こころのしずく

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小説 1~2




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『ある夏の日に』(るろうに剣心 頂き物1)

「剣心!!今日も頼む!!」

そう言いながら汗だくの弥彦が道場の扉をバンと荒々しく開ける。

道場の外には寝間着である白い浴衣を着ながら洗濯をしていた剣心が居たのだが、持っていた洗濯物をうっかり桶の中に落としてしまった。

それ程弥彦の声と道場の扉を開ける音は大きかったのだ。

「弥彦!!扉が壊れるでしょ!!」

外に居る剣心からの角度では見ることは出来ないが、こちらも汗だくの薫が顔を真っ赤にして弥彦に怒鳴る。

「剣心、今日も頼むわ。」

後ろからの怒鳴り声もどこ吹く風。

ハァハァと息切れをしながらもしっかりとした口調で言う。

弥彦の眼にはもはや剣心しか捉えてはいない。

「弥彦、薫殿の言う通りでござるよ。

 そんなに強くしたら戸が壊れるでござる。」

洗濯物から目を離さず剣心が言う。

怒っているのだろうか?

「それは悪かったけど・・・。

 それはともかくとして、早く稽古つけてくれよ!!」

最後の洗濯物をパンパンとしわをのばした後、ゆっくり立ち上がって物干し竿にかけるとようやく弥彦と目を合わせる。

「少し休むでござるよ。

 今しがた薫殿との稽古が終わったばかりでござろうし、もうすぐ正午でござる。

 それに、今日の稽古は強めでござるから覚悟しておくでござるよ。」

表情は変わらないが、眼の奥には凛としたものがある。

それだけ言うと剣心は身を翻して家のほうへ行ってしまった

「30分だ!!

 昼飯食って30分後に始めるぞ。それなら文句無いな!?」

その言葉だけが妙に響いていた。





「どうしたの弥彦?

 いつもみたいにバクバク食べないの?」

いつもに比べ食欲がない弥彦に薫が声をかける。

それでも、常人の2倍は食べているのだが・・・・・・。

「ん、あぁちょっとな。」

チラリと横目で見た剣心はいつも通りの量を食べ終えいつも通り、食後の茶をすすっている。

ただ、その茶をすすり終わるとさてと言って何処かへ行ってしまった。





「ったく剣心の奴30分って言ったはずなのに何処へ行きやがった。

 もう1時間は経ってるぜ。

 そもそもあの時返事聞いてねぇしな・・・・・・。」

疑い始めた弥彦の耳にカランカランと聞きなれた薫の足音がする。

「いたいた、捜したのよ弥彦。

 剣心が何か知らないけど道場へ来いだって。」

――いつもは外でやるのに今日に限って道場でやるということはやっぱりそれなりに厳しいんだろうなぁ。

  うっし!!今日も一丁やってやるぜ!!――

そんな感じで嬉々として道場へ向かう弥彦。

「ったく道場なら道場って昼飯ン時にでも言ってくれれば――!?」

戸に手をかけた途端に中から突如鋭い剣気が押し寄せてきた。

それは間違うことは無い。

いつも誰よりも近くで感じていた剣心の剣気。

戸を開けるのも躊躇われるほど強い気迫。

予想だにしていなかった展開。

けれども不思議と焦りはない。

剣心の本気が伝わってくる。


ただ。


それだけのこと。


一度大きく、気持ちを静めるようにゆっくりと深呼吸をする

「よし!!」と自分に一喝して覚悟を決める。

この道場へ入る時の言葉は決まっている。

「神谷活心流一番門下生、明神弥彦。

 入ります!!」

力一杯そう言ってゆっくり戸を開けるとそこには剣心が立っていた。

道場の中心に赤い着物を着て腰に逆刃刀を携えている、見慣れた剣心が。

稽古の時はいつも竹刀なのに・・・・・・。

「そこに立つでござる。」

そう言って、試合の時に最初に立つ位置を指差した。


決められた位置に立つ両者。

しかし、剣心にとっては優に間合いの中に弥彦が入っている形になる。

「お主が動いたら始めとする。

 好きに動くといい。」

剣心は納刀したまま左手の親指を鍔に、右手は柄にあてている。

右足を前に出し体勢は、低い。

十中八苦生ける伝説の神速の抜刀術、飛天御剣流でくるであろう。

対して弥彦は竹刀を大きく振りかぶった青眼の構え。

スピードも剣速も圧倒的に不利、一つ光明があるとしたら初太刀を捌いた後の二撃目をうまくいれること。

しかし、弥彦はあえて初太刀での勝負を挑んだ。

それは伝説の剣の得意を破ってみたいという子供ながらの好奇心故なのか――。



そうと決まれば先手必勝、はぁっという掛け声と共に敵へ全速力で突っ込む。

狙いは抜刀術の起点である右腰の反対側である左腰。

つまりは胴。

青眼の構えから僅かに左へ動かし、そのまま胴を放つ。

だが、そこに剣心の姿はもうなく竹刀は空を切る。

瞬時に視野を広げてみるが見当たらない。

その時下で影が動いた。

「龍巻閃・『凪』」

ボソリと下から呟かれたその聞いたことの無い技に驚きつつ、とっさに身を引く。

いつの間にか剣心は完全に懐に入っていたのだ。

目の前に逆刃刀の鍔が現れる。

それを身を反らせてやっとの思いでかわす。

しかし下からは顎へ向かい刀身が迫ってくる。

――まずい、確か飛天御剣流はすべて隙の無い二段構え!!――

懸命に避けようとするも気休め程度に竹刀にかする程度。

弥彦の危険信号が赤々と点灯された時、風が体を駆け抜けた。

気が付くと自分の喉元に剣が突きつけられていた。

冷や汗が頬を伝って相手の刀に垂れる。

「勝負有り、でござるな。」

微笑む剣心から既に剣気は感じられない。

「あぁ。

 完敗、だな。」

緊張の糸が切れゆっくり地面に沈み込む。

剣心は弥彦と道場に向かって軽く礼をし、戸の方へ向かった。

「おい、剣心!!もう終わっちゃうのかよ?

 厳しく稽古するんじゃなかったのかよ?」

剣心は歩みを止め弥彦に向かった。

「実践に勝る稽古無し。

 現にお主はもうクタクタでござろう?」

それだけ言い終わるとクルリと方向を変えさっさと出て行ってしまった。



「まだ、まだ早いな。

 拙者にもまだ――。」

決して弥彦には聞こえない程小さな声。

そしてそれは蝉の声に掻き消されて剣心にも聞こえなくなってしまった。



「クソ。」

搾り出すようにしてそう言うと道場にドサッと大の字に寝そべった。

半分笑いながら、半分泣きながら言ったその言葉に憎しみは、無い。

強いて意味をつけるとするならば悔しさ。

「クソ~~~!!!」

今度は腹の底から声を出してみる。

その反響をしばらく聞いて完全に無音になった後ゆっくりと立ち上がる。

そして何かを振り払うかのように延々と竹刀を振る。



暗闇の道場から風を切る音だけがいつまでも響いていた。



☆管理人感想およびお礼☆

まず題名が好きです。そしてストーリーですが、稽古の内容がとても本格的にかかれていてすごいなぁと思いました! 道場へ入る前の剣心の剣気…ここ上手いです! 新技登場で剣心がすごい格好良かったです!! そして弥彦が稽古後何かを感じ、独り黙々と竹刀を振るう姿が良かったです。
管理人にはちょっと書きづらい原作弥彦を書いてくださって……(管理人は妄想弥彦に走る癖がありまして・笑)
カン様、この度は素敵な小説をありがとうございました!




『未題』(るろうに剣心 頂き物2)

「弥彦!!」

急に呼ばれたので振り返ってみると剣心が自分に向かって突進してくる。

咄嗟に背中に背負っていた竹刀を構えると全力で剣心が打ち込んでくる。

ガキッ!!

竹刀と刀なので普段は聞かないような音がする。

「弥彦、確かにお主は強い。」

剣心が手を休めずに言う。

「だがいかんせんまだ幼過ぎる。

 無茶をしないで拙者らに甘えていいのでござるよ。」

弥彦が剣心に向かって思い切り面を放つ。

「甘えていい?俺が強い?ふざけんな!!

 子ども扱いすんなって言ってんだろ!!

 俺は弱いから、強くなるために修行してるし甘えない。

 もう俺だけ弱いのはごめんなんだよ!!」

「そうか、なら。」

弥彦の竹刀を払って柄を水月へ打ち込む。

軽々ととんだ弥彦は塀に当たり座り込む。

「強くなれ弥彦。誰にも負けぬ程に。」

「当たり前だ。

 剣心も越えてやるぜ。」

「それは楽しみでござるな。」

二人はいつまでも笑い合っていた。



――半刻後――

薫「二人ともご飯だって言ってるでしょ!!」

剣心「久々に本気を出したら脚をつってしまって・・・・・・。」

弥彦「剣心のがモロにみぞおち入ったわけだし・・・・・・。」



☆カン様コメント☆

これはりゆなさんへのプレゼントのお返しです♪

読むだけ読んで捨てて忘れてくださいw


☆管理人感想およびお礼☆

捨てられるわけないじゃないですかっ! というわけで、お願いして頂きました。管理人のくだらないプレゼントに素敵なお返しをありがとうございます。
甘えていい、って言う剣心が優しくて、冒頭から感動しました! それに対して弥彦、自分は甘えない、強くなるって……しっかりものの弥彦がまたたまりませんv 稽古の様子も本格的で、剣をまじえる場面とか管理人書くの苦手なので尊敬です! オチもほのぼので良かったですv
カン様、素敵な小説をありがとうございました!


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