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2010.09.02
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眠り姫に目覚めのキスを

「――んせ、起きてくだせエ」

何処からか聞こえてくる声が酷く甘ったるくて、百介は薄らぼんやりとした意識の中で手の中のシーツを握り締めた。
触れる指先は少しだけ遠慮がちで、笑い声さえ聞こえて来そうな雰囲気が安心感と更なる眠気を誘う。
此処はあまりに心地良い。柔らかな羽毛布団は暖かいし、何より彼が傍に――。

(――彼?)

「お目覚めですかい、先生」

開こうとした瞼を押さえつけるかのようにキスが落とされて、百介はようやく意識を取り戻した。
寝起き故か口が上手く回らない。慌てて布団の中に潜り込もうとするものの、ベッドに掛けられた又市の足が布団を縫い付けている為か上手くいく様子もない。
それを実に楽しそうに眺めていた又市だったが、諦めて枕に突っ伏す百介に一度笑みを深めると再度脳天にキスを施した。

「よゥくお寝みになっていたようで」
「……もっと、普通に起こしてくださればよかったものを」
「いや、奴だって起こそうとしやしたがね。先生があんまり無防備に寝顔晒されるもんですから、つい見惚れちまいやして」
「もう!からかうのは止してください」
「奴はつまんねえ嘘は吐きやせんよ、先生」

布団ごと抱き締められては、最早百介に逃げ場は無い。
枕を押しのけられ、陰る視界に無意識に瞼を閉じれば――何かが当たる振動が、又市の掌越しに伝わった。

「ってえな!何しやがんだこの阿婆擦れ!」

慌てて後ずさる百介をしっかりと腕の中にホールドしつつも、又市の視線はすでにドアの方へと向けられている。
そこには腕を組むお銀の姿と、手にぶら下がった丸みのあるクッションがあって百介は一気に顔を赤らめた。

「あ、あ、あのお銀さん!これは、その……」
「妾はね、朝食の用意ができたから先生起こして来いって言ったンだ。……なのに朝から襲う馬鹿が居るかい!この色狂い!」
「人聞きの悪い事言うんじゃねえや。仮にそう見えたとしても、奴が先生の嫌がることする訳ねえだろうが」

ねえ先生?と笑いかける又市と騙されちゃいけないよ!と声を掛けるお銀との狭間で百介の動揺は隠せない。
どうしようかと慌てふためく百介についうっかり抱き寄せ掛けた又市は、今度こそお銀の投げたクッションによってベッドから叩き落されるのだった。


(巷説/現代パロ:又百)





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Last updated  2010.10.24 03:13:14


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