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・・・・・・・・半農半Xという生き方~スローレボリューションでいこう。
半農半Xのすすめ
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半農半Xのすすめ
~天の意に沿って小さく暮らし、天与の才を世に活かす生き方~
塩見 直紀(半農半X研究所)
●心が海に乗り出すとき
ヨハン・ゲーテの詩に「心が海に乗り出すとき、新しい言葉が筏を提供する」という一節がある。数年前、農文協が世に問い、大きな反響があった「定年帰農」という概念は多くの人にとって、二十一世紀という大海原へ漕ぎ出でるための筏となった。海に乗り出すためには新しい言葉、新しいコンセプトが要る。意識が変わり、行動が変わり、暮らし方、生き方が変わる新概念の創出が必要だ。
私は二十一世紀の生き方の一つのモデルとして、「半農半X」というライフスタイルを提唱したい。一人ひとりが天の意に沿う持続可能な小さな暮らし(農的生活、シンプルな暮らし、たとえどんなに小さな市民農園でもいいから、自ら自給する暮らし・・・)をベースに、天与の才(X=使命・ミッション、個性、長所、役割・・・)を世のために活かし、社会的使命を実践し、発信し、全うしていく生き方だ。そんな社会ができないだろうかと思っている。それを私は「天の才を発揮し合う社会」と呼んでいる。
●半農半Xに至る道~「半農半著」との出会い~
現世代(いまを生きる全世代)中心の世では、将来世代(まだ生まれていない世代)への配慮もなく、すべては決められていく。つけを払うのは未来の世代だ。そんなことに気づいて間もない二〇代の半ば、「七世代先の子孫」を念頭に入れ、あらゆることを意志決定するというアメリカ先住民・イロコイ族の哲学に出会い、大きな衝撃を受けた。まるで最後の世代のようにふるまい、生きている私たちとは何だろうと。
田舎を出て、都会に暮らし、環境問題を将来世代の観点から私なりに考え、生き方、暮らし方を模索してきたが、自給農をせずにはいられなかった。しかし、農だけでは本当の解決はしない。環境問題を含み、あらゆる問題は、「ライフスタイル(生き方や暮らし方)の問題」とともに、「こころ(欲望など)の問題」が大きいと感じるからだ。私とは何か、人間とは何か、私の今生の役割は何か・・・という根本の問題の未解決こそ問題なのかもしれない。
一九九五年、屋久島在住の作家・翻訳家である星川淳さんの著書の中で、自身の生き方を表現した「半農半著」(農的生活=エコロジカルな暮らしをベースにしながら、執筆で社会にメッセージする生き方)というキーワードに出会った。これだ!この生き方は二十一世紀の生き方・暮らし方の一つのモデルにきっとなる、と直観する。星川さんはJ・ラヴロックの「ガイア仮説」など新しい時代の精神を日本に紹介してきた第一人者だ。星川さんには「翻訳」「執筆」という才がある。自分には何があるだろうと問いかける。しかし、何もない自分に気づく。もしかしたら、みんな、自分の「it(未知なる何か)」を探しているのかもしれない。ある日、その「半農半著」の「著」の部分に「X」を入れてみた。するとそれが難問を抱えた人類におそらく応用可能な、二十一世紀を生きるための一つの公式に生まれ変わった。永続して生きていくための「小さな農」、「天性」を世に活かし、社会的な問題を解決するための「X」。私たちが残した難問を解決するには、二つのことが同時に必要なのではないか。「半農半X」という言葉の誕生は僕の人生を変えることになる。
●バリ島モデル
ニューヨークという文明の極限に住み続け、科学・人間・自然の共生を探り続けてきた作家・宮内勝典さんと二〇数年前から、縄文杉の島に暮らす詩人・山尾三省さんとの対話集『ぼくらの智慧の果てるまで』(筑摩書房・一九九五年)で私は「バリ島モデル」に出会った。宮内さんが模索の結果、辿り着かれた「バリ島モデル」は、「半農半X」という考え方にも大きな影響を与えた。「バリ島モデル」は本誌でぜひ伝えておかなければならない。大変示唆に富んだメッセージだ。
「僕が今ぼんやりと考えているのは、バリ島型の社会です。バリ島では朝早く水田で働いて、暑い昼は休憩して、夕方になるとそれぞれが芸術家に変身する。毎日、村の集会所に集まって、音楽や踊りを練習する。あるいは、絵画や彫刻に精魂を傾ける。そして十日ごとに祭りがやってきて、それぞれの技を披露しあい、村人たちが集団トランスに入る。そして翌朝は水田で働き、夕方には芸術家になり、十日ごとに集団トランスに入る。村人一人一人が、農民であり、芸術家であり、神の近くにも行く。つまり一人一人が実存の全体をまるごと生きる。僕はこのバリ島モデルを、人類社会のモデルにすることはできないか、過去に戻るのではなく、未来社会に繋ぐことはできないか暗中模索しているところです」。
「実存の全体」を生きることを忘れ、「部分」を生きてしまっている私たち。私たちはそれを取り戻せるだろうか。取り戻すきっかけとしての「半農半X」になればいいと思う。なぜ、農とXの二つが必要なのだろうか。それは農が天職を深め、天職が農を深めるからだ。農に対する哲学を、天職に対する哲学を、双方が深め合う関係にあるからだ。
●使命多様性の時代
二十一世紀は「生物多様性」の時代といわれる。五年ほど前、「使命多様性」という言葉がふと生まれた。生命の多様性とは、それぞれが有する使命の多様性のことではないかと思うようになった。一人ひとり、一生命一生命は、使命は異なるが、全体では「一つの使命」を行じていて、「和の宇宙」を形成している。きっと私たちはそんな「宇宙」に生きている。使命多様性という言葉の誕生は、都会の人ごみも、満員電車さえも楽しいものにしてくれた。みんなそれぞれ固有の使命を持って、この世に生まれてきたことに気づいたから。まなざしが変わっていった。「雑草」に対し、「益草」という言葉をつくった農と自然の研究所の代表・宇根豊さんは「新しい言葉が生まれるのは新しいまなざしが生まれたから。新しい言葉は新しいまなざしをさそう」という。「新しい言葉」と「新しいまなざし」がいまの日本には必要だ。
「半農半X」「バリ島モデル」「使命多様性」という言葉に吸い寄せられるように、いろいろなキーワードがまるでジグソーパズルのピースのように集まってきた。そして、私の二十一世紀のヴィジョン、「天の才を発揮し合う社会」は、どんどんクリアになっていった。こうした出会いが重なり、「これは自分のX(役割)かもしれない」と思うようになる。私のすべき仕事(ミッション)もクリアになっていった。ナンバーワンを求めた時代から、一人一人、一生命一生命、一地域一地域・・・が輝くオンリーワンの時代へ、時代は確実に変わってきている。二十一世紀は使命多様性の時代でもある。
●「大切な預かりもの」と「みえないことづけ」
一〇年ほど前から気になっていることばがある。企業時代、先輩から教わったシモーヌ・ヴェイユの「与えるというものではないが、人にぜひ渡しておかなければならぬ大切な預かりものが自分の内にある」ということばだ。誰もがみんな、自分の内に、誰かに、ぜひ渡しておかなければならぬ「預かりもの」がきっとあるのだ。数年後、今度は大学の先輩から、工藤直子さんの「あいたくて」という素敵な詩を教わった。
「だれかに あいたくて/なにかに あいたくて/生まれてきた―そんな気がするのだけれど/それが だれなのか なになのか/あえるのは いつなのか―おつかいの とちゅうで/迷ってしまった子どもみたい/とほうに くれている/それでも 手のなかに/みえないことづけを/にぎりしめているような気がするから/それを手わたさなくちゃ/だから/あいたくて」(詩集『あいたくて』・大日本図書より)
私の「みえないことづけ」とは何だろう。詩を読んでそんなことを思った。「大切な預かりもの」と「みえないことづけ」。きっとそれがXだ。
●天の仕事を遂行するために メメント・モリ(死を想え)
「締め切りのない夢は実現しない」。最近、こんな言葉に出会って、はっとした。本当にそうだろう。気がついたら、母が逝った年齢に僕自身が近づいてきた。四二歳で母は逝った。当時、一〇歳だった僕はこの春、三七歳になった。一瞬一瞬を、「いま・ここ・この身」を懸命に生きたらいい。でも、私たちは明日も明後日もあると錯覚してしまう。人生には締め切りがいる、そんなことを考えるようになった。いつまでも生きられると思う生き方を変えなければ。メメント・モリ(死を想え)!三〇代に入った頃から、四二歳まで何年あるだろうと考えるようになった。あるとき、余命数年と自己設定することにした。それ以上の生命を与えられたら天からのごほうび、贈り物として、次のヴィジョンに向けてがんばろう。余命が残り五年としたら、それまでに、僕は、何をしないといけないのだろう。遣り残していることは何だろう。神さまがいるとしたら、僕に何をさせたがっているだろう・・・。
人はみんな天から与えられた才(天の才)を持っている。その天の才を他者のために、発揮し合う、活かしあう社会を夢みている。それをなんとか応援できないものかと考えてきて、生まれたのが「ポストスクール(次代の学校)」と呼んでいるミニマムな事業(ソーシャルビジネス)だ。それは、人々を勇気づけ、ミッションを応援するためのポストカードによる人生の学校だ。二十一世紀の生き方、暮らし方、生きる意味・・・について、さまざまなことば、名言、詩、物語、知恵など、チカラを持つことばを紙片にのせて、毎週、毎週、年間60通届ける、世界で一つの仕事だ。みんなの「天の仕事」を少しでも応援できればうれしい。
ポストスクールは個人のX(ミッション)を応援する仕事だが、グループや地域のプロジェクト、市町村のX(ミッション)も応援したいと思う。故郷・京都府綾部市にUターンで帰った一九九九年は偶然にも母校(小学校)が閉校となった年でもあった。その廃校を事務局にし、綾部の地域資源(「里山力」「ソフト力」「人財力」の3つの力)を活かし、都市との交流やゆるやかな定住増をめざす「里山ねっと・あやべ」(二〇〇〇年公設、民営をめざしている)の事務局を手伝うことになった。いま、地域資源調査とホームページ、メールニュース等での情報発信の業務を委託契約している。
一〇〇年ほど前、内村鑑三は『日本の天職』という本を書いているが、いま、私がしている仕事というのは、「綾部の天職」とは何かということを探究していることかもしれない。私にはまちづくりに関して、大きな夢がある。それは、「自己探求」の観点からまちづくりができないかということだ。「人生探求都市」を構想している。いま、誰もが、「新しい生き方、暮らし方」を多かれ少なかれ考えている。人はどこから来て、どこへ行くのか。何のために人は生まれてきたのか。このテーマに挑みたい。里山ねっと・あやべでは、昨年、二泊三日で「二十一世紀の生き方、暮らし方を考えるためのあやべ田舎暮らし初級ツアー」を開催してきた。九・一一以後、そのニーズはさらに増えているだろう。新世紀の生き方、暮らし方を考えるための一つの舞台に綾部の里山の地がなれたらうれしい。
今から100年ほど前、英語の「インスパイア(inspire)」という言葉が、日本の青年たちの間で好んで使われたという。あの人に出会って、あの講演を聴いて、この書物を読んで、この言葉にふれて、インスパイア(息を吹き込む、精神・魂を鼓舞する、心に火を点ける)された、と。今、この「インスパイア」ということがとてもとても大事なような気がしている。ミッションサポート。これが私のXだ。個人からから市町村まで「天職」を微力ながら応援していきたい。そこから「新世紀の希望」が育ってくれたらうれしい。
「半農半X」というコンセプトは「オープン・コンセプト(新しい社会を構想するためのみんなの概念)」であり、誰のものでもない。生を授かってから今日まで、先人から多くを学んできた。半農半Xという言葉はみんなのためのものだ。自由に活用いただきたい。
夏目漱石は「ああ此処におれの進むべき道があった!漸く掘り当てた!こういう感嘆詞を心の底から叫び出される時、あなたがたは始めて心を安んずる事が出来るのでしょう」(『私の個人主義』)と約一世紀前、学生たちに語った。いま、私も感嘆詞を心の底から叫ぶことができる。「半農半X」というコンセプトは私にとって、二〇〇〇年代を航海するための小さな小さな筏だが、もしかしたら、「半農半X」という筏をどこかで待っている人がいるかもしれない。そんな気がしている。これから私の本格的な人生が始まる。余命(後半生)をその恩返しに使いたい。小さな農をするということは、帰天するまで続く恩返しの一つだろう。
※『青年帰農』には故藤本敏夫さん(鴨川自然王国)の遺言があります。ぜひ読んでいただきたいメッセージです。
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