蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「寡黙な死骸 みだらな弔い」

書籍名:寡黙な死骸 みだらな弔い
著者名:小川洋子
出版社:中央公論新社

感想:作家本人と出会ってから、初めて彼女の作品を読んだ。
できれば取材前に読んでおけばよかったのだが。
ホントは、今回の読売文学賞を受賞した「博士の愛した数式」を読みたくて、本屋で探したのだがなかった。
置いてあった数冊の文庫本の中で、タイトルが気に入って買ったのが「寡黙な死骸 みだらな弔い」
なかなか洒落たタイトルだと思う。
11の短編を集めて1つに収録してあるのだが、どの話もそれぞれに関連があって、全て読むと元に戻るという読後感。
次々読み進むうち、さっきの話で脇役だった人間が、今度の話では主人公になり、記憶の中にいた人物が、読者の前に鮮やかにあられれる。
読者はまるで全能の神になったような感覚で、すべてのストーリーを読み取り、それぞれの登場人物について、支配しているような錯覚にとらわれる。
しかし、11の話を全部読み終わると、すべてを知っているはずの読者に一抹の寂寥感が残る。
なぜか?
人や動物の死を、清らかで哀しいモノとして捉えている作品がなせる技なのだろうか?
とにかく彼女の作品を初めて読んだ私は、心に小さな引っ掛かりを感じた。
冷たい雪が、私の心のひだに舞い降りたように、一瞬の冷ややかさを感じたと思うと、消えてなくなった。
その冷ややかさを求めて、再び小川洋子作品を手にとるかもしれない。




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