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2009.01.05
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SSS

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どこかに置いてきてしまった


「あっトムさん!」

俺の顔を見る度、駆け寄ってくる小僧は小松と言った。
何でも元々はトリコの依頼人だったのだが、会う回数を重ねた結果どうもハントのパートナーに納まっちまったって話だ(まぁ最も、ハントじゃなくてその後の調理がメインなんだろうけど)
見るからにオチビちゃんで、正直もう少し可愛げのある顔だったらもっと年下に見られていただろうなぁとぼんやり眺めていたら思っていた通り転んでくれた。若干にやけたのは秘密だ。

「おいおいこんな所で転ぶか普通?慌てなくても俺は逃げねーよ」
「あ、あはは…すいませんつい、嬉しくなっちゃって」

人を喜ばせる話術でも学んでいるのだろうか、オチビちゃんはそんなことを言いながら立ち上がって俺を見上げる。
その眼差しは呆れるぐらいに真っ直ぐで純粋で。いつか俺やトリコ達が無くしてしまったものを思い出して少し苦笑した。

「もー笑わないでくださいよ!」
「ハイハイ悪かったって。んで、今日は何がお望みだ?」
「えーっとですねぇ…」

忙しなく表情が変わる様はまるで百面相だ。
先程荷卸をすませた食材を前に、今度は眉間を寄せて云々唸っている。
あれはどれが合うかだの、これはうちのソースに合いそうだの、ブツブツ独り言を呟く姿は見ていて飽きない。
あいつらもこういう所が面白くってつるんでるんだろうなぁと思い見つめていれば、ふいに視線が交わった。

「あの、何か…?」
「ん、いや。お前さんが言うように、コレはソレと合うと思うぞ」
「あ…!き、聞こえてたんですか!?うわっ心の中で言ってるつもりだったのに~!」
「口に出っ放しだったな」
「お、お恥ずかしい限りで…」

ほんのり頬と耳元を染めて、視線を逸らして。
いけない事をしている気になるのは何故だろうか。
…苛めてみたい。もう少し、からかってこの表情を楽しんでみたい。
抑えていた『S』の部分がムクムクと起き上がろうとした時、視界の端に見覚えのある大男が入ってきた。

「トムー!!」
「え、あっトリコさん!?」

もしかして見られていたのかと危惧するが、表情を見る限りいつもと変わりない。
背負われるトロルプテランは今日の入荷予定にないが気紛れだろうと解釈していつも通り挨拶した。

「よう小松。偶然だな」
「トリコさんも!僕は今日、食材の買い付けに来てるんです」
「ふーん。トム、こいつの分は確保しといてくれよ」
「わかってるって」

相変わらず安値で売ってくれるトリコに感謝しつつ、押し寄せる客を冷静に上手く捌いていく俺。
その背後でのやり取りは、残念ながら耳にする事はできなかったのだけれど、どうにか捌き終えて振り返って気付く。
不自然だ。特に、オチビちゃんが。

「小僧、お前ん所の取り分だぞ」
「…えっは、はい!ありがとうございますっ」
「…小松。もう用事はねえよな?」
「ない、です」
「食材の買い付けだっけ?俺が一緒に回ってやるよ」
「でも」
「ん?」
「…や、なんでもないです」
「そうか。よーし今日の夕飯でも捜すかぁ」
「うちのホテルの買い付けですってば~!あっトムさんありがとうございました!」
「ん」
「じゃあなトム」

耳まで真っ赤になって、トリコの手がずっと背中に触れている。
一見すれば仲の良い友人に思えるけれど、トリコの視線がどうみても獲物に注ぐ其れだ。
(アイツ美味そうな食材みると、目の色変わるからな)
それはきっと、人に対しても同じなのかもしれない。
当たり前のように夕飯を共に取る事を口にしても、小松は拒否をしない。
…はたまた、できない何かがあるのか。

「ったく…痴話喧嘩にだけは巻き込まれたくないもんだね」


数週間後、新たにココというメンツが加わりその喧嘩に巻き込まれることにトムは知る由も無かったのだ。


昔のお前らの面影なんて、もうどこにもありゃしない (虜/トリ→コマ+トム)





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Last updated  2009.01.31 22:28:12


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