蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「初恋のきた道」




中国映画 「初恋のきた道」 オンエア。
これは劇場公開当時から、見たいと思っていた作品なので、とても楽しみだった。
第50回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した作品で、監督はチャン・イーモウ。
彼の初期の作品は、けっこう見ていて、それなりに好きだったのだが、最近の「HERO」はあまり感動しなかった。
出ている俳優も好きだったし、映像美も感じられたのだが、琴線に触れるものがなかった。
「HERO」でさかんに言われていたのは、色彩の美しさ。
確かにそれぞれのシーンに合わせて、画面の色を統一させていたのは、それなりにインパクトがあり美しいとは思ったが、気になったのは人工的な匂い。
それに比べて、この「初恋のきた道」の画面に見られた自然の色彩は、心地良かった。
「HERO」のように、監督の『どうだ、綺麗だろう?』という、観客に押し付けるような思いは感じられず、中国のありのままの自然の色が、ほんとうに目にも心にも優しかった。
ストーリーも大袈裟なものはなにもなく、淡々と過ぎていく。
面白かったのは、現在の場面はモノクロで映し、両親の過去の場面はカラーで映しているところ。
普通ならば、過去はモノクロ、現在はカラーとするところなのだろうが。

父の訃報を聞いて、葬儀のために故郷に帰ってきた青年。
彼は、父の葬儀を昔の風習どおりにしたいと言い張る母親を説得しようと試みる。
しかし両親の若い頃の写真を見かけ、彼らの恋の顛末を思い出していく。

母親チャオ・ディが18歳の時、父ルオ・チャンユーははじめての教師として、この村にやって来た。
若く意気揚揚としていたチャンユーを一目見て恋をしてしまった母ディ。
自由恋愛が許されなかった時代、彼女には初めての恋だった。陰日なたになって彼の役にたとうとするディ。
町に呼びつけられ、村を去ったチャンユーを雪の中待ちつづけ、熱を出して倒れても、彼を信じ待ちつづけた。

両親の恋を思い出した青年は、母親の意見を尊重し、伝統的な風習で葬儀を行うことにした。

初恋の純粋さが、もう前面に出ていて、胸が熱くなった。
人を好きになると言うことは、こんなにシンプルなことだったんだ。
さまざまな駆け引きや贅沢な贈り物、嫉妬、浮気などなど、今の世の中には着ぶくれしすぎた恋が氾濫している。
でも、人を好きになる気持ち、人を大切に想う気持ちは、いらない装飾を削ぎ落としていったものなんだ。

ああ、いいな。人を好きになるって、いいもんだな。そう思う。
ディがチャンユーのことを想いながら、山道を走る。
人を好きになった時、体がふわふわして軽くなったように感じる。
彼女の走る姿を見ていると、そんな感覚を思い出した。

そして老人にも、さまざまな思い出があるということを、実感した。
当たり前のことなのだけれど、老いた母にも若い頃があり、恋の思い出もあるのだ。
今の若者と同様の、いやもしかすると時代に翻弄されていて、もっとドラマティックな恋だったかもしれない。
そんなことが「初恋のきた道」を見たことによって、よりリアルに思い出された。

よけいな装飾をするよりも、こういう作風の映画が、チャン・イーモウ監督の良さを出してくれるんじゃないかな。





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