蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「es(エス)」

この映画はアメリカ・スタンフォード大学で、実際に行われた心理実験を元にしてつくられている。
その実験とは、新聞広告で募集した男たち24人を、看守役と囚人役に分け、大学内に設置された模擬刑務所で2週間生活させると言うものだった。報酬は4000マルク。
善良な市民ばかり参加していたはずだったが、しだいに看守役は暴力的に、囚人役は卑屈になってくる。
実験を始めた教授に対し、助手はその様子を見て実験の中止を申し出るが、教授はまだ続けるという。
模擬刑務所の中は次第に一触即発の状態になり、教授が会議出席のため、学内を離れた夜、とうとう・・・・。

ホラー映画よりも怖かった。
ホラー映画に出てくる幽霊や怪物は、所詮作り物という感覚があるが、この映画に出てくるのは、普通の人間。
変質者でもなければ、快楽殺人の犯人でもない。
どこにでもいる一般市民なのだ。
私があの中に入っていても不思議はない。

与えられた環境なのかで、人は変質していく。
どんどん凶暴に、或いはどんどん卑屈に。
実験を行い始めた教授が取り決めた約束さえ反故にするほど、彼らは変化する。

あの変化は、もともと彼らが心の奥底に持っていたものだったのか?
戦時下で、さまざまな虐殺行為が行われるのも、与えられた環境の中で出現する人間の本能なのか。恐ろしい。

腕力よりも頼りになるもの、それは精神力。
どんな極限状態でも、狂ってしまわないでいられる精神力。
どうしたら身に付けられるのだろう。

自分が殺されようとしているとき、「お前の子どもを虐待すれば、お前の命は助けてやる」と言われれば?

「es」を見た後は、さまざまな極限状態を設定してみて、自分は果たして最後までマトモな精神を保っていけるかどうか想像してみたが・・・・。

本当に恐ろしい映画である。


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