よんきゅ部屋

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Aug 11, 2006
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マーラーの交響曲5番について、昨日に引き続き書いてみたいと思う。

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第3楽章:
この楽章は単独で第2部を構成しており、全曲の中でも演奏時間が最も長く、中心的な役割を受け持っており、「スケルツォ」と明記されている。スケルツォとは、主として3拍子のきわめて高速な曲で、ベートーヴェン以降の交響曲で用いられている。通常、スケルツォは第3楽章に置かれることが多く(第九やブルックナーの第8番などが例外)の演奏時間は全曲中最も短いが、この曲に関してはまったく逆であるのが面白いところだ。ちなみに、この場所にブラームスは間奏曲的な音楽を置き(第4番以外)、チャイコフスキーに至っては第5番でワルツを置いている。

冒頭、ホルンの音を合図(「決然と」と書かれている)によって始まる明るい雰囲気の急速なワルツ(ニ長調)で始まり、その速度を落としたレントラー(ドイツの民族舞踊でワルツの前身と言われる)(変ロ長調)が続く。レントラーの部分では小節線を越えるときにいかに工夫するか(どの程度まで基本リズムから外すか)、演奏者のセンスが問われるところだ。音楽が時間の芸術だといわれることを実感する場所である。さらに速度を落とした中間部では、ホルンの問いかけに対してチェロが答えるという部分が続く。途中でピチカートのみの弦楽四重奏になるのだが、リズムをとる2ndVnソロはかなり気を遣うところだ。

この楽章はこれら3つの要素を主として展開していくようになっているが、対位法(複数の旋律を同時に演奏させる方法でとても高度なワザ。マーラーは他の楽章でもこれを多用している)が用いられたり、めまぐるしい転調があったり、かなり凝った、入り組んだものとなっている。このあたりがマーラーは難解だと言われる原因になっていると思うのは、私だけではないと思う。

途中では、一瞬だけ登場するホルツクラッパー(直訳すれば「拍子木」)など、打楽器に対するマーラーのこだわり(第6番はすごい)が垣間見えるところだ。最後の部分は、打楽器だけによるリズムから、数の少ない弦楽器が登場し、さらにそれがどんどん拡大していくが、ここは「速く!」「もっといけ!」「急げー!」という指示があり、競馬のゴール前のような状態になる。最後はちぎって投げるように終わる。時間の面にしても、楽器編成にしても、曲の構造にしてもここまで大規模で凝ったスケルツォをもしベートーヴェンが聴いたらきっと驚くことだろう。わずか100年程度でここまで行くかという感じである。

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第4楽章:
 この楽章「アダージェット」は、すべての管楽器と打楽器が休みとなり、弦楽器とハープのみによって演奏される。この楽章は無言歌のようであり、マーラーが歌曲の作曲家でもあることを改めて感じさせられる(マーラーの作品にはこのアダージェットとのつながりが指摘される曲もある)。

この楽章は後に妻となるアルマへのラブレターだとも言われている。和音の解決を遅らせる書き方が随所にあり、「こんなに思っているのに届かないのか?」とでも言いたげな表情を出している。例えば、冒頭の「ドレミミファ」という旋律は、普通なら「ドレミファ」と書くところだが、わざと小節線を越えた後に「ミ」をぶつけている。しかもその「ミ」は突然音量を落とすように指示されているのだ。思いを断ち切ろうとしても、心の奥からじんわりと滲み出していくかのようである。

中間部の夢見るような場所(変ト長調)にも、半音をぶつける場所があったり、あるいは滲み出すようなダイナミクスの書き方があったりと、同様のパターンが見られる。最初の部分(ヘ長調)に対して半音隣の遠隔調になっているのも、夢見る感じを高める要因であるように思われる。このあたりのめまぐるしい転調は何とも言えない美しさである。また、最初の旋律に回帰する前のグリッサンドは、結局思いを達せないままはしごを外されたような感じで、何とも言えない。また、最後の部分の弦合奏によるfffの部分(「何度も弓を返して」という指示がある)から、最後の一音までの持って行き方は圧巻だ。それにしても、後世に残る音楽のラブレターとは、すごい話である。

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第5楽章:
この楽章「ロンド・フィナーレ」では、第1部にあったような苦痛や嘆きといったものがほとんど打ち消されてしまう明るさを持っている(短調の部分がないので、「バカ騒ぎ」だと評されることもある)。

第4楽章の余韻の中から開始される冒頭はとてもさわやかな感じである。いろいろな楽器によってリレーのように音楽が進行するところがなかなか面白い。続いてロンド主題(他の旋律を途中に挟みながら何度も出てくる)がホルンで示された後、チェロによってフーガが開始される(このフーガは技巧的で、特に転調の激しい部分でこれが当たると必死になる。担ぐ楽器はまだマシだが、が、コントラバスになると「なんじゃこりゃ~!」という感じになってしまいそうだ)。ちなみに、この曲の作曲時にマーラーはバッハのフーガをかなり勉強していたという。

途中何度か第4楽章の中間部の旋律が顔を出すが(ある時は優美に、ある時はきわめて明るく生気に満ちた感じで)、フーガとのコントラストが際だっており、とても美しい。とはいえ、その背後でずーっとフーガの音型が続いている。2ndVnにはロ長調や変ニ長調といったとんでもなく難しい調が割り当てられており、ほとんどロデオ状態(振り落とされるかギリギリ)である。

また、この楽章の最後では、第2楽章で幻のように消えてしまったファンファーレが登場する。この部分こそ本当に苦難に打ち勝ったという感じで、そのスケールの大きな響きは感動的だ。そして、今度は長調のまま、どんどんスピードを増し、テンションを上げてそのまま曲を閉じる。最後の何小節かもやはり弦楽器はロデオ状態である。

と、この部分で思い出すのは、三上博史が主演した「それが答えだ」というテレビドラマである。マエストロが田舎の中学校のオーケストラで生徒たちに触れながら人間らしさを取り戻すという感じの話だったかな(ちなみに、まだ名前の売れていなかった深田恭子も出ていたと思う)。市民オケの団内指揮者が「三上博史の指揮は本当にうまく見える」と言っていたのを今でもよく覚えているが、確かにそういう印象だった。最近、広場でもぼちぼち話題の「のだめ」実写版がどこまでいけるかというのは、とても興味深い。こちらもシリーズ全部録画になりそうである。

おっと、話が横道にそれたが、この曲はやはり最後に救われるという、従来からあったパターンを素直に踏襲しているので比較的聴きやすいのではないかと思う。第6番や第9番ではまったく救われないのだ。いずれ、この救われない2曲も演奏してみたいなとは思う。それぞれの曲に対する思い入れも強いので...さて何年後になることやら、楽しみにしておこう。





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Last updated  Aug 11, 2006 10:49:35 PM
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