蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

Lately・・・番外編2



愛する彼女と別れてから、僕は自暴自棄の生活を送っていた。あまり飲めない酒を浴びるようにあおる毎日。友人たちは皆心配してくれていた。
でも僕は彼女がいないと生きる気力がわかないんだ。
2作目の映画の撮影が終わり、ドラマの出演もあった。本当は何もしたくなかったのだが、彼女に以前言われたことを思い出したのだ。
「貴方は俳優と言う職業がほんとうに好きなのね。顔を見ていればわかるわ。私は貴方が演技しているときの表情が好きよ」
彼女のその言葉を支えにドラマの撮影に臨んだ。そしてドラマの撮影も終わったある日のこと・・・。

いつものように二日酔いに痛む頭を抱えながら、コンビニに寄った。
スポーツ飲料を買おうとしていると、どやどやと数人の女性が店に入ってきた。騒がしくおしゃべりをしている。
ん?この言葉は・・・、懐かしい日本語じゃないか。彼女らは日本人観光客なのか。
彼女たちは買い物を終えると、またどやどやと出て行った。
僕は痛む頭を抱えてポカリスエットの缶を掴み、レジに行った。
おつりをもらって店の外に出ようとした。そのとき、さっきの日本人観光客の一人が戻ってきた。
見ると、店から離れたところにさっきの集団がいる。ぽっちゃりした背の高い女性が手を振っている。
「SAKOさ~ん!早くね~!」
SAKOさんと呼ばれた女性と僕はドアのところで鉢合わせをする。僕が右によけると彼女も右に、左に動くと彼女も同時に左に行った。思わず顔を見あわせる。
彼女は僕の顔を見ると少し表情を緩めた。しかし僕の手にあるポカリスエットの缶を見ると、急に険しい表情になり、レジに目を走らせた。
僕もレジの方を見る。何もない・・・。
僕は喉の渇きを覚え、ポカリスエットのプルトップを開けた。飲もうとした瞬間、彼女に缶を奪われた。
一気にポカリスエットを飲んだ彼女は、おおきなゲップとともに空の缶を僕に戻してきた。
『炭酸飲料でもないのに、何でゲップするんだよ・・・』
僕は情けない思いで、彼女の後姿を見送った。そして再び同じものを買いに店の中に戻った。


次の日、同じように僕は二日酔いの状態で、自宅近くのコンビニに・・・行こうとしたが、昨日のことがあるので、自動販売機に行くことにした。
ポカリスエットを買おうと小銭を出していると・・・。
僕の前に割り込んできた女性がいる。少しムッとして彼女の顔を覗き込む。
な、なんで!?SAKOと呼ばれていた昨日の彼女だ。
彼女は僕に気づかず、自動販売機に小銭を入れてポカリスエットのボタンを押している。
ガタン、取り出し口に缶が落ちてきた。僕はとっさに彼女の後ろから手を伸ばし、ポカリスエットを奪った。
驚いて振り返る彼女を自動販売機に押し付けたまま、僕は缶を開けて飲み始める。
ごくんごくんとのどを鳴らしながら、一気に飲み干した。ここでゲップをしなくちゃ。
・・・しかし出ない。やっぱりな。炭酸飲料でもないのに、ゲップなんて出ないよ。
あっけにとられる彼女に空の缶を渡す。
僕はニッコリと笑って、彼女に手を振った。
「アニョガセヨ(さようなら)」

彼女はあんぐりと大きな口を開けたまま、仲間たちのところへ駆けていく。
「ねぇ、ねぇ、昨日の男の子にまた会っちゃった!」
「え~!!SAKOさんがめちゃ美形!って騒いでいた子?」
「そうそう!それでね・・・」
相変わらずかしましい。

僕は可笑しくなった。なんだか少し吹っ切れたような気がする。
前を向いて歩こう。そう思った。もっともっといい仕事をたくさんしよう。そしていい俳優になろう。

その夜、僕の所属している事務所から電話があった。日本でのドラマ出演のオファーが来ているというのだ。一応オーディションがあるらしい。
「日本か・・・・」
僕は昼間あった賑やかな女性たちを思い出した。
「いいかもしれない。日本でのドラマ出演」
日本のドラマ出演が、僕の人生に何かを与えてくれるような気がした。
「ありがとう、SAKOさん」
僕はそっと呟いた。


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