僕の生きる道



「僕の生きる道」第1話

「告知、余命一年」

中村秀雄(草なぎ剛)は私立進学校陽輪学園の生物教師。
同僚には理事長の秋本(大杉漣)の一人娘で現代国語担当の秋本みどり(矢田亜希子)や、同僚からは一目置かれる存在の太田麗子(森下愛子)らがいる。

小さい頃にはテノール歌手になりたいという夢を抱いていた秀雄だが、今は教師という職業を無難にこなして、平凡でも堅実な毎日に満足していた。
だから生徒たちが授業を真面目に聞いてくれなくても見て見ぬふりすることも珍しくない。
そんなある日、秀雄は健康診断の再検査を受けた。
「検査結果について大切な話があります」。
医師の金田(小日向文世)から宣告された内容に秀雄はぼう然となった。
秀雄はあと一年しか生きられないというのだ─。

 後日秀雄は金田医師に問いただした。
「僕の検査結果、本当は間違いじゃないんですか?」。
金田医師は秀雄の話を真剣に聞いてくれたが、検査結果は変わらなかった。
「君が今、生きていることに間違いはない」。
しかし秀雄の耳にはうつろに響くだけだった。

 秀雄は押し入れから小学校の卒業文集をひっぱり出した。
自己紹介のページに当時のニックネームや特技に混じって、将来の夢が書かれていた。テノール歌手。教会の聖歌隊に憧れていたのだ。
そして子供らしい文字でこう書いていた。
”ボクは幸せな人間になりたいです。
幸せな人とは後悔のない人生を生きている人だと思います”。
いつしか秀雄の頬を涙がつたいはじめていた。

秀雄は後悔していた。
二十八年間も生きてきたというのにあの頃思い描いた人生を生きてこなかったことを・・・。


「僕の生きる道」第2話

「読まなかった本」

秀雄(草なぎ剛)は進路相談で志望校にこだわる教え子の栞(上野なつひ)に、たかが大学受験で真剣に悩むなんてバカらしいと心ない言葉を言ってしまった。
母親から苦情を言われた教頭の古田(浅野和之)は秀雄を注意するが、逆に秀雄は古田が秋本理事長(大杉漣)のご機嫌伺いばかりしていることを辛らつに批判した。
古田に対する秀雄の態度に同僚教師達からおだてられ秀雄は上機嫌で酔ったが、深夜1人目覚めると時計の刻む音にいい知れようのない恐怖にさいなまれた。

 秀雄は今まで貯めていた貯金をおろすと、その夜から豪遊をはじめるが、心の底から気持ちが晴れるはずはなかった。

 秀雄が本心をぶつけられる相手は主治医の金田勉三(小日向文世)しかいない。
「何の痛みも感じないまま、ラクにしてください」と、秀雄は訴えたが、金田はそんなことは認めない。
行くあてがなくなった秀雄は、いつしか崖の上に立っていた。
そして秀雄は、両手を大きく広げてジャンプした──

 秀雄は死ねなかった。
「自分で死ぬこともできないんですか」という秀雄に「君に自分で死ぬ権利なんかない!僕には君の残りの人生を支える義務がある」と金田は厳しい口調で答えた。

 みどりが同僚教師たちと見舞いに来た。
「よく生きてたわよね。」ひとしきり好き勝手なことを言い帰って行く中、みどりだけは最近の秀雄がおかしいことに気づき金田に聞いていた。
「あなたは中村さんの特別な人?」「いえ、違いますけど」。
みどりは会釈して病院を出ていった。

 秀雄が病院の公衆電話から郷里の母親にかけた。
「母さん、僕が生まれた時、どう思った?」。
母親の声を聞いているうちに秀雄は胸がつまってきた。
病気の事は打ち明けることなど出来なかったが受話器を置いた途端、秀雄は声を押し殺して泣いた。
ロビーの長椅子に座っていると、隣りに金田が腰かけた。
「1年って、28年よりも長いですよね」。
金田は瞬時に秀雄の言葉を理解し答えた。
「そうだよ」。
その瞬間、秀雄の心の中で何かが変わった―。


「僕の生きる道」第3話

「封印された恋心」

 残された時間をしっかり生きようと決意した秀雄(草なぎ剛)はビデオ日記を始めた。
そして教師という仕事に対する態度を一変させるが、なかなか上手くいかなかった。
派手なメイクをしていたりな(浅見れいな)を注意するが、呼び出しを無視して下校してしまう。
さらに志望校を突然変えると言いだした雅人(市原隼人)の進路指導では、秀雄の指導に耳を傾けてもらえない。それでも秀雄には充実感があった。

 みどり(矢田亜希子)は秀雄の変化に気づいたが、原因は思いつかない。
そんな矢先、同僚教師の赤井(菊池均也)が結婚すると発表した。
りなの態度がおかしいのはそのことが原因と知り、秀雄は必死にりなの悩みを聞こうとするが、相変わらずりなは秀雄を無視し続けた。
そして赤井の結婚パーティーの日がやってきた。
みどりは秀雄が新郎新婦に語ったお祝いのスピーチを聞いて驚いた。
秀雄が語ったのは、まさにみどりの理想の夫婦像だったからだ―。

 秀雄は昼休みを利用して金田医師の診察を受けた。
腹部に痛みを感じる回数が増えていたのだ。
「教師として出来るだけのことをしようと努力してます。
これが今を大切に生きてるってことですから。
間違っていませんよね」「君が本当にそう思っているなら」。
秀雄は再びりなの家へ向かった。
「あなたはこの先いくらだって恋ができるんだから」。
秀雄の気持ちは通じ、りなは学校に行くと約束してくれた。秀雄は嬉しかったが、別れ際にりなが何気なくもらしたつぶやきが秀雄の胸に突き刺さった。「先生は間違ってる。恋はしちゃうもんなんだよ」。

 秀雄が学校に戻ると、夕闇迫るグランドでみどりが生徒たちとバスケットボールをしていた。
秀雄は自分に嘘をついていたことに気づいていた。
この恋を忘れようとしていたのは余命一年だからじゃなく、傷つくのが怖かったのだと。
「みどり先生、ずっとずっと好きでした」。
秀雄はありのままの気持ちをみどりに伝え、2人はじっと見つめ合って立ち尽くした。


「僕の生きる道」第4話

「教師・失格」

 秀雄(草なぎ剛)の教え子同士で妊娠騒動がもちあがった。
秀雄は雅人(市原隼人)に事情を聞きながら、人の命を軽視している雅人の言動に思わず殴りかかったが寸前で思い止まった。
妊娠は萌(鈴木葉月)が雅人の気持ちを確かめるための嘘だと判明したからだ。
他の教師達は妊娠が嘘と分かって安堵していたが、秀雄だけは生徒への性教育の必要性を感じ、翌朝早速、古田教頭(浅野和之)に提案した。
最近の秀雄の変化は誰の目にも明らかだった。

 後日、進路指導で医学部を希望する雅人に、命を扱う医者になる資格がないと秀雄が言ったことから口論になり、雅人が階段から落ちてしまった。
ケガは大事にいたらなかったが雅人の母親はPTA会長。
古田は秀雄に自宅謹慎を言い渡した。
みどり(矢田亜希子)は、時間に追われているように焦る秀雄のことが気にかかっていた。
謹慎中の秀雄は一連の経過を金田医師(小日向文世)に打ち明けると、「信念を貫けば味方をしてくれる相手がきっと現れるはず」だと励ました。

 古田が改めて謝罪の場を設けた。しっかり詫びるように古田から釘をさされていた秀雄は、とんでもない事を話し始めた-。

 秀雄は、雅人の妊娠騒動について話し始めた。
「ウチの雅人がそんなことするわけありません。
あなたこそ教師失格なんじゃないですか」。
話し合いは最悪のかたちで終わった。
秀雄の態度に古田は厳しい口調で詰問したが、秀雄はひるまなかった。
「命にかかわる大切なことを指導するより、進学率を上げる教師の方が正しいとしたら、僕は教師を続ける気はありません!」。
秀雄はきっぱりと言い切ると職員室を出ていった─。

 「終わった」。
落胆した秀雄が行きつけの焼き鳥屋で一人ビールを飲んでいると、みどりが現れた。
「中村先生は間違ってないと思います。
どうしても今日中に伝えたかったので」。
彼女こそが僕に味方してくれる一番最初の人なのだろうか。
焼き鳥をおいしそうにほおばるみどりを見ているうちに、秀雄はいつしか微笑んでいた。



「僕の生きる道」第5話

「あばかれた秘密」

 雅人(市原隼人)が秀雄(草なぎ剛)に階段から突き落とされてケガしたと言い張る騒ぎで、秋本理事長(大杉漣)が雅人の母親でPTA会長の久美子(銀粉蝶)と話し合うことになった。

 処分が決まるまで2年G組はみどり(矢田亜希子)が担任することになったが、その途端、生徒たちのさまざまな問題が持ち上がった。
愛華(岩崎杏里)の写真がアイドル雑誌に掲載され、愛華のことを問い合わせる電話が職員室に殺到した。
一方、めぐみ(綾瀬はるか)は未だに大学受験の志望校が決まらない。
彼女には何か夢があるのではないか…秀雄はそんな気がしていた。

 秋本と久美子の話し合いの席上、雅人は嘘をついていたことを認めた。
「自分で足を滑らせたんです」。
きっかけは秀雄が雅人宛てに書いた手紙だった。
いったんは捨てた手紙をみどりが拾って秋本に手渡してくれたのだ。

 「僕に味方ができたみたいです」。
秀雄ははずむ気持ちを金田医師(小日向文世)に伝えた。
金田は病気のことをその人に打ち明けるよう勧めるが、秀雄はみどりだけには絶対知られたくなかった─。

 秀雄は手紙のお礼がしたくて、みどりを食事に誘った。
「私、先生のこと好きですよ」。
もっともそれは同僚としての意味だろうと秀雄は思っていた。
「やっぱり誤解してる」気づいたら秀雄はみどりからキスされていた。
その後、何を話しかけられても秀雄は上の空だった。どうしてこんな展開になってしまったのか。
2人で見上げた夜空にはきれいな月が浮かんでいた。
ようやく秀雄の顔から笑みがこぼれた。

 その頃、1人で残業をこなしていた麗子(森下愛子)は給湯室で、秀雄が置き忘れた薬袋に気づいた。
「この薬!」。
麗子は秀雄の薬が何か、確信した。


「僕の生きる道」第6話

「悲しきプロポーズ」

 秀雄(草なぎ剛)は休日ごとにみどり(矢田亜希子)とデートした。
恋人同士の幸せなひととき。
しかし秀雄はみどりに病気のことを打ち明けられずにいた。
そんな矢先、秀雄は麗子(森下愛子)から屋上に呼び出された。
給湯室に置き忘れた薬から、麗子は秀雄の病気に気づいていたのだ。
「余命十カ月です」。
秀雄は正直に告白した。

 そして秀雄が病気のことを言い出しかねているうちに、みどりから「私と結婚して下さい」とプロポーズされてしまった。
秀雄は呆然としたまま「はい」とうなづいた。

 秀雄の部屋で一緒に夕食を食べるのがすっかり日課になっていたみどりが元気をなくしていた。
生徒の赤坂栞(上野なつひ)から「何もかも恵まれている人に、私の気持ちが分るわけありません。」と言われた事が原因だった。
しかしそんなみどりも母親を亡くした時のつらさは忘れられずにいた。
「もう二度と大切な人を失いたくはありません。」その言葉は秀雄に重くのしかかった。

 「ちょっとコンビニに行って来ます」秀雄が部屋を出て行った後、みどりは部屋の片隅に置かれたビデオカメラに気づいた。
何を撮っているのだろうか。みどりはビデオカメラに手を伸ばした-。

 みどりはたくさんの旅行パンフレットを抱えて秀雄の部屋にやって来た。
「新婚旅行はどこにします?」。
もうこれ以上黙っているわけにいかない。
「僕は胃ガンで、あと十カ月の命なんです」「知ってました」。
それでもみどりは楽しそうに新婚旅行の話題を続けた。「みどり先生、僕を見て下さい。
僕は、結婚できません」。
その一 言でみどりの中でこらえていた感情が崩れ、みどりは部屋を飛び出した。

 秀雄はビデオの電源ランプがついたままになっているのに気づいた。
そうか、彼女はこれで知ったのか…。
秀雄は祈った。
『神様、お願いです。僕の運命を変えて下さい。ダメですか?』



「僕の生きる道」第7話

「間違われた婚約者」

 秀雄(草なぎ剛)はみどり(矢田亜希子)に、余命あと10ヶ月の命だということを打ち明けた。
ずっと黙っていた事を詫びると同時に、別れ話を切り出した。
「私はずっとそばにいたいんです」。
みどりはそう言ってくれたが、秀雄の病状が今後悪化するのは目に見えている。
みどりに辛い思いをさせたくない。
秀雄の決心は変わらなかった。
そして秀雄は週末に帰省した。
母親の佳代子(山本道子)に直接病気のことを打ち明けるつもりだった。
実家へ向かう途中、懐かしさのあまり少年時代によく通った教会の中に入った秀雄は、みどりの姿を見つけた。
「今日は今日のためだけに過ごしたいんです。
中村先生と一緒に」。明るく振るまうみどりに秀雄は戸惑った。
しかも2人でいるところを佳代子に見つかってしまった。
「ゆっくりしていって下さい」。
佳代子はみどりを息子の婚約者だと思い込み、みどりは秀雄の実家に一緒に泊まることになった──。

 実家からの帰り道、秀雄はみどりと手をつないで心にやすらぎを感じた。
運命を受け入れたつもりでも恐怖からは逃れられない。
苦しみも辛さも日増しに膨れあがっていくだろう。
「みどり先生、ずっと僕のそばにいてくれませんか。結婚して下さい」。
みどりに迷いはなかった。
「はい」。
2人は笑顔で抱き合った。

 佳代子には電話で知らせた。
「母さん、僕、みどり先生と結婚するよ」。
そして声をつまらせながら病気のことを打ち明けた。
「母さんより先に父さんに会うことになりそうだ」。
秀雄とみどりは誓い合った。たとえ明日世界が滅亡しようとも、今日僕たちは幸せに生きることを-。



「僕の生きる道」第8話

「二人だけの結婚式」

 秀雄(草なぎ剛)とみどり(矢田亜希子)は結婚を決意した。
秋本(大杉 漣)は2人の結婚を喜んでいたが、みどりから秀雄の余命を打ち明けられた途端、表情を曇らせた。
「どうして死ぬとわかっている男と結婚するんだ」秀雄をまじえての食事会でも、秋本は結婚を許さなかったが、みどりは家を出て秀雄の部屋で暮らし始めた。

 秀雄は教え子の吉田均(内 博貴)が苛立っているのに気づいた。
どうやら受験ストレスらしい。
秀雄はみどりと相談して、放課後に体育館で合唱することを生徒たちに提案した。
しかしやって来たのは歌手を夢見る杉田めぐみ(綾瀬はるか)だけだった。

 秀雄はみどりに内緒で秋本を説得するため自宅を訪ねた。
「みどりが結婚すると言ってきかないのは分かる。
でも君はどうして?みどりの将来を考えたらこうはならないんじゃないの?」秋本の口から結婚を認める言葉は出なかった。
2人は秋本に認めてもらえないまま、同僚教師たちに結婚を発表した。
結婚式は2人きり、みどりの提案で秀雄が少年時代に通っていた教会であげることにした。
結婚式を明日に控えた夜、みどりは父親に電話をかけるが…。

2人は植物園を散歩した。
独身最後のデート。
結婚して50年目、金婚式だという初老のカップルから記念写真を頼まれた。
「明日結婚するんです」「あなた達も50年を目指してね」。
カップルを見送った秀雄はみどりに向き直った。
「みどり先生と約束したいことがあります」。

 翌日2人は秀雄の思い出深い教会で2人だけの結婚式にのぞんだ。
「死が2人を別つまで、愛と忠実を尽くすことを誓いますか」。
神父の言葉に2人はうなずいた。
その時、扉が開いて秋本が入ってきた。
みどりを見つめ静かに席についた。
2人は指輪を交換すると誓いのキスを交わした。
秀雄は胸の内でつぶやいた。
僕達は50年分、愛しあうことを約束した、と。



「僕の生きる道」第9話

「一枚の写真」
 秀雄(草なぎ剛)はみどり(矢田亜希子)と結婚したことを同僚教師と3年G組の教え子たちに報告した。
しかし幸せの門出はやがて訪れる“その日”に向かってのスタートでもあった。
秀雄は写真館で遺影を撮ってもらおうとするが、ふんぎりがつかない。
2人で始めた放課後の合唱に参加する生徒が増えてきたので、秀雄は合唱コンクールに出場することを提案した。
大半の生徒はじっと耳を傾けてくれたが、均(内 博貴)だけは無視した。
そんな矢先、雅人(市原隼人)の母親でPTA会長の久美子(銀粉蝶)が合唱を即座にやめるよう抗議した。
「今の時期、受験より大切なことなんてないはずです」。
秀雄とみどりは古田教頭(浅野和之)に合唱の継続を訴えた。
「合唱を通じて生徒たちに伝えたいことがあるんです」。
その時、秀雄が突然倒れた。「まだ死なないですよね!」。
狼狽する岡田(鳥羽 潤)の声を生徒たちが聞いてしまった──。

 「中村、もうすぐ死んじゃうんだって」。
あまりのショックに生徒の誰もが言葉を失った。
秀雄は胃からの出血は止まったが、数日は入院しなければならない。
秀雄の寝顔を見ていたみどりの耳に、ふと歌声が聞えてきた。
窓のカーテンを開けると、中庭で 3年G組の生徒たちが歌っていた。
秀雄がぼんやりと目を開けていた。
「天使たちが 歌っているのかと思いました」。

 退院した秀雄は写真館でみどりと一緒に写真を撮った。
自然と笑顔になった。
歌い続ける決心をした2人は生きる希望に満ちていた。
と同時に、やがて訪れる永遠の別れの日に向かって、ゆるやかに心の準備を始めた。



「僕の生きる道」第10話

「最後の誕生日」

 退院した秀雄(草なぎ剛)は3年G組の教え子たちに自らの運命を打ち明けた。
「迷いや恐れはありません」。
そして父兄から反対されている合唱部を続けるための条件を伝えた。
今度の模試でクラス全員がA判定の成績をとること。
そうすればコンクール出場を目指して、放課後に合唱部を続けられる。
最初は諦らめ顔だった生徒たちが、やがて授業にも合唱にも、そして受験勉強にもヤル気を見せ始めた。
しかし前回の模試で成績の悪かった均(内 博貴)だけは合唱に加わろうとしなかった。

 秀雄とみどり(矢田亜希子)は部屋に同僚教師たちを招いた。
披露宴代わりのささやかなパーティー。
2人は結婚した喜びを改めてかみしめた。
そして、いよいよ模試当日。生徒たちは真剣にテスト用紙に向かいあった。
数日後、秀雄は古田教頭(浅野 和之)から模試の結果を受け取った――。

 3年G組は合唱コンクールの予選を通過した。
「次の模試も必ずA判定をとって下さいね」。
数日後、秀雄が合唱を始めようとすると生徒たちがみどりの演奏に合わせて、ハッピーバースデーを歌いだした。
「僕は今日で二十九歳になったんですね」。
生徒たちは必死に涙をこらえていた。

 秀雄とみどりは温泉に出かけた。
新婚旅行だ。
2人は露天風呂から夜空の星をながめた。
深夜目覚めたみどりは隣りに秀雄がいないのに気づいた。
浴衣一枚で窓辺に座っている。
みどりが背中に羽織をかけようとした瞬間「死にたくないよ」。
秀雄は泣いていた。
子供のように泣きじゃくる秀雄をみどりはしっかり抱きしめた。
もっともっと生きたい。
僕はいま、世界で一番幸せなのだから。



「僕の生きる道」第11話

「愛と死」

 金田医師(小日向文世)から宣告されていた余命1年をすぎても、秀雄(草なぎ剛)は教師を続けていた。
しかし病状は確実に進行し、痛みは薬でなんとか抑えていたが、食欲はほとんどない状態だった。
合唱コンクールまであと1カ月。
新しい指揮棒を買った秀雄の不安を察したみどり(矢田亜希子)は秀雄を励ました。
2人の暮らしに変化はなかったが、みどりは秀雄のことを秀雄さんと呼ぶようになっていた。

 大学入試の合否発表が始まった。
勉強と合唱を両立させてきた3年G組の生徒はほとんど合格した。
ただ1人、均(内博貴)だけが不合格だった。
実力がありながら均は本番だと緊張して発揮できないのだ。
そしてコンクール当日がきた。決勝に進めるのは5校のみ。
客席には秋本理事長(大杉漣)をはじめ、教師たち全員が応援に駆けつけてくれた。
生徒たちは日頃の成果を発揮し熱唱した。

 歌い終わると同時に大きな拍手が起きた。
秀雄は客席に向かって頭を下げた。
しかし次の瞬間、秀雄は崩れるように倒れた──。

 秀雄はなんとか一命をとりとめたが残された時間はそう長くなかった。
「僕のこと、忘れないでくださいね。
でも、僕に縛られないでください」「どうしても会いたくなったらどうしよう」というみどりの言葉に、秀雄はプロポーズした大きな木の下に必ず会いに来ると約束した。

 合唱コンクールの決勝当日。最期まで“生きたい”という秀雄は病院を抜け出し、命の限りを尽くして生徒達の所へ向かった。
緊張していた生徒達も秀雄に見守られながら一生懸命歌い、会場は大きな拍手に包まれた。
コンクール終了後、生徒達は再びステージに戻り『仰げば尊し』を歌い始めた。
秀雄は薄らいでいく意識の中で、この1年あまりの愛おしい記 憶を甦らせていた。
そして秀雄はみどりに手を握られながら寄り添うように永遠の眠りについた。

 あれから5年。
みどりはあの大きな木に向かって、生物教師として陽輪学園戻ってきた均のことを報告した。
「私はとても元気です」去っていくみどりの後姿を優しく見守る秀雄の幻。

『僕は生きた。君がいてくれた、かけがえのない人生を。世界に一つだけの、僕の人生を。』




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