◆内服薬の場合
猫に内服薬として経口投与されることの多いステロイド剤は プレドニン 、 プレドニゾロン などの薬剤名で販売されているプレドニゾロン(成分名)です。プレドニゾロンは 約24時間ですべて尿中に排出 されます。そのため下記の図のように投与後から排出までゆるやかな弧を描くように作用が上下します。ステロイド剤の内服を1日置きにすること(= 隔日投与 )はステロイド剤が体内に残留しない時間ができますから副作用の心配がかなり軽減すると考えられています。
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プレドニゾロンの作用イメージを他の薬剤と比較して図にしてみました
*図のなかに書かれている「デポ・メドロール」は注射薬(後述)です。5kgの猫さんにプレドニゾロン5mg1錠/日投与と同程度の内容を注射したことを想定しています。注射の投薬内容量が多くなればy軸の体内残留値は高くなりますのでご注意ください。
[追記]2007/11/01
※小児へのフルタイド利用による急性副腎不全については右記を参照: フルタイドについて @ 喘息FAQ < 喘息を克服するためのページ (喘息患者の会『 わかば会 』運営)[ web魚拓 ]
◆投薬内容を把握する
まず何よりも大切なことは、自身の猫に投与されている ステロイド剤の特性、ステロイド剤を投与する理由、投与する薬の名前と投与量 を把握することです。
投薬されているものが何か分からなければ、転院先の獣医師も手探りでの治療と副作用対策から始めなければならず、猫さんの身体やご自身の気持ちにも負担が大きくなります。
投薬時に獣医師に「何を」「どれだけ」「なぜ」投薬するのかをお聞きすることが大切です 。薬剤に慣れ親しんでいなければ意味をもって名付けられているはずの薬剤名も記憶に残り難いです。ご自身でメモに残しておくか、先生や受付の方に紙に書いていただくと間違いが減ります。
その際には、ステロイド剤を利用した場合、 症状をいったん抑えるだけ(=対症療法)なのか? 疾患が寛解する可能性があるのか? 予後はどのようなものか? についても詳しくお聞きするとよいでしょう。寛解の可能性があればステロイド剤の減薬コントロールの期間(数週間から数ヶ月まで幅広い)と方法に見通しがつきます。寛解の可能性がなければ、症状をコントロールできる最低容量をさぐっていくという慎重な投薬コントロールが必要になります。
ステロイドの減薬コントロールや適量・最低容量の模索は猫さんの毎日の様子とその変化を観察することが必須です。 猫さんを毎日見ていて小さな変化も見逃さない患者さん自身がしっかり行う ことでより適切なものになります(※減薬コントロールは症状が落ち着いてからステロイドの投与量を徐々に条に減らす、投与間隔をあけていくという方法を慎重に行っていくものです。投与量が多い場合には半年から1年かかる場合もあります)。
◆副作用に対して心構えをする
薬剤には副作用がつきものです。しかしステロイド剤を利用した場合の 副作用の予防・発見・治療について、十分な説明を する獣医師はそれほど多くないことは前述した通りです。
炎症を抑えるために 低容量のステロイド剤 の経口や注射による投与を予定している場合であれば、副作用を回避するための方法はいくつかあります。 外用のステロイド剤を利用してステロイドの摂取量をさらに低容量に軽減する ことや、ステロイド剤以外の薬剤を利用すること、まったく化学薬品を使わずに治療を試みることも可能です。
しかし 免疫疾患のために 高容量のステロイド剤を利用している場合 には、ステロイド剤に代替しうるもので猫に安全に利用できる薬剤は少なく*4、対応に苦慮します。
そこで、
・副作用を理解する
・副作用の前兆をできるだけ早期に発見する
・副作用を治療する
・疾患の治療も継続する
ことが重要になります。
副作用についての説明、副作用が生じた場合の副作用症状ともともとの疾患の治療方法について、できるだけ詳しく担当の先生からご説明を受けることが必須になります。 * 5
◆自分でできる対策は?
このほか患者さん自身が積極的にとれる対策もあります。
まず 副作用としてあらわれる症状についての知識を前もって得ておく ことも大事です。なぜなら実際に病状に直面したときには慌ててしまって、なかなか文字が頭に入ってこない場合も往々にしてあるからです。
つぎに副作用の前兆をなるべく早期につかむことです。
一番簡単なのは 体重管理 です。糖尿病に罹患すると体重が激減します。このほかの疾患の場合(例:腎疾患、甲状腺機能亢進症)にも猫さんの体重は激減します。計器は人間用でも構いません( ベビースケール を利用すると10~20g単位での増減を把握できます)。
定期的に血液検査を受けておく とBUNや蛋白の上昇を把握できますので、脱水対策をすることも可能になります。 猫の血圧を測ることも可能 ではあるので設備のある動物病院に通われている場合には血圧測定の相談をすることも悪くないと思います。
また ご自宅で猫さんの尿糖を定期的に計っておく とすみやかな対策をとることができます * 6 。興奮で血糖値が急上昇する猫の場合は、糖尿病の把握に尿糖検査が必須となりますので、有効な把握手段です。ときには動物病院で尿検査を依頼することも安心材料になるでしょう(清潔な容器に尿をいれて動物病院に持ち込むことでも検査可能です。かかりつけの動物病院にて詳細をお聞きくださいませ)。
さらに可能であれば 一日の飲水量を把握する となおよいです。多頭では難しいのですが‥1猫さんのみと暮らしている場合には比較的容易にできます。飲料用の水を入れた器の重さを量ることによって可能です。最初に飲水用に用意している器に水をいれた状態で容器ごとの重さを量ります。24時間後に同じようにその器の重さを量り、差し引きして水の量を把握します。
これらの記録管理のために 猫さんノートを作っておく ことになります。記載面に余裕があれば、投与した薬剤と投与量・投与時間に加えて、食べたもの、すこし気になった猫さんや排泄物の様子、お天気なども書いておくと、後年になって思いもかけないところで役だったりします。慣れてしまうと面倒にもならなくなります(^_^)ので作成をオススメします。
[追記]2008/01/05-09
※ 猫へのシクロスポリン投与は現在も適応症以外への投与となる のでご注意ください(動物用薬「 アトピカ 」は犬用のシクロスポリン製剤です)。
※猫へのシクロスポリン投与に関する論文情報を追記します。
・CHIARA NOLI, STEFANO TOMA (2006) Three cases of immune-mediated adnexal skin disease treated with cyclosporin Veterinary Dermatology 17 (1), 85-92.[ abstract ]
・C Noli, F Scarampella, Prospective open pilot study on the use of ciclosporin for feline allergic skin disease, Small Anim Pract. August 2006;47(8):434-438.[ abstract ]■猫アレルギー性皮膚疾患に対しシクロスポリンに関する前向きオープン予備研究・A. Vercelli, G. Raviri, L. Cornegliani (2006) The use of oral cyclosporin to treat feline dermatoses: a retrospective analysis of 23 cases Veterinary Dermatology 17 (3), 201-206.[ abstract ]
・ 皮膚病 @ 週間週刊V-magazine の 過去ログ [ web魚拓 ]■猫の皮膚疾患に対するシクロスポリンの経口投与:23症例の回顧的研究・C Noli, F Scarampella (2004) FC-41 A prospective pilot study on the use of cyclosporin on feline allergic diseases. Veterinary Dermatology 15 (s1), 33-33. [ abstract ]
・ 週刊V-Magazine 過去ログ> 皮膚病 [ web魚拓 ]
・ 前田貞俊 訳『獣医皮膚科臨床』2007年9月号Vol.17 No.1[ 出版社 ][ web魚拓 ]
・Richard W Mitchell, Phillip Cozzi, I Maurice Ndukwu, Stephen Spaethe5, Alan R Leff1, and Philip A Padrid, Differential effects of cyclosporine A after acute antigen challenge in sensitized cats in vivo and ex vivo,British Journal of Pharmacology (1998) 123,1198-8211;1204; doi:10.1038/sj.bjp.0701716[ html ][ web魚拓 ]
[追記]2007/01/07
上記の猫さんは吸入治療の結果「ほとんど発作なく全身状態は著明に改善」後に吸入治療に猫さんが非協力的になったために他の治療方法を採用されています。参照:城下幸仁「 猫の気管支喘息をどうコントロールするか:猫の気管支喘息と診断した3例 」の症例2( スライド ・ パネルディスカッション )@第28回動物臨床医学会年次大会(2006)[ web魚拓 ]