よんきゅ部屋

よんきゅ部屋

Nov 19, 2006
XML
「秋にはブラームス」とは多くの人が言うところだが、中でも晩秋に聴きたくなるのがこの曲。ブラームスによる4曲の交響曲のラストを飾るにふさわしい、素晴らしい作品である。この曲は今まで5回ほど演奏しているが、それぞれにいろいろな思い出がある。CDを聴いているとその場所場所で思い出にまつわる人の顔が浮かんでくる。高校生の時に初めて聴いて以来、いつかやってみたいと思っていたが、楽器を持って8年目にやっと実現した喜びを今でもよく覚えている。それから大学オケでもOBとして何度か演奏、客演指揮者、そして苦労していた学生指揮者の顔も浮かんでくる。

この曲は一言でいえば、とにかく「渋い」。短調で終わる数少ない交響曲の1つであり、長調の部分でもどこか寂しいとか、愁いとかそういった感情を抱かせる。ド派手な部分がたくさんあるわけでもなく、どこを切っても端正さを失わないところがこの曲の魅力だろう。

-------------------------
第1楽章:
この曲の冒頭はとてつもなく難しい。ヴァイオリンは「シソ」と弾くだけなのに「シ」から「ソ」に移るタイミング、音色、息づかい、すべて難しい。また、その変わり目からチェロとヴィオラのアルペジオが始まるが、この出方も難しい。これをちゃんと指揮できる人は本当にスゴイのだ。単純に「せーの」とやってしまうと、それだけでブラ4の世界は壊れてしまう。一流の指揮者が棒で余分な動きを出さずにすっとオケを導く様はまさに魔法そのものである。

チェロによる第2主題への経過の部分(木管)は、2連符と3連符の要素が一つの旋律の中に混じり合っている。このスイッチの切替がまたとても難しい。2連符と3連符を同時に扱うというのは、ブラームスの曲の特徴の一つである。これは奏者泣かせであり、よほど意識してやらないとその味は出ないのがやっかいだ。その後に出てくる木管による明るい部分はロ長調、ブラームスが好んで用いている調であり、夢見る感じを出したいときに使われている。抜群の使い方だな...。フォルテになった部分ではまた2連符と3連符の共存で難しい。

展開部はいろいろと転調。アマチュア弦楽器奏者泣かせのブラームスはここでも本領発揮。音程をとりにくい分散和音を連発するのだ。しかも弱音なのにやたらと高い音だったり、2連符と3連符が共存している。しかし、これらを全部きっちりやって初めてブラ4の世界なのだ。木管で歌われる嬰ト短調の部分やその後第1主題に戻る前の部分は思わず「渋いねえ」とうなってしまう。

再現部、第2主題はホ短調で近い場所での力強さを表す感じ、その後の木管もホ長調となり、こちらは現実味を帯びた明るさ。調性による遠近感を意識して聴いてみると、本当によくできていると思う。コーダに当たる部分がまた2連符と3連符の混合でしかも追いかけっこで入ってくる。第1主題が出てくるときには最強音、ヴァイオリンに最高音が出てくる場所は跳躍がとても難しく間違えると悲鳴にしかきこえない難所だ。またこの部分の推進力としては低弦のシンコペーションの扱いが見逃せないところである。最後は決然として終わる。ここのティンパニは気持ちよさそうだなあと思う。

-------------------------
第2楽章:
ホルンから導き出される序奏は、最初どの調なのかわからない不思議な響き。当時ですでに古いものだった教会旋法を用いているのがその理由だ。だからというわけではないが、何となく木の椅子の匂いがする古い教会の中にいるようだ。そこからホ長調の第1主題が生まれてくる。ブラームスはクラリネットをとてもうまく使う作曲家だと思う。この場所にこれしかあり得ないという感じ。しばらくは教会旋法とホ長調の間を行き交う。

そこを抜けたヴァイオリンの旋律は教会の窓から太陽の光が差し込むかのよう。いつ弾いても全身に電気が走るような感覚がある。そこからニ長調の雰囲気を抜けてチェロによるロ長調の第2主題(また夢の中)。この主題にからみつく第1ヴァイオリンのアルペジオ、ヴィオラやファゴットによる非和声音の響き、どれをとってもしびれる。ひらひらという感じを繰り返す場所では、嬰ハ長調が出てきた場所でまたしびれる。和音進行の素晴らしさに感動してしまう。なぜこんな音をここに置くことができるのだろうか、その奇跡に感動。

第1主題の再現、今度は2つに分割したヴィオラが旋律。ヴァイオリンだと楽に音の出る音域だが、敢えてヴィオラというのが素晴らしい。背景の木管と相まって何とも言えない風合い。旋律の最後に顔を出すティンパニとトランペットがいい感じを添えている。その後、いきなり決然と木管とヴァイオリンによる旋律が登場し、細かい音符による追いかけっこが始まる。ここもいろいろと転調していてすごい。

クライマックスの部分を抜けると、今度はヴァイオリンによる第2主題がホ長調で登場。また太陽の光が差し込み、さわやかな風が吹いてくるかのよう。大学オケの後輩でこの部分にあるたった一つの音で涙が止まらなくなったという人がいた。その音の優しさ(表現が難しいが)に思わず涙が出るのだという。私もそれはとてもよくわかる。こういう感性の部分で理解し合えるなんてとても幸せだと思った。

さらに、その後ヴァイオリンがシンコペーションになって輝きを増す部分は本当に感動で涙が出そうだ(シのシャープからドのシャープなんて進行が出てきた日にはもう...)。それから落ち着いてクラリネットの登場、やっぱりここはこの楽器だよな...。全休止の後クラリネットが出て終わりかなと思ったら、ここでまた教会旋法の登場。少し遠回りをして終了。本当に大好きな楽章である。

-------------------------
第3楽章:
ブラームスの交響曲の中で唯一スケルツォで書かれた第3楽章(後はすべて歌の形式)。最初の旋律をこんな替え歌をしていた友人がいた。
「ゴジラがきーたー、ゴジラがきーたーぞー。逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ。」

笑ってしまった。アマチュアオケの人にはこういう替え歌好きがけっこういる。
この楽章にはトライアングルが使われている。これがまた不思議な響きをしている。この楽章もアマチュア弦楽器奏者泣かせ。流れるような進行なのに、左手の運指がとても難しいのだ。どうしても勢いでやってしまうのがよくないなと。何度やってもここを満足にできたことがない。

中間部のホルンで歌われるゆっくりめの音楽が不思議な感じ(主題のハ長調の隣である変ニ長調というのがその原因か?)だが、すぐにスケルツォに戻る。一番小さくなる場所から始まるティンパニ(ひたすら「逃げろ」といっている)と低弦の裏拍ピチカート(逃げろとつつかれているよう)による盛り上げ方がとても効果的。ここのヴァイオリンはかなり難しいのだが、聴いている人にとってはどうでもいいことだな...。弦楽器の太い音とホルン、それにトライアングルを使った最後の盛り上げ方も素晴らしい。

-------------------------
第4楽章:
この楽章はまたもや古い形式「パッサカリア」を使っている。パッサカリアは同じ主題を調も拍子も変えずに変奏していく形式(といってもこの曲ではちょっとだけ変えてある)である。主題は8小節あるが7小節目の和音に特徴がある。これがまた教会旋法の音を使っているのだ。主題は和音だけでちゃんと曲になっている。譜面づらは中学校の音楽の時間にやらされる作曲と変わらないのにブラームスの手にかかるとこうなるか...。

弦楽器が旋律になる変奏になるとかなりハイテンション。この盛り上げ方がすごい。第1ヴァイオリンにとっては最低音から通常使わない高い音まで縦横無尽に動き回る(しかも高速!)恐ろしい書き方になっている。また同じミの音が続くのに弦を替えて弾けというシンジラレナ~イ指示(同じ高さの音で音質を変えるという作戦でバッハの無伴奏パルティータに同種の手法がある)もある。練習しているときに「弾けるかいっ!こんなの!」と一度は言ってしまうところだが、弾けたらカッコいいこと間違いなしなので練習のモチベーションは上がる。

それが静まると2分の3拍子に変わってフルートのソロ。これがまた難しそう。背景にあるホルンの音がまたいい味を出している。それが終わるとホ長調に変化。またホ短調の暗い雰囲気の中に一筋の光が...。木管楽器の使い方が素晴らしい。オーボエで下りてくる音に導かれてトロンボーンによるコラール。トロンボーンが神を表す楽器というのは本当にわかる。暖かい光がすべてを優しく包み込んでくれるかのよう。ここでも涙が出そうになる。さらに木管楽器が加わって光は輝きを増すところも感動的だ。それが静まるところでフルートを使っているのがまたスゴイ。

そして主題と同じ姿が登場するが、今度は激しさをいっそう増している。寒い風が吹きすさむような弦のトレモロも何とも言えない。それからさらに曲は時折踊り場を交えながら激しさを増していく。ティンパニが2連符→3連符→トレモロと変化したところで変奏が崩れてコーダへなだれ込む。本当にカッコいい場所だ。このあたりの和音の変化は素晴らしいがまたまたアマチュア弦楽器奏者泣かせである。分散和音が取れない...。そこが終わると急速な舞曲のようになって最後までなだれ込み、決然とホ短調の最強音で終了。短調で終わる曲で「ブラボー!」と言いたくなる曲って珍しいような気がする。

-------------------------
この曲は、古い形式を使いながら実はとても新しいこと満載である(だから後世に残るのだろう)。ブラームスが20年かかって交響曲第1番を完成させてから、いろいろと考えてきた中での結論がここにあったのかという感じがする。それにしてもいろいろなことを知れば知るほどはまっていく曲である。ブラームスの交響曲はどれも好きだが、敢えてどれか1つといわれれば、やっぱり4番かな(1番ももちろんいいなと思うが)。演奏する立場から言えば、何回やってもできた気にまったくならない曲で、自分なりの結論が出せる演奏を生きているうちにいつかしてみたいと思う曲だ。

(しまった、入れ込みすぎてしまった...)





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  Nov 19, 2006 09:29:14 PM
コメント(4) | コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

Favorite Blog

映画:クロッシング … New! ピカルディの三度THさん

第351回定期演奏会 New! すららさん

COMPLEX凄いな。 魔神8888さん

小田和正「自己ベス… はるのひ1918さん

黄 金 時 代 ショスタコーヴィチさん

Comments

новое русское порно бесплатно@ Hot and Beauty naked Girls Respect to post author, some fantast…

© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: