◇木六駄(きろくだ)◇
主人は都の伯父に木六駄と炭六駄と酒樽を贈ろうと思い、太郎冠者に使いを命じる。
太郎冠者は大雪が降り続く、難儀な道のりを十二頭の牛を追いながら峠の茶屋にたどり着く。
そこで、少し温まろうと酒を所望するが、かねてより降り続いている大雪のせいで都へ酒の調達も行けず、生憎売る酒はないという。
ブツブツと文句を言うので、茶屋の主人は「そこにある酒樽を飲んだらいかがか?」と促す。
「それはまずかろう」と一旦躊躇するも、ほんの少しであれば、水を足して誤魔化してしまおう・・と言うことで、まんまと誘惑に負け、届け物の酒樽の手をつけてしまう。
気分が良くなった太郎冠者は、次々と酒を飲み始め、茶屋にも振舞い、ついには楽しい酒盛りとなる。
ここでの楽しい雰囲気と太郎冠者が舞い謡う「鶉舞」もまた見所。
太郎冠者は酔ってさらに気分も良くなり、木六駄を茶屋にくれてしまう。
そして、また牛を引き連れて伯父の家へと向かう。
ようやく伯父の家に到着すると、まず太郎冠者が主から預かった書状を見せる。
「木六駄に炭六駄もたせ進じ候」とその手紙を読んだ伯父に「木六駄はどうした?」と尋ねられ、太郎冠者は
「それは私の名前にございます。最近改名しました」などと言い訳をする。
酒までも飲んでしまったことが伯父にばれて、追われて入る。
木六駄のバックシーンは降り頻る雪景色です。
太郎冠者は牛を12頭引き連れ、木六駄、炭六駄、酒樽を持った道すがら、 『真っ黒な雪』
とその情景を描写します。
これはこれからの長い旅、雪が降り積もり足場の悪い道、出来れば行きたくないという、太郎冠者の心の暗雲を表現
しているのですね。雪が降る量も多く、雲も黒く厚い。まさに苦難の道が太郎冠者の眼前に広がっている。
道中、牛を追ったり、足元を調整したり、雪中で太郎冠者がかじかんだ手をこすりあわせて『はぁー』と息を吹きかける姿は観ている私たちまでも寒くなってしまいます。
確かに何の小道具もなくほぼ身一つで演じて行きます。
観客もイメージを膨らましつつ観ることが出来れば、更に味わうことが出来そうですね。
酒盛りに興じた茶屋を出てからの雪と太郎冠者の描写にも巧みな心理が隠されているのですね。
太郎冠者『雪が顔にチラチラとかかるのが面白いんだ(だから笠と蓑は要らない)』
先ほどの黒い雪と言う表現に対比し、雪が小降りになってチラチラと美しく舞う風景は、まさに酒を飲み、木六駄も譲ってしまい気分も荷物も軽くなった太郎冠者の気持ちの描写。
さて、木六駄で太郎冠者が身に着けている 笠と蓑
ですが・・・
雪が降り積もっている様子を表現するために蓑と笠に綿を付けています。
あれは、勿体無いと思うのですが1回1回取り替えるのだそうです。
萬斎さん「そのために大量に綿を買っていくわけですね、怪しいですね(笑)」
それでは、萬斎さんが綿を大量に買っていかれるのですか?と宮部さんが尋ねると、「今は若い人が買いに行きますけれど、昔は行きましたねぇ」
(大量にって・・・どれくらい購入されたんでしょうね・笑)
それから、 鍋八撥などで使われる「焙烙」
「これもよく舞台上で割るんですね、だからお店を見つけるとこれもまた大量に買い込んでいく」のだそうです。
小道具なども消耗品ですから、裏方の人たちも大変なんですね。
※見どころについては 2005年3月17日狂言劇場その弐で宮部みゆきさんとのポストトークの内容を参考にしました。