蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「誰も知らない」

予告編を見ただけで、泣いてしまったこの映画。
本編を見るとどうなるんだろう?という不安を抱えつつ、映画館へ行く。
だいたいのストーリーは知っていたから、話が始まるとすぐに『この子達だけで暮らすのね』とか『このかわいい末妹のゆきちゃんは、死んでしまうのね』とか、いろいろ思い出してしまって、最初から涙が流れっぱなし。
しかし、彼らの生活がすさみはじめると、しだいに涙が乾いてきた。

ある古びたマンションの2階に、福島けい子と明親子が引っ越してきた。
大家に挨拶にいき、夫は海外赴任中だと言うけい子。
実は彼女には小学6年生の明の他に、京子、茂、ゆきという、4人とも父親の違う子どもがいた。
4人とも出生届を出していない。もちろん学校にも通っていない。
茂とゆきは、旅行かばんやスーツケースの中に入り、引っ越しの荷物になって、京子は一人で電車に乗って、このマンションにやってきた。
明以外の3人は、大家や他の住民に見つからないために、絶対に外に出てはいけないと、けい子に言われる。
ダンボール箱に囲まれたままの食事。
しかし母親のけい子は底抜けに明るく、こども達に、姉か友達のように接している。
楽しげな子ども達。
けい子が仕事に行っている間は、明が買い物に行き、食事を作る。洗濯物は京子の仕事。
こども達がそれぞれに、自分のするべきことをして、けい子の帰りを待っている。
そんなある日、けい子は少しばかりのお金と手紙を置いて、仕事に行くと出て行ってしまった。
家賃や光熱費を振り込み、残ったお金で食料品を買う明。
けい子が姿をくらましてから1ヶ月がたち、お金も底をついてくる。
明は、ゆきの父親の働くタクシー会社に行ったり、知り合いのパチンコ店員のところへ行って、金の無心をする。
しばらくして、ひょっこりけい子が帰ってきた。
こども達へのお土産を手にもって。
しかしすぐ荷物をまとめて、再び仕事に出るという。
今度はクリスマスに帰ってくると言い残して、いそいそと出かけるけい子。
明はけい子の身勝手さを責める。
しかし「あんたのお父さんの方がよっぽど身勝手じゃない、黙ってひとりでいなくなって!」と言い返されてしまう。
それから子ども達4人だけの生活が始まった。

こども達だけの生活が始まった時までは、こども達がかわいそうで、涙が流れて仕方なかった。
お金が底をつき、水道や電気を止められ、満足な食事にもありつけなくなりはじめると、だんだん涙が乾いてきたのだ。
なぜか?
悲惨な状況の中で生きるこども達が、とても逞しく、まるで無人島かジャングルで暮らしているかのように感じられた。
(実際に彼らのことを気にする大人は皆無に等しく、人が大勢いる“無人島”の様相だったが)
なんてイキイキと力強いのだ、彼らは。
電気が止められれば、暗闇で生活をする。
水がなければ、公園で洗濯をし体を洗い、飲み水を汲んでくる。
食べ物が手に入らなければ、賞味期限切れのおにぎりや弁当を、コンビニでもらってくる。
そうやって自分たちで考えられるだけの知恵をしぼり、生活を続けていく子ども達は、私なんかより、ずっと大人だった。

では、この話で悪いのは誰か?
子どもを捨てて男に走った、無責任な母親だろうか?

私はそうではないと思う。
確かにこども達が悲惨な生活をするようになった直接のきっかけは、母親の無責任な行動が起こしたものだ。
しかし母親を責めるだけでは、問題は解決しない。
彼女がなぜ、父親の違う非嫡出子を4人も産んだのか。
けい子は明に言っている。
「お母さん、好きな人がいるの。今度こそ結婚して、大きな家に皆一緒に住んで、学校にも行けるようになるから」
けい子は彼女なりにこども達との生活を夢見ていた。

けい子を捨てた4人の男たち。
母親のけい子。
子ども達を取り巻く全ての大人たち。

そう、我々全ての大人たちが、明たちの生活を凝視し、自分達の無責任さを心に留めなければならない。

カンヌで最優秀男優賞に輝いた、柳楽優也クン、サイコーだった。
自分の子どもくらいの年齢だけど、惚れてしまいそうだったね。(笑)

「誰も知らない」公式HP




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