蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「過去のない男」

淡々と・・・という言葉がぴったりの映画。
ドラマティックな出来事さえも、なぜか淡々と起こって、淡々と終わってしまう。そんな不思議な映画。

暴漢に襲われた男は、過去の記憶をまったく失ってしまう。
住所も職業も、自分の名前さえも。
そんな彼を介抱してくれたのは、コンテナに住む家族。
決して裕福ではない家庭だが、心まで貧しくはないらしい。
身元のわからない男の面倒をみてやる。
男は快復し、別のコンテナに住み着くようになる。
街の浮浪者たちとのふれあいや、救世軍の炊き出しで出会ったイルマという女性との恋。
贅沢ではないが、満ち足りた時間が過ぎていく。淡々と。
そんなある日、男の身元が判明し・・・。

大いなる期待をもって見てしまったので、あまりにも「淡々と」した表現に、少々物足りなさを感じたのは事実。
事業に失敗し、銀行強盗をした経営者の代わりに、記憶をなくした男が従業員らに給料を渡しに行くのだが、その受け渡しも淡々としていた。
それは演出上、ねらったものだとはわかるが、日本人的な感覚で言えば、もらえないと思っていた給料を受け取ったのなら、もっと色んなリアクションがあっていいのでは?と思ってしまう。
皆あっさりと給料袋を受け取って、さっと踵を返すのだ。
え?えんなものですかあ?
すべてにおいて、登場人物の言動が淡々としている。
それが見せ所なんだろうケド。

面白かったのは、男が汽車の中ですしを食べ、日本酒の熱燗を飲むところ。
この映画の監督、アキ・カウリスマキ監督は小津安二郎監督を敬愛していたらしい。
昨年の小津監督生誕100年の特番で、10年前に作ったドキュメンタリー番組を再放送していたのだが、そこにアキ・カウリスマキ監督が出ていた。
同じような「淡々と」した映画でも、やはり小津監督の作品とカウリスマキ監督の作品は、どこか違う。
「過去のない男」は、ほのかに温かい印象を残してラスト・クレジットが流れる。
私がこんな風に記憶をなくしたら、彼のように堂々と地に足をつけて暮らしていけるだろうか?

「過去のない男」公式HP:http://www.eurospace.co.jp/kako/


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