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人生とサムマネー
「リタイアメント」を捉えなおす
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定年後の老後が心配だから、今は懸命に働いて金を貯めようと云う。できれば定年よりもっと早くリタイアできたら良いのにと願っていると云う。しかし、誰が定年を境に働くのをやめようと決めたのか?本当に私たちは働くのをやめたいのだろうか?
悲しいことに、あまりに多くの人が、嫌な上司に仕え、くだらない仕事、嫌いな職場にしがみつきながら働いている。何のために?リタイアメントを、ゆとりある老後を迎えるために。だから、定年と共に、嫌でたまらなかった仕事から離れようとする。
できれば今すぐにも変われるものなら変わりたいのかもしれない。しかし、好きなことをするには相当のお金が必要だ。そこでやむなくその夢を先延ばしにする。将来必要な資金が手に入った時、自分の好きなことをやるんだという気構えを、ずっと持ち続けていられると思い込みながら。考えても見るがいい。嫌な仕事を長年続けていたら、神経をすり減らしてしまい、実際その資金が得られた時には、もはや瑞々しい希望や夢なんてとっくに失せてしまっているだろうよ。
ある種の妄想に取りつかれてはいまいか?いつか本当に自分のしたいことを将来できるようにするためには、今はとにかくお金を稼ぐのが必要であり、嫌いな仕事でもやらなければいけないのだ、と。
結構!若く溌剌としていられる時期の40年間を犠牲にして、体が云うことを利かなくなる人生の秋・冬に自由を得ようとするなんて・・・。
しかし、リタイアし一線から退いた人たちは必ずしも幸せではないのだ。彼らはリタイアしなければいけないと思わされていたので、そうしたまでだ。調査によれば、41%の人が、リタイアメントが人生において適応するのが最も難しいと云っている。単調で退屈な日々、目的・目標や知的刺激の欠如とどうやって折り合ってゆくのか、煩悶している。
何故リタイアが幸せでないのか?答えは、リタイアメンとが自然に反する考えだからである。人間の精神に反するのだ。
殆どの人がリタイアを望んではいない。欲しいのは、自分の目標や利益を追い求める自由・気儘さであろう。欲することを、欲するときに、望む場所でしたいと。今のような仕事にマンネリ化してしまった生活を変えたいと思い、十分な金があればそれができると教えられてきた。
だから、老後の生活のために、自由を得るには2百万ドルを貯める必要があるというようなメッセージに私たちは弱い。しかし、これはウソだ。
老後に関する歪んだ考え方のために、人生という馬よりも、お金という荷車を前にしてしまった。
いつか自分らしい生き方ができるよう今はお金を貯めていると我々は云う、しかし、なんとか十分なお金を手に入れるまで、本当の生き方をするのを遅らせてしまう。あまりにも多くの人があまりにも長く待ちすぎるのだ。
定年・老後を捉えなおすことで、今すぐとは云わないまでも5年以内に、自分の望む生き方を見つけ、そのための資金の作り方が見えてくる。自分のライフスタイル・価値観・金銭の使い方などを見直すことになるし、優先すべきことを先に行う術を見つけることになろう。
<定年・老後にまつわる考え違い>
1.65歳は老人である
2.定年とは、それ以降働かないということ
3.60歳になるまでは自分の本当にしたいと思うことはできない
4.定年とは、純粋に経済的・金銭的なイベントである
5.安逸な生活こそ老後の目的である
6.自分ひとりで老後の準備ができる
誤解1.老人とは何歳から云うのか
昔の65歳と今の65歳とは相当違う。70歳を超えて宇宙飛行したジョン・グレンを見よ。活動的なシニアの典型的な例だ。
考えてもみるがいい。皮肉なことに、我々は長寿社会に適応するどころか、百年以上も前、それこそ平均寿命が46歳だった時(ビスマルクの社会保障政策、所謂「飴と鞭」の飴)に作られた定年年齢を未だに推し進めようとしている。もっとおかしいのは、早期リタイアを良しとする考えが浸透していることだ。例えば55歳でリタイアするとしたら、キャリアを積んだ年数と同じ期間を老後に費やすことを意味する。一体リタイア後の30年をどうするつもりなのか。
本当に年取ったというのは何歳を云うのか?その問いに対する回答は人それぞれが決めるものであろう。少なくとも60歳や65歳ではない。シニア層を対象にしたある意識調査によると、老人の境目の線は75歳ー80歳のどこかという結果だった。この線は今後も引上げ続けるだろう。
誤解2.定年後・老後は働かない
将来、定年後働かないという考えはなくなるだろう。老後どうするかを定義づけるのはあなた自身である。近未来において労働人口の減少が予想される時、働く条件が柔軟になり、自分にあった場所と時間を選べるようになるだろう。パートタイム的に働くなど、自分で老後の働き方をデザインするようになるだろう。
今までの硬直的なモデル、すなわち100%フルタイムで働くか、全く働かないかという区分は、いずれ過去の遺物となるだろう。
誤解3.リタイアする60歳になるまで自分の本当にしたいと思うことはできない
リタイアすれば自分の好きなことを気の向くままにできるようになる、そんな希望を胸に、今を犠牲にしていないだろうか。
あなたの人生はお金を稼ぐためのものなのか、それとも、お金はあなたの人生を築くためのものなのか。
大きく稼げる道を常に選ぶように我々は教えられてきた。いい学校に入って、いい会社に就職するようにと。稼ぎのいい仕事をしながらキャリアを積むことに夢中で、自分の本当にしたいこと、自分の魂が安らぐことを二の次にしてきた。何故?それは、いつか十分なお金ができたら、本当にしたいことができるようになるから。
肝心なことを二の次にしてしまうこうした誤った考えが、人々を早期リタイアに駆り立てる。つまり、リタイアすれば好きなことができると。
その挙句、自分の人生をお金稼ぎに使い切り、有意義な人生を築くためにお金を使うことを忘れてしまう。
ライフプランの立て方、優先順位の立て方を見直すことが、あなたの人生をもっと自由に、自分の望む方向に向け生きることを可能にする。あなたがすべきことは唯一、「大きくなったら何になりたい?」に答えることである。
誤解4.定年とは、純粋に経済的・金銭的なイベントである
金融業界は間違ったメッセージを送り続けている。定年は金銭的なハードルであり、リタイアするまでに十分なお金を用意すべきであると、過去何十年も言い続けてきた。
しかし問題は、せっかく巣の中に蓄えるにしても、木が枯れてしまっては元も子もない。巣の中の蓄えとは老後資金であり、枯れ木とは老後の生活である。
定年・リタイアとはライフイベントであり、単に経済的・金銭的なものではない。金銭だけで捕らえるのをやめ、もっとホリスティック・包括的なアプローチを採るべきであろう。その人それぞれの希望・夢、ライフステージ、家族構成、健康問題、お金などを総合的に考えることが大切である。お金のみならず、その人の魂、一生との関係で検討することが求められている。
こうしたライフプランニングのアプローチをする賢明なアドバイザーがいる一方で、お金しか気にしない単調で、短絡的なリタイアメントプランを提示する金融マンもいる。
旧態依然とした「定年」の考え方に縛られているのは終わりにしよう。もっと柔軟に、経済的なこと、職業的なこと、健康のこと、気持ち・感情のこと、精神的なことなど全部を考慮したライフプランを描くことにしよう。自分の将来をよりトータルに見るべきであり、単にお金を貯めるだけしか考えないのはあまりに無意味な生き方ではないだろうか。
人生を自転車の車輪に例えるなら、お金はそのスポークの一本に過ぎない。決して車輪全体ではないし、ハブでもない。自分が人生のどういうステージにあり、次はどんなステージが待ち受けているかを考える人は、そうしたステージではどんなお金の問題があるのか知りたいと考え、その相談にのってくれるアドバイザーを求めている。
誤解5.安逸な生活こそ老後の目的である
リタイアした多くの人がこうも不安がるのはなぜか?やりがいのある仕事がなければ、休暇も意味がなくなってしまうのだ。最初あなたが退屈するのだが、そのうちあなた自身が退屈な人になりはてる。
ゴルフや釣りはすごく面白いだろう、しかし、殆どの人にとり、それが今後25年のフルタイムの仕事と云われたらどうだろう、いやでたまらなくなりはしまいか。リタイアした後、気難しい老人があまりに多いが、彼らは飽き飽きしているのだ。
リタイアメントを謳うブローシャーによく出てくる写真、そう、一日中レジャーずくめという絵があるが、そんな神話の正体を暴くのだ。我々の多くは、仕事の中に意義や目的を、レジャー休暇の中にカタルシスを、それぞれ見つけているのだ。どちらか一方をなくして他方だけ楽しむというのは実は難しいのだ。我々の生活にはそうしたパラドックスが必要なのである。
だからこそ、リタイアした人の3分の1が1年のうちに何らかの仕事に復帰する。その3分の2以上はフルタイムの仕事に就いている。そうでもしないと彼らは死んでしまうだろう。
リタイア後の生活を健康で楽しく送れるよう計画すれば、医療治療や薬品代が少なくて済むという事実が、定年後に対する考え方を変えつつある。
退屈な生活は悪習を招く。目標のないリタイア生活は病気に侵されやすい。自分の体や精神を鍛える気が全く起こらない。老後に向けた適切な心身の健康管理が、経済的にも健康で良好な状態を作り出すのである。
誤解6.自分ひとりで老後の準備ができる
401kの普及やオンライン・トレードの出現により、自分の将来の資金計画は人の助けを借りなくても自分の手でできると考える人が多くなった。あたかも、「自分でビタミンや薬を買うことができるので医者は要らない」といわんばかりである。しかし、必要に応じて自分で適切なビタミンや薬が買えるだろうか。前回検査を受けたのはいつか?検査を受けようともせず、自分の体は心配要らないと信じ込んでいるのだろうか。
体の健康はともかくお金の健康になると、容易に否定する人が多い。自分ひとりで必要なことは全て知っていると思い込まない限り、健康の自己管理は望ましいことである。それでも、医療の専門家を必要とする時と場所があるように、お金の面でのウェルス・マネージャー、アドバイザー、マネー・コーチが必要となるケースがあろう。
なんでもかんでも上がるブル相場が続くときは、自分ひとりでなんとでもなるという思い込みが激しくなる。しかし現実は、プランニングのスキルもなければ、自分で実践していけるだけの規律を持ち合わせている訳でもない。
私たちが自分の人生・お金でどう生きたいかの問題を考える時、誰かに頼んで手伝ってもらうのは、単にアドバイスに対し料金を払うのではない。私たちは、彼らから指示・方向性を得たり、必要な程度に応じた規律・accountabilityを授けてもらっているのである。
もし今の自分が望む状況になく、また、いつそこに辿り着くかのアイデアがないとしたら、ひとつの事実に直面しなければならない。本当に自分ひとりでできるのなら、すでに出来ていたはずである。
航空チケットを自分で買うことはできるということが、旅行代理店のアドバイスを不要とするということになるだろうか。私はよく旅行に出かける方だが、見知らぬ土地に辿り着いて何時間も待たされたり不愉快なことがある。やはり、そこに行ったことがある人に聞いてみたいし、どこが見どころか、適当な宿はどこか、どうやって行けばよいかなど適切で安全な選択ができるよう私をガイドしてくれそうな誰かに訊ねたい、。
大事なことは、適切なマネーコーチを探すこと。あなた自身について、あたなの夢や今おかれている状況について理解し、これからの人生の旅をサポートし、ガイドしてくれる人を探すことである。
リタイアメントの新定義
「リタイアメントは定義し直す必要がある。まるで死と同義に聞こえるのだ。人生のどんなステージでも変化が起こりそうな何か新しい可能性を意味する言葉に代えた方が良い。」(Dr. Ruth Westheimer, sex therapist)
リタイアメントは神話・因習に則ったものだ。リタイアメントというコンセプトは、ゆっくりだが、激震をもたらすような定義のやり直しが行われようとしている。なんたって、リタイアした85%が現役でいようとしているのだ。それは、再度燃える、再度働く、再度始めるチャンスを意味しており、一線を完全に退くというリタイアでは決してない。仕事について、人生について今まで修得したことをフルに活かす機会なのだ。
リタイアメントとリタイアメント・マネーを実態に即して読み替えるべきなのだ、第二の人生(二度目の挑戦)と自由解放資金だと。多くの人が新しい自分を再スタートさせることを楽しみにしている。何かにトライしたい、ずっと心の中で暖めてきたアイデアを試しにやってみよう、腰をすえて取り組み、当分生活を簡素化したい、などと考えている。
あなたにとってのリタイアメントが何かを定義付けすることは他の誰にもできない。何故なら、あなたの人生でありあなたの夢に関することだから、あなた自身にしかできない。
簡単なメンタル訓練をしてみよう。自分にこう問いかけるのだ。もし、定年がなかったら、どうするだろう?人工的に決められた定年(米国62歳)というゴールに向けて走るのを止めたら、今日の生活・明日の予定はどう変わるだろう?あなたの頭と生活から、この不自然な境界線を取っ払ってしまおう!そうすれば考え方も生活も自由になる。纏わりつくリタイアメントの神話の縺れから自分を解きほぐし、人生の本当の現実と向き合うのだ。ひとたびこの境界線が取り除かれれば、我々に残されたものは、今の現実と未来の希望を熟考することだけだ。至福の喜びという幻想を追い求めて今を犠牲にするのはやめるだろう。自分の才能・天分を利用し、深く心に感じる趣味的な望みを表す「今」の仕事に注力し始めるだろう。遊びと感じられるような仕事を探し始めるだろう。
もし定年という境界線が取り払われたら、その時点までに相当な金額を貯めておかなければならないという日々付き纏うプレッシャーから解放されるだろう。このプレッシャーから解放される時はじめて、お金を尺度に決めるのではなく、目的意識や満足度を基準にしてどれを採るか選ぶことができる。まったく奇妙な現象であり、説明が難しいのであるが、自分の心に従い、情熱を持って関心のあることに突き進む人々の元にお金はやってくる。自分の心に従えば、もうひとつ別なものも序でにやってくるだろう、充実感だ。それはどんなにお金を積んでも買えない貴重な宝である。
(完、「神話としてのリタイアメント」)
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