日本の獣医療では猫の喘息治療が確固としていません* 1 。咳をする猫さんの状態の深刻さの度合いを測ることが難しいこと、咳をする猫さんを動物病院に連れて行って長期治療を試みる方がまだ少ないことから、開業獣医さんのもとでの 臨床例もまだ少ない ものと考えています。そのために 積極的に長期治療を望む患者さんが治療方法の選択肢を獣医さんから積極的に受けることができない場合もあります 。
軽い咳(1年に数回)であれば特に対処せず済ませてしまうことは人間でも可能です。しかし中程度~難治性の場合(明け方に咳の発作がある)には内服薬等の通常の治療ではコントロールが難しくなります。そこで(人間でも)吸入器を使っての薬剤導入を試みることになります。
私自身は人間の喘息薬の対症療法に使われる薬を約2年間うちの喘息猫さんに利用しています。現在はステロイド剤の吸入を中心にしてステロイド剤の内服を減薬して喘息をコントロールすることを試みています。
ここに至るまで、そして 今現在もよりよい治療を模索しています 。人間用の薬剤を参考にした 備忘録 としてこの[memo]「猫と喘息の薬」を記しています。記載した内容について理解不十分な点が見受けられる場合には、コメントなどでお知らせいただけると幸いです。お気づきの点がございましたら是非ご教示いただけると有り難く存じます。
猫の喘息の治療にも人間用の薬が使われています。しかし人間の喘息治療薬すべてを猫に利用できるわけではありません。 猫と人間とでは代謝のしくみが違う こと(人間用の薬を開発する際に経る動物実験では猫が試験対象となることはそれほど多くありません)から、人間--とくに 小児に安全に使われているものであっても猫には致死的に危険なものもある からです。
日本で利用されている薬についてはできる限り出典を明記しています。アメリカで利用されている薬は Glossary @ Feline Asthma with Rfirz the Brave を参照しました(薬剤名の後に*を付記しています。別ページの場合はリンクを別途貼っています)。イギリスで使われている薬は Current therapy of chronic bronchial disease in cats , medications @ Feline Asthma を参照しました(薬剤名の後に**を付記しています)。
※ 薬についての基礎知識 (メルクマニュアル家庭版)が参考になります。単位については 単位の換算表(メートル法単位で使われる接頭辞 をご参照ください(mg=10 -3 g、μg=10 -6 g。50μg=0.000001g×50 となります)。
※人間の喘息に使われる薬は メルクマニュアル家庭版 や 喘息における禁忌薬 @ おくすり110番 が参考になります。詳細な情報は 「EBMに基づいた喘息治療ガイドライン」 @ アレルギー情報センター ( 厚生労働省 )にあります。 New!
Prednisone*‥"a corticosteroid, breaks down in the body into Prednisolone. A powerful anti-inflammatory, used to treat allergies, inflammation and autoimmune diseases. Most commonly prescribed in 5mg tablets."日本でも獣医(個人輸入)の処方あり。
**‥Glucocorticoids are also potentially more effective given by the inhaled route and systemic side-effects can be avoided.(グルココルチコイドは吸入することで有効性が強力に高くなるし、全身に及ぼす副作用を避けることができる)。
※猫の喘息治療で吸入薬を利用する場合には猫用の吸入器 Aerokat を利用します。詳細は[ 猫の喘息について:自宅でのエアゾール治療(AeroKat) ]にまとめています。
※AeroKatを使ったステロイドの吸入についてのプロトコル[ PDF ](Dr. Philip Padrid, RN, DVM, "Feline Asthma, Treatment Guidelines for Using Inhaled Medication,Flovent? (fluticasone propionate) and albuterol metered dose inhalers with the AeroKat? Feline Aerosol Chamber",2004.
@ Feline Asthima with Fritz the Brave (英語)‥猫さんの喘息の程度の判定基準、各程度に応じたステロイド剤の吸入パターンと症状が治まらない場合の内服処方についても書かれています)
※ 各種吸入薬の1日投与量の目安 ( 喘息ホットニュース )や 各種吸入薬の1容器(ボンベ)あたりの噴射回数 ( 西藤こどもクリニック「こどもと喘息」 )も参考になります。
成分名 ブデソニド
Budesonide*‥"No studies or long term clinic experience to support its efficacy or safety for cats"(猫に投与した場合の有効性や安全性を支持する根拠となる研究や長期投与の臨床例がない。)
成分名 フルチカゾン プロピオン酸エステル。[]は筆者による補足。)
Fluticasone*‥"an inhaled corticosteroid. No side effects seen in cats. The inhaled steroid is not absorbed in the bloodstream. Equally potent to oral prednisone 1 mg/kg bid. Brand name: Flovent?." (フルチカゾンは吸引コルチコステロイドである。猫では副作用が見られない。吸引ステロイド剤は血流に吸収されない。プレドニゾン1mg/kg BIDの経口投与と同じ強さの作用がある。)
Fluticasone propionate**‥"is the glucocorticoid that has most commonly been used in cats. This is a highly effective but expensive inhaled steroid, with an advantage of virtually no systemic effects whatsoever."(フルチカゾンプロピオン酸は猫にもっともよく使われてきたグルココルチコイドである。非常に効きめがあるものの高価な吸引ステロイドで、[局所に作用して]全身に作用をほとんど及ぼさないという利点がある。
成分名プロピオン酸ベクロメタゾン。※日本での小児への適用は2005年1月19日から( こどもと喘息 )
Beclomethasone*‥"inhalation corticosteroid."
"Beclomethazone may be considered as an alternative. 100 or 200 mg MDI(‥):1-2 doses, twice daily.‥Qvar‥"is a form of beclomethasone that is currently under investigation as its smaller particle size may allow for using loawer doses. 50mg MDI‥:2 doses,2-3 times daily".(ベクロメタゾンは選択肢として考慮されうる。‥キュバールはベクロメタゾンを成分としており、その粒子の細かさから低用量での利用が可能か治験の段階にある。)出典: Dr. Dani?lle Gunn-Moore BSc BVM&s PhD MACVSc MRCVS," Chronic Coughing in Cats " Part 3.,p2.
新たな合成ステロイドであるシクレソニドを主薬とする。日本で初めての1日1回投与製剤( 薬事日報 2007年6月13日記事)・ プレスリリース )。薬剤が肺で活性化される局所活性化型のプロドラッグ( お薬110番 )。? : アドエア
吸入ステロイド薬フルチカゾン(商品名:フルタイド)と長時間作用性吸入β2刺激薬サルメテロール(商品名:セレベント)の配合剤。Salmeterol*‥"is available in Canada, but not the USA, in a metered dose inhaler. It is a long-acting bronchodilator that takes 15-30 min. to reach effect but will last for 12 hours. This is not to be used in an acute attack but may be used in conjunction with daily corticosteroid."(気管支拡張剤:ベネトリン吸入液、サルタノールインヘラーの項目も参照のこと)。
成分名プロピオン酸ベクロメタゾン。? : アルデシン
参照: 気管支鏡検査により猫喘息と診断し、ステロイド吸入療法で管理した1例 @城下幸仁・松田岳人( 相模が丘動物病院 )[ web魚拓 ]。
薬剤は2004年発売中止(参照: プレスリリース )。
成分名プロピオン酸ベクロメタゾン。2004年発売中止(参照: 宮川医院・吸入ステロイド薬の治療効果 )。
●気管支拡張剤
◆内服薬の場合
○
: ネオフィリン錠
成分名 アミノフィリン 。キサンチン系。Aminophylline* ‥"a bronchodilator related to Theophylline, available in tablet and injection."○ : ブリカニール錠
成分名硫酸テルブタリン terbutaline。イソプレナリン系。β2受容体刺激薬。 包装 。出典: 猫の喘息の診断と治療(獣医師用) では同剤の注射薬についても言及しています。Terbutaline**‥Selective (?2 agonist) bronchodilator 0.01 mg/kg IV, IM, SQ q4h 0.625-1.25 mg/cat PO BID." "Traditionally, therapy for non-infectious chronic bronchial disease in cats has relied on the use of oral anti-inflammatory agents (glucocorticoids) and/or bronchodilators such as the methylxanthenes (e.g. theophyline) or ?2-agonists such as terbutaline‥""Traditional systemic therapy with corticosteroids and beta-agonists can be associated with significant side effects."△ : BRETHINE *
成分名 テルブタリン terbutaline。イソプレナリン系。‥Terbutaline Sulfate*‥"Used to treat the symptoms of asthma and other lung diseases. Relieves cough, wheezing, shortness of breath, and troubled breathing by increasing the flow of air through the bronchial tubes. Oral, injection and inhaled.Brand name: Brethine."△ : テオドール錠 ・ テオロング など
成分名 テオフィリン は日本ではあまり使われていない。Theophylline*‥"a bronchodilator drug." Theophylline**‥ (sustained release) Bronchodilator 20-25 mg/kg PO SID
■ 猫における徐放性テオフィリン製剤の薬物動態※参照:厚生労働省医薬食品局 1.小児気管支喘息におけるテオフィリン等の適正使用について @医薬品・医療機器等安全性情報Pharmaceuticals and Medical Devices Safety Information No.221[ web魚拓 ]
Pharmacokinetics of an extended-release theophylline product in cats
J Am Vet Med Assoc. September 2007;231(6):900-6.
Christine L Guenther-Yenke, Brendan C McKiernan, Mark G Papich, Elizabeth Powell
目的 :健康な猫における徐放性テオフィリン錠剤およびカプセル製剤の薬物動態を評価する
構成 :無作為3方向クロスオーバー研究
動物 :6頭の健康な猫
方法 :アミノフィリン(10mg/kg、IV)、100mg徐放性テオフィリン1錠、125mg徐放性テオフィリン1カプセルを全ての猫に1回投与した。36時間の間、事前に設置したセントラルカテーテルから血漿サンプルを採集した。蛍光偏光モノクローナル免疫測定法を使用して分析するまでサンプルを凍結しておいた。
結果 :全ての猫は副作用なく薬剤投与と血漿採取に許容した。両経口投与製剤投与から8-12時間で濃度がピークに達した。生物学的利用能は優良だった。血漿濃度はヒトの治療濃度5-20mug/ml内だった。
結論と臨床関連 :健康な猫における、この研究で使用したテオフィリン錠及びカプセル製剤の毎日の投与は、それぞれ15mg/kg及び19mg/kgで、血漿濃度が望ましい治療範囲内に維持された。(Sato訳)
※猫の喘息治療で吸入薬を利用する場合には猫用の吸入器 Aerokat を利用します。[ 猫の喘息について:自宅でのエアゾール治療(AeroKat) ]にまとめています。
※吸入β刺激薬の濫用による喘息死の注意があります( 宮川医院・喘息死について )。
成分名硫酸サルブタモール Salbutamol。β2受容体刺激薬(「旧来のβ刺激薬に比べ、心臓を刺激する作用が弱い」@ お薬110番 )。Salbutamol**‥"(albuterol, ‘Ventolin’) is the bronchodilator that has been most used via MDIs in cats."? ‥ メプチン
成分名プロカテロール塩酸塩。短時間作用型β刺激剤。× ‥ セレベント
成分名サルメテロール キシナホ酸塩。長時間作動型β2刺激薬。いずれも 下線 は筆者による。(ステロイド剤:アドエアの項目も参照のこと)。参照: 猫の喘息の診断と治療(獣医師用) ・連載第13回「 最も優れた併用薬はセレベント 」日経メディカルオンライン2006年10月9日記事。
Salmeterol*‥" is available in Canada , but not the USA, in a metered dose inhaler. It is a long-acting bronchodilator that takes 15-30 min. to reach effect but will last for 12 hours. This is not to be used in an acute attack but may be used in conjunction with daily corticosteroid."
salmeterol**‥"‥there are no reports yet of the use of salmeterol in cats, although it is likely to be safe and beneficial. The disadvantage of salmeterol is that it can take up to 60 minutes to take effect, thus albuterol may still be required for control of acute signs."
作用持続型β刺激剤。成分名ツロブテロール。テープを湿布した皮膚から有効成分を吸収させます。人間と猫では皮膚からの成分吸収に違いがあるとされ獣医臨床段階ではまだ使われていない(はず)。
「真に緊急の時、すなわち重度の発作時には使用を考慮する」( 猫の喘息の診断と治療(獣医師用) )。Epinephrine*‥"used to treat severe allergic reactions because it can prevent or minimize the effects of histamine. It is also used in emergency situations to help in severe asthmatic attacks to dilate the bronchial tubes." Epinephrine (adrenaline) Bronchodilator**‥"mixed adrenergic 0.1 ml of 1:1,000 dilution IV, IM, SQ, via ET tube Acute emergency Rx".
●去痰剤
○
‥ ムコソルバン
成分名塩酸ブロムヘキシンの代謝産物製剤〔塩酸アンブロキソール〕。○ ‥ ビソルボン
成分名塩酸ブロムヘキシン製剤〔塩酸ブロムヘキシン〕。出典:城下幸仁「 猫の気管支喘息をどうコントロールするか:猫の気管支喘息と診断した3例 」[ web魚拓 ]? ‥ ムコダイン
システイン誘導去痰薬。成分名カルボシステイン。
成分名プランルカスト水和物カプセル。開業獣医による臨床段階では不採用。大学病院での採用については分かりませんので(×)としています。△ ‥ シングレア Singulair?
成分名モンテルカスト。 錠剤 、小児用の細粒( 2007年10月2日発売 @万有製薬)あり。? ‥ キプレス細粒 。
成分名モンテルカスト。2007年10月2日発売(杏林製薬)。 飲み方 [ 画像 ]@人間。△ ‥ アコレート Accolate? 成分名ザフィルルカスト。
Zafirlukast**‥Leukotriene receptor antagonist 10 mg/cat PO BID.
成分名クロモグリク酸ナトリウム。点眼、錠剤、吸入などがある。
吸入薬。「肺気腫など慢性閉塞性肺疾患(COPD)においては、第一選択」( おくすり110番 )。? ‥ 臭化オキシトロピウム (成分名)
「 同上 」。●抗ヒスタミン薬
Cyproheptadine Serotonin antagonist**‥"the antihistamine portion of Cyproheptadine is not the useful portion for asthmatic cats. It is the anti-serotonin portion that helps. Serotonin is involved in feline asthma, but histamine is not, the standard dose for the asthmatic cat is 2mg twice daily however, many owners report their cats are extremely spaced out on this dose and should this hyper-sensitive reaction occur, it is worth trying the drug at a half or quarter of this dose, before deciding to discontinue. "
Dextromethorphan*‥"used to suppress coughing in cases of tracheal or bronchial irritation. It is a temporary measure to alleviate coughing and is less effective than morphine-related drugs." 鎮咳剤。非麻薬性鎮咳剤。
Furosemide*‥"used to reduce fluid accumulation and prevent further pulmonary edema from forming."
緊急時のケア ・ 自宅でのケア ・ ケアのコツ ・ 吸入治療 ・ 一般的な(通常の)治療(内服・吸入以外の外用薬・注射・ネブライザーなど)・ その他の治療 (抗ヒスタミン剤・抗ロイコトリエン薬・非ステロイド剤<ペリアクチンなど>・免疫調整・ホリスティックケアなど)。 ・ Feline Asthma
吸入治療(エアゾール・酸素吸入・ネブライザー・鍼 acupuncture) ・ 治療方法 (内服・吸入・抗ロイコトリエン薬・抗ヒスタミン薬・ホリスティックケアなど)・ 発作を誘発する物 (トイレの砂・煙・家庭用雑貨:液体漂白剤や各種の洗剤・柔軟剤、香水などなど) ・ 関連する疾患 (上部気道炎・下部気道炎・肺癌・心筋症・リンパ球プラズマ細胞性口内炎・糖尿病)
上記ふたつのサイトで有益とされているyahoo!groupのメーリングリスト。過去ログ検索も可能。 Dr.Padrid ( Family Pet Animal Hospital )の投稿もあります(抗ヒスタミン薬<ペリアクチンを除く>、抗ロイコトリエン薬、去痰薬をご自身が処方されない理由についても書かれています)。購読するにはyahoo!USAに登録することが必要。登録後はRead onlyも可。・ the Merck Veterinary Manual New!
Pharmacology : Systemic Pharmacotherapeutics of the Respiratory System (呼吸器疾患に使われる薬剤についての知識を得ることができます)、 Inhalation Therapy of Airway Disease: Overview (吸入治療について)など。マニュアル内の単語・記事検索が可能なので横断的な知識を得るのに便利です。各記事では末文にマニュアル内の関連記述についてリンクがあります。