蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「ラストサムライ」

さして期待もせずに見始めた 「ラストサムライ」
ハリウッド映画は、最近あまり見なくなっていたので、レンタルしてきただけでも、めずらしい。
しかし、物語が進むうちに、どんどん画面にひかれていく私がいた。

ネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ)は、過去の数々の戦いを思い出していた。
自分達が正しいと信じて、先住民族たちを虐殺してきた過去。
しかし、逃げ惑うこども達を容赦なく殺した場面が脳裏に浮かぶたび、苦い思いが心をよぎる。
そんな彼の元に、日本へ行き、西洋式の軍隊を作るように依頼が来た。
日本では、若き天皇(中村七之助)が近代化を進めていた。
しかし武士の世を重んじ、天皇の側近大村から疎んじられている男、勝元(渡辺 謙)がいた。
大村の元で、兵士を訓練していたネイサンだが、ある日兵をひいきて勝元達と一戦交えることになった。
命知らずの侍たちの前に、西洋式の訓練を受けた兵士達は、ものの数ではなかった。
追い詰められるネイサン。
殺されそうになったとき、彼は反撃に出る。
ネイサンにとどめをさそうとした男は、彼に反撃を受けて死んだ。
ネイサンは、勝元たちに捕らえられ、彼らの里で一冬を過ごすことになる。

ネイサンが殺してしまった男は、勝元の妹、たかの夫であった。
たかにネイサンの世話をさせる勝元。
はじめはわだかまりが消えなかったたかだが、ネイサンの謝罪の言葉に、心がほどける。
時が経つにつれ、惹かれあう二人。

大村の率いる大軍が、勝元の里に近づいてくる。
決戦の時だ。
死を覚悟して戦いに臨もうとする勝元に、ネイサンは自らの死をかけ、共に闘うことにした。

ハリウッド映画が苦手だったのは、やたらとうるさいところ。
クライマックスを大袈裟に騒ぎ立てるのが、あまり好きではなかった。
しかし、この「ラストサムライ」は、日本を舞台にして、武士道を表現しようとしているからか、かなり静かだった。
もちろん戦いの場面はそうではなかったが、その他のシーン、ネイサンが勝元の住む里で暮らす場面は、ゆるゆると時が過ぎてゆき、心地良かった。
特にネイサンとたかのラブシーンがよかった。

合戦に行く前、ネイサンを呼ぶたか。
たかのいる部屋に行くと、そこにはたかの死んだ夫が着ていた甲冑が置いてあった。
それを身に付けて戦いに行くように言うたか。
ネイサンの着物を脱がせ、甲冑をゆっくりと着せていくたかに、ネイサンは身を預けていた。
ふと、たかの手が止まる。
お互いの心の底までを見るように、見つめあう二人。
ゆっくりと唇を重ねた。
と、たかははっとしたように顔を離す。
ネイサンの後ろにまわり、彼の背中にもたれ、瞳を閉じた。

このシーンは、強く心に残った。
ハリウッド作品のラブシーンなら、恋に落ちるやいなや、すぐ寝てしまうのでは?という不安があったのだ。
それが、戸惑いながらのキスで終わってくれたので、ちょっとほっとした。
そういうキスシーンだけだからといって、無味乾燥ではない。
むしろこのようなシーンだからこそ、艶かしさを感じるし、印象に残る。

ただ少々違和感があったのは、勝元が死ぬ間際に満開の桜を見て「完璧だ」というところ。
勝元はかねてから、完璧な桜を見たがっていたのだが、武士道を重んじる彼が、満開の桜を愛でるだろうか?
まして、死の間際なのだ。
日本人的な感覚ならば、死を前に見て感動するのは、激しく散っている桜か、一枝だけの桜なのでは?
元気な時には、満開の桜に満足していても、死が目の前に来た時、一輪の桜に、完璧な美を感じるのではないかと思う。

ラストの大団円具合も、やはりハリウッド的な手法だなぁ~と思った。
しかし外から見た日本は、微かに胸が痛いほど、静かな佇まいであった。


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