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2010.12.03
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SSS

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「な~に見てんだぁ?」

龍之介が原稿の筆休めに、と居間に下りてきた時、薄暗い部屋の一角で吉子がTVの前を陣取っているのが目に入った。
物語は終盤らしくTVの中に映る男が切なげな歌声を響かせ、またそれと同時に吉子の肩を揺らしている。
傍らのゴミ箱に盛られたティッシュの山に苦笑を覚えつつも、龍之介は台所に向ける足を方向転換させてあえて彼女の元へと歩き出した。

「おい、スエキチ」
「んもぉ~いいところなのに何よぉ」
「うわっ何だその顔~!」
「うるさいわね、仕方ないでしょ感動したんだから!」
「ほれ、出てるぞ鼻水」
「えっ嘘……」
「嘘だよばーか」
「馬鹿とは何よ馬鹿とは!」

笑い声を上げながら掴んだティッシュを鼻先に当てれば子供のように鼻を噛む。そんな吉子をすっかりご機嫌に眺めていた龍之介は、何処か聞き覚えのある曲にようやく彼女が何を見ていたのか理解した。

「あれ?このDVDうちにあったっけ?」
「奈津子さんに借りたのよ。もーすっごくよかったの」
「ああ、好きそうだもんなぁお前」
「そう!一人の女に、二人の男が愛を迫る……実際そういう場面になったら困るけど、こういうのって見てるだけでときめくわよねぇ」
「はぁ、そういうもんかね」
「そうよ。……あ、でも貴方って意外と歌とか、楽器とか弾くの上手そう~」
「何、いきなり」
「ねね、ピアノ弾ける?ピアノ」
「弾けるわけないだろ、習っても無いのに」
「そうよねぇ、貴方が怪人は……ちょっとねぇ」
「おい、それどういう意味だよ」
「性格はちょっと違うけど、もし当て嵌めるなら貴方はこっちの公爵だと思うもの。顔もスタイルも悪くないし、それに音楽が出来なくても大丈夫そうだしね~」
「じゃあ何か?お前は自分が歌姫だとでも言いたい訳?」
「やっだぁ~もお~!」
「……本当、お前ってお気楽ねぇ~」
「ちょっとそれどういう意味よ!」
「べっつにぃ。さ、俺はコーヒーでも入れてくるかな」
「あ、ねえだったら怪人の方が良かった?それとも違う映画が良いの?」
「どっちもゴメンだってーの。それよりほら、お前はいるの?コーヒー」
「うん、お願い。あ、そういえばさぁ~」

龍之介が立ち上がれば、さっきまで夢中だったTVを放ってその後を付いて行く。
そんな吉子の行動に少しだけ頬を緩めながら、何事も無かったかのように会話というじゃれあいを楽しむ龍之介だった。


どうかこれでさいごであるように

……ったくお前は、俺に二度もあん時の経験繰り返させる気かよ。
(俺だけみてりゃあそれでいい)

(女.神.の.恋/龍之介×吉子)





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Last updated  2011.01.27 00:40:58


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