蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「七夜待」






久しぶりに河瀬直美監督の作品を見ました。
2008年度公開の最新作 「七夜待」 です。
今まで河瀬監督は、自分の故郷・奈良を舞台に撮影してきましたが、今回初めて海外で撮影しました。場所はタイ。奈良と共通している部分があったのでしょうか?


ストーリー
30歳になる彩子は、一人でタイに来ていた。慣れない場所で現地の人に尋ねながら観光案内所にたどり着く。目的のナラコートホテルは歩いていくには遠いとのこと。タクシーで行く事を薦められ、案内所前に止まっていた1台のタクシーに乗り込む。タクシー運転手はぶっきらぼうで、トランクに荷物も運んでくれない。自分でトランクをあけ、荷物を入れる彩子。座席に座り、ナラコートホテルの名前を告げるが、何回言っても通じない様子。ようやく運転手は頷き、タクシーは動き出す。旅の疲れが出たのか、彩子はそのまま眠ってしまった。
気がつくとホテルどころか、森の中でタクシーは止まっている。何事かと驚く彩子に、運転手は降りろというゼスチャーをする。急に恐ろしくなった彩子は、荷物も持たず、逃げ出す。追いかけてくる運転手。森の中へどんどん入っていく彩子。彼女の目の前にフランス人のグレッグが現れる。彼は敵か味方か?彩子は…。




なるほど河瀬監督らしい、観念で見る映画です。
ストーリーがあるようで、明確にはないところが、河瀬監督らしいと感じるところ。
しかし今までの作品とは違い、長谷川京子という女優を使ったところが、やや失敗かなと感じました。
主人公の彩子は、日本でのことをリセットするためにタイに来たように思われます。身も心も疲弊している彩子に、タイ人のアマリはタイ古式マッサージを施してくれ、その効果によって、少しずつ彩子は元気を取り戻していきます。

スレンダーで美しい女優が演じる彩子は、なんだか薄っぺらな感じがして、観客である私は物語の中に入っていけません。異国のタクシーの中で眠ってしまったり、見知らぬフランス人男性についていき、彼が滞在しているタイ人親子の家に居候するなど、警戒心がなく、あまりにも平和ボケしすぎではないかと、見ていてヒヤヒヤします。
物語が佳境に入り、アマリの息子トイが行方不明になるシーンでは、彩子だけが浮いているような印象を受けました。
トイを出家させたいと願うアマリが、嫌がるトイを説き伏せようとし、その後トイが行方不明になります。トイを隠したんだと思い込み、グレッグやタクシー運転手マーヴィンをヒステリックに糾弾するアマリ。言葉が通じないので、彼らが何を言い合っているのかわからない彩子が、それでも仲裁に入ります。しかし逆にアマリに逆襲され、興奮したグレッグに殴られる彩子。彼女も頭に血が上り、「どうして私が殴られなくちゃいけないの?」と叫びます。
言葉が通じないから仕方がないのですが、彩子の言動はいつも自分中心のような気がしてなりません。結局彩子がトイを見つけるのですが、その必要性も感じられませんでした。

理屈で考える作品ではないのですが、わからないというよりも、長谷川京子嬢が浮いていて、作品全体がしっくりこないように感じられました。

ただこの作品は、言って見れば漢方薬のようなもので、西洋薬のような即効性はなく、一度心や体の中にある不純物を一気に吐き出してしまってから、病が完治するというようなものなのかなとも思いました。





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