2002年11月15日
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【連載】曽保みかん百年史(第1回の1)
出荷組合誕生の巻

 オリンピックが二つもあって、天皇陛下の中国ご訪問が決定されて、カンボジアも平和部隊が派遣されて、平成四年も結構いろんなことが起こんりょるけど、ここ曽保地区でもかつてないほどミカンの実が樹にひばりついとって、みんな摘果に精だっしょらい。バブル崩壊とかで株の値段も安うなってこの先景気が心配やが、これは前にもどこかでみた風景ではないかいな?おお、そういえばちょうど六〇年前の昭和七年も景気の悪い時代やった。東北の方では食うものがのうて娘を売りに出したちゅう話を聞いたことがあったが、犬養首相は暗殺されるし、満州ではラストエンペラーの薄儀を担ぎだしてくるし、暗い話が多かった中でロサンゼルスオリンピックでの水泳の活躍などが明るい話題やったかのう。

 突然こんなことを言い始めたおまえは誰かと言いたいのやろ?おらはのう、日枝神社の裏にもう長いこと住んどる狸よ。今話題の金さん銀さんよりもうちょっと長いこと生きとるかいのう。ここらの景色も昔とはだいぶ変わって住みにくうはなって来たが、この前の戦争からこっちは世の中がまるで変わってしもうて、昔のことを言い伝える事も少のうなったんで、ここらでおらの昔話でも聞いてもらおうかいなと思うて出てきたわけよ。

 時は昭和七年十月の末、ミカンの値段はどんどん下がってついに二〇銭を割り込む事になった。当時のミカンの相場ちゅんが「米一升、ミカン一貫目」といわれて、四〇~五〇銭やったかいのう。それが十七~十八銭になり、オニ(皮の厚いミカン)やビリ(小玉)は八~十銭、ギリ(最も小玉)は五銭になった。たとえ話になるがここに金の茶釜があって、仮に百円の値打ちがあったとせんかい。しかし買い手がなかったら相場はつかん。ようやく買い手がついて仕方無しに安く売ってもそれが相場というもんよ。当時のミカンはそんな茶釜やったんよのう。それでも他の物も同じ割合で安うなって、その調子で経済がクルクル回って行けばなんとかなるんやろけど、まったく回らんようになってしもた。これではとても食うていけんわいな。仁尾町でも何とかせなと失業対策(しったい)の土木事業を始めたのもこの年やった。

 そこで十一月のはじめ当時の「大作り」連中がオトメはんきの二階へ寄って、「何とかせないかん。」と相談をした。義正はん、平二さん、文明さん、良弘はん、精一つぁん、貴一郎はん、快秋さん、九平はんやがおったかいのう。快秋さんが「伊予の方では二~三年前から共同でミカンを出荷しよるげな。ほんで大阪で高うに売りょるげな。」と言うので、「ほんだらまずそれを実際に見て来んか。」ということになった。

 十一月十一日(金)朝、義正はんと良弘はんが伊予の松山の駅へ降りた。どこへ行ったらいいか当てもなく大通りを歩いていくと、六~七百メートルほど行ったところに「伊予果物同業組合」という看板がかかっている。「とにかく此処へ入らんか」と、ガラス戸を開けると、中には五十~六十歳くらいの人がおった。その人はちょっと中風気味で片手が不自由なようやった。「私らは讃岐でミカンを作っとんやけど、伊予では共同でミカンを出荷しよると聞いて来たんやけど。」「そらあよう此処へ来なさった。確かに数年前から共同出荷をはじめてなかなか良い成績を挙げよらい。あんたらは運がいいぞね。何なりと教えてあげらい。」と言うような調子で出荷方法や共同計算の仕方などを教わった。おまけに駅の方へ二~三百メートル引き返したところにある「彩六会」を紹介してくれた。ここは六人でミカンの共同出荷をしている組織で、選果場には伊予ミカンのレッテルを貼った木箱が積み上げられ、仙波式の選果機でミカンをより分けていた。実際の共同出荷方式を見て、「なるほど、これならわしらにも出来る。」と感じた二人は伊予果物同業組合のおっさんにお礼を言って、帰ってきた。
この中風のおっさんが、岩田千太郎と言う人やったと良弘はんは言うんやが、愛媛の方の本には当時の伊予果物同業組合長は岩田鷹太郎となっとるので、ちょっと疑問が残っとる。まあそんなわけで、帰ってみんなに話をすると「共同出荷をせんか」と言う事になってさっそく準備にとりかかった。






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最終更新日  2002年11月15日 12時00分48秒
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