雪香楼箚記

秋(1)_吹き結ぶ






                                      小野小町
       吹き結ぶ風は昔の秋ながらありしにも似ぬ袖の露かな










 なんとか小町とか、小町娘などという言い方は、今やすっかりすたれてしまったようですが、それでもなお古今第一の伝説的美人として名高い野小町の歌。意味は、草木に露を結ぶ秋風はむかしと変りはしないのに、私の袖に落る涙の露は以前とはまったくちがってしまった。袖の露、は、涙の暗喩。恋歌をはじめとして、古典和歌の常套句。

 恋を知りそめたもの思いか、あるいは、男の心がわりに尽きない涙の姿か。どう読むかは、むしろこの歌に対峙する読み手の心にあるものでしょう。容色の衰えを嘆く女ごころ、と取れば、美女の妖艶な嘆きは一転して人生の哀感をあらわすため息となるはず。─だれしもそこから逃れえない、「時間」のみごとな肖像画。


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