジョゼ、顔をあげてごらん」

「ごめんなさい、師匠、あの、僕、わざとじゃないんです!
どんな罰でも受けますから、破門にしないでください!」

ますます身体を硬くしてジョゼは言った。破門にされてしまうのが、一番恐ろしかった。
これから色々教えてもらおうと思ったのに。

すると、暖かな手がジョゼの肩に置かれた。

「いいから顔をあげてごらん」

死刑台に上るような気持ちで顔をあげると、師匠の青灰色の瞳は怒ってはいなかった。
いつもと変わらぬその微笑みに、体中の力が抜けていく。

「ジョゼ、この石は君のところに行きたいみたいだ」

優しい声で師匠は言った。

「折れたのは君のせいじゃないよ。だけどもらってくれるかい。僕が持っていても文句を言われるだろうからね」

トールは笑いながら弟子の手をとり、青い小さなポイントを握らせた。それは彼の小さな掌にぴったりとおさまり、優しい海の波動をハートに伝えてくる。

「・・・・・・いいんですか、僕」

ここにまた来ても、という言葉は声にならなかった。

「もちろん。待っているよ」

トールが少年の肩を抱きよせると、手の上の石に大粒の涙がぽとりと落ちた。
青い石は虹のように輝いた。









**************




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物語を書くほうが忙しくてお返事遠慮させていただいておりますが、
ご感想をいただくとものすっごく嬉しいので、小躍りして喜びます♪♪


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最終更新日  2009年04月01日 06時21分27秒
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