こころのしずく

こころのしずく

NARUTO 41~




「こころのしずく」三周年御礼小説リクエスト企画。かつてのアカデミー時代悪ガキ四人組に、任務依頼が……。
(ナルト、シカマル、チョウジ、キバ他 友情もの&CP・ほのぼの&ギャグ)

※サスケが里を抜け、ナルトが旅に出るまでの木ノ葉の里。第一部設定です。


 四人でバカやってた。
 あの頃に戻ろうか――

『陽が暮れるまで』(NARUTO41)

 サスケが里を出て三ヶ月。シカマルとキバは、木ノ葉病院へと続く田舎道を歩いていた。
「今の木ノ葉はマジで大変なんだな。こないだ退院したオレばかりか、まだ入院してるナルトとチョウジにも、退院してすぐの任務命令が出てるんだからなぁ」
 キバはうーんとうなり、腕に抱いた赤丸をなでた。赤丸もまだ傷が癒えたばかりである。
「まぁ今回はAランクじゃなくてBランクだけどな……」
「それでもBランクかよ……」
 キバはシカマルをちらりと見た。いつもみたいに、めんどくさいと言わない。シカマルの気持ちは分かっている。次の任務は、完璧にこなしたいと、切実に思っているのだ。
「ああ、知ってっか? ナルトのヤツ、自来也とかいう仙人と、修業の旅に出るんだってよ」
 シカマルは、フッと遠くを見つめた。
「……マジかよ」
 キバは目を見ひらいた。
「今回の任務メンバーは、オレ、お前、チョウジ、そんでナルト。どー思う?」
「それって……アカデミー時代のオレたち四人組じゃねーか」
「ああ。だから、どう思う?」
「イルカ先生が決めたとか……。まさかね……」

 四人で、遊んだ。
 四人で、イタズラした。
 四人で、怒られた。
 四人で、笑った。
 毎日がとても楽しかったあの頃。

 夜の街はオトナの世界。居酒屋に集まるのは、カカシ、ガイ、アスマ、紅、イルカ。
「うちの班は、何故チームワークがちっとも良くならんのだ!!」
 ガイは、悔しげに拳を握りしめた。
「ああ。リーとネジね。あの子たち、仲悪いものねぇ。テンテンも、手を焼いていることでしょうね。まぁうちの班も、まだキバとシノが、ちょっとね……。あのコ、一人だけこないだの任務から外されて、すねてんのよ……」
 紅はため息をついた。
「ガハハ! シノは外見が大人びているから、ギャップが激しいよなぁ。その点、うちの班は外見は見た目通り、めんどくさがりとポッチャリと口悪だが、チームワークは抜群だぞ。ただシカマルとチョウジが親友だから、いのがちょっとかわいそうだがなぁ」
 十班も、いろいろとあるらしい。
「カカシよ。お前んところはどうだ!」
「オレんとこ? ………………最悪」
 たずねたガイと他の皆は、フリーズした。サスケが抜けた七班の事情を良く知っていたはずなのに、ガイは酒のせいかうっかりしてしまったのである。
「す、すまんカカシ……。悪気はないんだ……」
「いいよ……。そういえば、サスケ奪回班のチームワークは素晴らしかったそうだね……」
 カカシはボソリとつぶやき、酒をあおった(しかし動作が速すぎてマスクが見えなかった!)
「あの四人がいましたからね。問題児ばかりですが、年上のネジやリーがかなりフォローしてくれたみたいですから」
 イルカは、あたたかく笑った。どんな子供をも分け隔てなく愛するイルカを、上忍たちは心から尊敬した。


 数日後。四人は出発した。
 任務開始。
 任務内容。何者かに盗まれた、木ノ葉の極秘情報が書かれた巻物を取り戻すこと。
 情報その一。敵は、砂隠れの里に潜り込んだ。
 情報その二。敵は、上忍レベルのフォーマンセル。
 隊員構成。小隊長シカマル。ナルト。キバ。チョウジ。計四名。
 特記事項。メンバーはアカデミー時代の超問題児四人組であった。

「特記事項がよけいだよな……」
 火影室で見た任務命令の書類を思い出し、シカマルはボソリとつぶやいた。

 森の枝を跳ぶ四人。
「なぁなぁ、こうしてっと、なんか思い出さねぇ? アカデミーのとき、授業抜けてさぁ、イルカ先生が追いかけてきて、オレたちこうやって逃げてさぁ……!」
 ナルトは、楽しそうに、懐かしそうに笑った。
「今は逃げてんじゃねーっつの! ナルト……」
 キバは笑い、けれどその笑いは、ほんの少しだけさみしそうにみえた。
 ナルトはもうすぐ里を発つ。そして多分、四人で何かをするのはこれが最後になるだろう。

 三日後。砂隠れの里に入った。
 四人は、砂三姉弟に手続きをしてもらい(我愛羅は次期風影としての練習をしていた…この手続き係が練習らしい…) 入国許可証をもらった。シカマルとテマリは目が合いお互いドキリとしたが、二人とも平静を装った。しかし二人は、実は思いきり付き合っていた!

 その夜、四人は宿で、作戦会議を開いていた。
「ネジかヒナタがいれば、白眼で敵を見つけることが出来るのにな……」
 うなるキバに、チョウジはシシシと笑う。
「なっ……なんだよチョウジ!」
「キバはネジより、ヒナタの方がいいんじゃないの?」
 とたんにキバは真っ赤になる。
「おっ、おまっ……お前こそ、いのに来てほしいんじゃないのか!?」
 今度はチョウジが頬を染めた。そして照れ隠しなのか、ガルBポテートをものすごい勢いで食べ始めた。それは強烈なガーリック味だったので、鼻の利くキバはぶっ倒れた。
 ナルトは、ふらふらのキバをベッドに寝かせると、ニシッと笑う。
「オレは、サクラちゃん!」
「それはずっと前から知ってる」
 シカマルはすかさず突っ込んだ。皆は笑う。
「だよなぁ……はは……」
 ナルトの笑い声は、だんだん元気がなくなった。他の三人は目を合わせた。分かるのだ。ナルトの気持ちが。サクラはサスケが好きで、そのサスケはもういない。
「ナルト。一楽のカップラーメン、食う?」
 キバが、ベッドに寝たまま、自分のリュックを示した。
「……うん! サンキューキバ!」
 ナルトは、いそいそとお湯を沸かし始めた。シカマルとチョウジは、ナイスキバ! と目で合図した。こういうのは、慣れている。アカデミー時代のあの頃は、ナルトが一番落ち込みやすかった。里の者たちにきらわれていたから。けれどそれを口でなぐさめたところで、事態は何も変わらない。子供だったし、何の力も持っていなかったから。けれど、その代わりナルトを元気づけることは得意になった。一緒にイタズラをしたり、遊んだり、今みたいにカップラーメンをあげてみたり。特に「一楽の味噌チャーシューカップラーメン1.5倍」は、効果てきめんだった。ちなみにチョウジには「ガルBポテート ガーリック味 ニンニク度10倍※当社比」が良く効いた。ただ、キバはその袋に半径5メートル以内に近づいただけで病院送りになってしまい大変だったのだが……。
「ねぇ……なんかボクたち、少しオトナになったと思わない?」
 ふと、チョウジが言った。
「だってさ、好きな女の子の話とか、してるんだよ。昔は、そんなこと興味なかったのにね」
「ははっ! 確かにな! ……って、シカマルも白状しろよな! テマリと付き合ってるんだろ!」
 シカマルは、飲んでいた梅コンブ茶をブッと吹いた。
「……てか白状しろって……もうバレてんのに白状もクソもねーだろ?」
 シカマルは照れながら服に垂れた茶を拭いていたが、キバの上に乗る赤丸は、思いきり茶まみれになった自分の体を先に拭いてほしいと切に願った。
「けどホント、昔はそんなことなんも考えないで、ひたすら遊んでイタズラしてたよなぁ……」
 キバは、懐かしそうな目で赤丸を抱いた。

 四人は、いつも一緒だった。
 四人は、いつも一緒に笑った。
 四人は、いつも一緒にイタズラをした。
 四人は、いつも一緒に怒られた。
 毎日がとても幸せだったあの頃。

 次の日、四人は苦労の末、どうにか敵の小隊を見つけだした。敵は、砂隠れの里を後にし、森へ入っていた。シカマルたちは、崖の上から、敵が休む森を見下ろし立っていた。暗い森とは対照的に、崖の上には強烈な夕陽の光が降り注ぐ。
 敵は、想像以上の強さだった。砂隠れの上忍を十数名も負傷させたのだ。
 シカマルは、崖っぷちに立ち、睨むように森を見下ろしながら、作戦を練っていた。いや、作戦自体はすぐに練れていたのだろう。ただ、何かに躊躇しているようだった。けれど、やがて意を決したように、後ろで見守っていた皆に声をかけた。
「今から作戦を言う……。かなり危険な作戦だが、これが成功しねぇとみんな死ぬから……な……」
 乾いた声で、シカマルは告げる。事態の深刻さを、皆は改めて思い知る。
「オレが影真似でヤツらの動きを止める。そこへチョウジが肉弾戦車で攻撃する。だが上忍ともなれば、何らかの形で反撃してくるだろう。それを食らう前にナルト、お前が螺旋丸で攻撃するんだ。巻物を持っているヤツだぞ。そんでオレかチョウジがすかさず巻物を奪い、速攻で退散だ。そんで、キバ……」
 シカマルは、キバを見つめた。少し苦しげな表情で。
「お前には、一番危険な役目をやってもらう……。オレが影真似の術を始動したとき、上忍レベルなら気付いて避けるだろう。そうならねーように、お前が奇襲をかけて足止めする。これはいつも赤丸と森を駆け慣れているお前しか出来ない。キバ、出来るか?」
「当然!」
 キバは即答し、ニヤリと笑った。
「……んじゃ、行くぞ。オレの合図で決行だ……!」
 三人はうなずいた。
 シカマルは森をじっと見つめる。タイミングを見計らっているのだろうか。けれど、シカマルはいつまでたっても合図をしない。固唾を呑んで森を睨んでいた三人は、ちらりとシカマルを振り返った。
 シカマルは、立ちつくしたままだった。指先が、かすかに震えている。
「シカマル……怖いのか?」
 キバの言葉に、シカマルの体は、かすかにビクンと揺れる。
「お前、こないだの任務でオレたちが死にそうになったこと、思い出したんだろ……。お前は小隊長だからな……。みんなの命預かって、重いよな……」
 キバはシカマルを、じっと見つめる。
「大丈夫だシカマル。オレ、絶対死なねーから。安心しな」
 決意のこもったキバの、どこか優しい声。シカマルはキバを見つめる。
「シカマル……」
 ナルトは、シカマルの冷たい手の甲を、ぎゅっと握った。
「小さい頃、オレがいじめられて泣いたとき、いつもシカマルがこうやって手を握ってくれただろ? オレすげぇ安心したんだってば……。オレたちがいるよって、伝わってきたんだってばよ……。シカマル、安心するか? オレたちがついてっからな。大丈夫になるまで、オレずっとこうしてるからな」
 シカマルの目に、うっすら涙が浮かぶ。けれど、こらえているのだろう。赤い目のまま、耐えるように空を睨む。
 チョウジが、シカマルの肩を抱く。
「ねぇシカマル。シカマルはすごい小隊長だし、ボクはシカマルのこといつだって信じてるよ。ねぇ、もう誰も死なせないって、シカマルは決めたんだよね。だったらボクたちも、小隊長のシカマルが決めたことを守るよ」
 シカマルは親友のチョウジを見つめると、すばやく目をこすり、そして迷いない表情を取り戻した。
「サンキューみんな……。よしっ! オレたち悪ガキ四人組の、最後の任務だ! 絶対成功させっぞ!」 
 皆は笑ってうなずいた。
「成功させて、イルカ先生んとこにも報告にいこうな……」
「おうっ!」
 皆はシカマルに、元気良く答えた。

 四人は、森の中を、体を引きずって歩いていた。皆、押し黙っていた。月の光は弱く、真っ暗に近い。
「ごめん……ボク、お腹がすきすぎて肉弾戦車できなかったよ……」
 チョウジは、ガルBポテートをぼりぼり食べながら、うつむいていた。
「オレの螺旋丸も、当たらなかったってば……」
 ナルトはポーチから「ガルBポテート ガーリック味 ニンニク度10倍※当社比」を出して、チョウジに渡した。チョウジは半泣きになりながら、もらったポテチを食べまくった。
 チョウジとナルトだけではない。キバの奇襲も上手く行かなかったし、シカマルの影真似も敵を捕らえることが出来なかった。当然、敵を捕縛することも出来なかった。
「それでもシカマル……イルカ先生のところには……報告に行くだろ……?」
 キバは、数時間前の戦いを思い出しているのか、うつむいたままたずねた。
「………………当然」
 シカマルは、ポーチからすっと何かを出した。
「オレたちは、任務成功させたんだからよ!」
 シカマルが掲げた手には、敵から奪い返した巻物が、しっかりと握られていた。四人は顔を見合わせ、しばらく睨むようにお互いを見つめていたが、やがて皆ニシッと笑った。
「……だよなぁっ!」

 戦いの有様は、こうだった。
 キバは赤丸と獣人分身で奇をてらったが、敵は全く無反応だった。キバはプライドが傷ついた。仕方がないからシカマルは単独で影真似の術をかけたが、敵は光を放ち影は消えてしまった。よく見たら光の出所が懐中電灯だったので、シカマルはムカついた。チョウジは肉弾戦車をしかけたが、三回まわったところで腹が減って力尽きた。あれ程絶え間なく食べていたのに…という視線を皆から食らったがチョウジはそれに気付かず、何故もっと食べておかなかったのだろうと後悔した。ナルトはやけくそになって螺旋丸を放ったが、当たらなかった。見ると、敵は最近はやりのヨガをしながら避けていたので、ナルトはブチ切れた。
 そして敵が一斉に反撃をしかけてきたそのとき――敵はバタバタと倒れていったのだ。敵は皆腹を抱えながらブツブツ言い始めた。
「ううっ……腹をくだした……」
「さっきの……”スーパーがあらマート”で買ったいちご牛乳が……いけなかったんだ……」
「だから……ホットにして飲もうって……言ったじゃねーか……」
「バカヤロー……いちご牛乳は氷でキンキンに冷やして一気飲みするのが常識だと言ったはずだ……」
 どうやら最後の言葉を吐いた敵が、諸悪をまねいた張本人らしい。ともあれシカマルは、敵からあっさりと巻物を取り上げた。
「シカマル! こいつら捕まえなくていいのかってばよ!?」
「バカ! 途中で腹の調子が治ったらどーすんだよ! 第一捕まえろなんて命令は出てねーっつの」
 そんなこんなで、任務は成功した次第である。

 四人は木ノ葉に帰還すると、そのままイルカのところへ報告に行った。綱手は完全に忘れ去られていた。怒った綱手が窓から机を放り投げると、ちょうど下を歩いていたシノに直撃した。実はシノは、またしても一人だけ任務から外されて面白くなかったので、任務をもらおうとウロウロしていたのだ。しかしシノの夢はさらに遠ざかった。シノは木ノ葉病院へ運ばれていった。

「やっぱりイルカ先生がこのメンバーを決めたのか」
 アカデミーの、もう生徒が帰宅した教室に、イルカと四人組はそれぞれ適当な椅子に座っていた。
「そうだよシカマル。シカマルは次の任務絶対成功させたいだろうと思ったし、ナルトはもうすぐ里を発つし、だからこの四人でって五代目に頼み込んだんだ」
「イルカ先生は、卒業しても、ボクたちのことちゃんと分かってくれてるんだね……」
 チョウジはうるんだ目で、ポテートをもぐもぐした。
「恩に着るぜイルカ先生……。この四人だったから、安心して任務を遂行できた」
 シカマルはうれしそうに、取り戻した巻物をイルカに渡した。しかしシカマルは、渡す相手を完全にまちがえていた。
「イルカ先生……オレな、こいつらが、初めて出来た友達なんだ……」
「ああ。ちゃんと知ってるよ。ナルト……」
 ナルトは、ホッとしたように笑ったが、どこかさみしそうだった。
「四人で、バカばっかやってたんだ。イルカ先生に怒られてばっかで……。けど、オレは……四人で一緒にいるとき……本当に楽しかったんだ……。毎日が、本当に、幸せだったんだ……」
「うん。ナルト……」
 イルカは席を立ち、ナルトの前に座り直した。
「だから……最後に四人で任務させてくれて、ありがとうってば……。オレってば、みんなが大好きだってばよ!」
 ナルトは、鼻の下をこすり、ニシシッと笑った。イルカはナルトの頭にポンと手をのせて笑い、シカマルも笑い、チョウジも笑い、キバ……。
 キバは、教室の一番すみに座っていた。片ひじで頬杖をつき、窓の外を眺めている。
「キバ。ボク今ニンニク味食べてないから、もっと近くにきても大丈夫だよ」
 チョウジが呼びかけたが、返事はない。外を見たまま。
「キバ……?」
 イルカが呼びかけると、返事の代わりに、キバの目から涙がこぼれた。涙は静かに頬を伝い、あとからあふれた。けれどキバは、声ももらさず、涙もそのままに、ただ外を見ていた。
「キバ――」
「オレたち成長したよ、イルカ先生……」
 キバはボソリと、イルカに答えた。
「成長したよ。額当てして、好きな女だって出来てさ……Bランク任務だって成功させたよ。けどさ……ほんの、時々、思うんだ……」
 皆はキバを見つめる。
「あの頃に、戻りたいなってさ……」
 キバの目は窓の外を向いていたが、見ていたものは、過去の夢――庭をかけめぐる、まだ幼い、自分たち。退屈な授業。修業の毎日。それでも四人一緒なら、それだけで楽しかったあの頃。
「……ごめっ…。オレ、ガラにもなく、なんか感傷的になった……」
 キバが手のひらで乱暴に涙をぬぐうと、三人はキバを囲った。
「あの頃に戻ろうか。キバ」
「……へ?」
 シカマルの言葉に、ナルトとチョウジはニッと笑い、三人はキバにひそひそ話をした。
「じゃあ……16番な……」
 四人は、なにやら真剣そうに話し合っている。
「お前ら……?」
 心配顔で近づくイルカに、四人は振り向き、ニィッと笑った。
「お色気の術!!!」
 ナルトはいきなりナルコになった。イルカは鼻血を天高く噴出する。
「影真似の術!!!」
 シカマルはイルカを捕らえる。
「肉弾戦車!!!」
 チョウジはイルカをボコボコにする。
「キバ!」
 三人は同時に呼びかけた。キバはうなずく。
「ごめんねイルカ先生~!」
 キバは、すでにのびているイルカを縄で縛り付けた。
「完了っと! 逃げるぜみんな!」
 キバの合図で、皆はいっせいに窓から飛び降りた。
 これぞアカデミー時代の最強問題児メンバー四人組が編み出した「イルカ先生から逃げるぞ大作戦その16(全37つ)」だった。彼らは先生を縛り付けるとんでもない生徒たちだった!

 皆が去った教室で独り、イルカは縄をほどいた。夕陽の光が、いっぱいに教室を満たしていた。
「ごめんね、か……。アイツら、手加減しやがって……。ホント成長したな……」
 イルカは、窓から外を眺めた。
「キバ……、あの頃に戻るのは無理だよ……。シカマルも、ホントは分かってるよな……。けれど、あの頃四人で過ごした日々なら、胸の中にいつまでも残るよ。それはみんなの、大切な宝物だよ。ナルト、旅に出るとき、それを忘れていったらダメだぞ。チョウジ、落ち込んだときは、いつも思い出して、励みにするんだぞ……」

 だが、無論返事は帰ってこない。イルカは、一人でしゃべりまくっていたことに気が付いた。誰も聞いてくれないなんてむなしすぎる。
「アイツら……オレの名言を聞く前に逃げやがって……!」
 イルカは、ラジカセを持ってきて録音スイッチをオンにし、最初から言い直した。そしてテープを四人の家に宅急便で送りつけた。

 四人は、森を跳んでいた。夕陽の強い光が、真っ正面から降り注ぐ。
「このまま、公園行こうぜ!」
 キバは赤丸を抱き、ひゃっほうと叫んだ。
「その前にコンビニが先だよ! おやつおやつ!」
 チョウジは、ヨダレを垂らしながら体を揺すった。
「歩くのめんどくせぇから近いところな!」
 シカマルは、ヨッと次の枝へ飛び移った。
「陽が暮れるまで、思いっきり遊ぶってばよ!!」
 ナルトは、大きく前へ飛び上がり、ニシシッと笑った。


 それは無理なのだと、四人は知っていた。
 だけど今日だけは、戻ろうか。
 四人でバカやっていた、あの頃に――


 公園は、あっという間に陽が暮れて。
 ナルトは、わっと泣き出した。 
 シカマルはその手を握り。
 キバは頭をなででやり。
 チョウジは背中をさすってやった。

 ナルトがいじめられて泣いたとき、こうしてなぐさめた。それはまだ、四人が初めて出会った頃。ナルトをなだめるのが上手くなる前の、不器用なやり方。こうすると、ナルトはよけいに涙を落とすと知っていたのに。それでも三人は、この方法でなぐさめたかった。こうして流すナルトの涙が、うれしい涙だと、分かっていたから――

「みんな、またなっ!」
 公園で、いつも親に連れられて帰る三人を独り見送っていた、かつての幼い子供は。あたたかく見送る三人に、笑顔で手をふり、かけていった。



 それから四人は一度もそろうことはなく。
 ナルトは里を発った。


 今でも時々、四人はイルカの言葉を思い出す。

 あの頃四人で過ごした日々なら、胸の中にいつまでも残るよ。
 それはみんなの、大切な宝物だよ。



 四人で、遊んだ。
 四人で、イタズラした。
 四人で、怒られた。
 四人で、笑った。
 毎日がとても楽しかった、もう戻らない大切なあの頃。



☆あとがき☆
 リクエスト内容「ナルト、シカマル、チョウジ、キバ悪ガキ四人組を主役とする新米忍(サクラ、ヒナタ、シノ、いの、ネジ、リー、テンテン)&先生たち&砂三姉弟・友情&CP・ほのぼの&ギャグ・お任せ」で頂きました。
 ナルトたち悪ガキ四人組の友情ものは大好きですv この設定を主として書かせて頂きました。 
 CPは指定がなかったので、主役四人に一番原作に沿ってる(気がする)お相手をつけさせて頂きました。こちらも、一組でもお好みのCPがあったことを祈るばかりです><
 登場人物ですが、リクエスト出来るキャラ人数を最大6人で受け付けておりましたので、やはり悪ガキ四人組を主要とさせて頂きました。他のキャラも、気持ち程度には登場させるようにしましたので、何卒ご了承頂ければと思います。
 アカデミー時代から続く四人の友情は、書いていてとても楽しかったですv 四人の友情に、少しでも心温かくなっていただけたなら、幸いです。
「こころのしずく」三周年ありがとうございました。
この物語を、見栄様へ捧げます。

☆リクエスト時に頂いたコメントのお返事☆
見栄様へ。
 小説お待たせ致しました。
 いつも見てくださっているなんてうれしいです(*^_^*) 小説も何度も読んでくださっているとのことで…! 楽しんでもらえて幸せです♪ すごく褒めてくださって、本当にありがとうございますo(*^▽^*)o~♪  
 初めましての方でも、いつも小説を読んでくださっている方がいるのだと分かってうれしいです! 応援もありがとうございますv 励みになります!
 この度は本当にありがとうございました!







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