蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「忠三郎狂言会」




大阪の大槻能楽堂で、茂山忠三郎狂言会を見る。
番組は、

「縄綯」
太郎冠者 茂山忠三郎
主    茂山千作
某    茂山千之丞

「呼声」
太郎冠者 茂山良暢
主    善竹忠亮
次郎冠者 茂山宗彦

「靱猿」
大名   茂山忠三郎
太郎冠者 善竹隆司
猿曳   茂山良暢
小猿   多良みゆき

前日深夜まで起きてビデオを見ていたので、「ひょっとすると寝てしまうかも・・・」と危惧しつつ、大槻能楽堂へ。
番組が面白そうなので、今回も小学3年生の娘を同伴する。
「狂言っておもしろいんだよ~」と言っている母親が、娘の横でいねむりをしてしまっては、しめしがつかない。
こりゃ睡魔と闘うしかないね、と強烈ミントガムを口に放り込んだ。
いよいよ舞台が始まる。
最初は「縄綯」
先日 日記にも書いた が、「狂言集」の本を購入し、一通り読んでいたので、内容がよくわかった。
登場人物は、主、太郎冠者、某の3人。
この某という役は、後半でさんざん太郎冠者に悪口を言われるので、茂山千五郎家では「太郎殿」(無難に、というところか)と言っているらしいが、狂言では通常、演者の名前を呼ぶことにしている。
今回の「縄綯」は、某を太郎殿ではなく、演者の名前を使っていた。
また某だけではなく、主も演者の名前を使っていて、観客の笑いを誘っていた。
この「縄綯」という番組は、演者の動きや謡などでなく、台詞の面白さによって見せるものだと思う。
特に後半は太郎冠者の長い語りが続く。
台詞の面白さと、太郎冠者を演じる者の演技の厚みがなければ、飽きてしまう。
それが、睡魔に襲われることなく楽しめたのは、太郎冠者役の茂山忠三郎氏をはじめ、茂山千作氏、千之丞氏の素晴らしい演技の賜物だろう。
特に私は、茂山千作氏の演技に胸を打たれた。
なんともいえない柔らかさ、そしてユーモア。
これが人間国宝の狂言か。納得する。
しかし娘は少々退屈した様子。台詞の意味がわからないので仕方がないか。

お次は「呼声」
これはさんざんNHK教育「にほんごであそぼ」で謡の部分を演じていたので、耳に残っている。
私も娘もとっつきやすいだろう。
複雑なストーリーもほとんどないし、耳で楽しめるだろうと思っていた。
そのとおり、平家節・小歌節・踊り節といろいろな節回しで太郎冠者を呼びかける、その微妙な違いがよくわかり、面白かった。
こういう聞き比べは、基準になるものを記憶の中にしまいこんでいないと、比べることが出来ない。
TVで聞き覚えた「にほんごであそぼ」の野村萬斎さんの声を基準にして、茂山家による「呼声」を聞き比べることが出来た。
娘も聞きなれた節回しだったため、違和感なく舞台の世界に溶け込めたらしい。
「呼声」が一番面白かったと言っていた。

「靱猿」は、今年の新春狂言で、和泉流のものを見ていた。
やはり同じ番組を何回も見れば、理解が深まる。
大蔵流と和泉流を比べるというところまではいかないが、話の内容を理解していたので、ストーリーを追うことに終始することなく、演者の表情や動きに注意を向けられたのがよかった。
(それに萬斎さんの舞台だと、彼一人に注目してしまい、ストーリーや他の演者に気がいかないし・・・。笑)
娘も、子役が演じる小猿に興味津津で、「靱猿」も面白かったようだ。
大名に猿をよこせと言われ、猿曳が小猿に語り聞かせる場面では、「小猿に猿曳の言っていることがわかるの?」と聞いてきた。
なるほど、猿曳が小猿にことの経緯を話しているということは、わかっている様子。
子どもだといって侮れないなぁ。
面白いもの、いいものは年齢問わずということか。

大槻能楽堂のロビーに置いてあった数々の花を、舞台が終わって観客が帰るとき、入り口で配っていた。
私はカサブランカの花を、娘は桃色のガーベラの花束をもらって出てきた。

台詞を思いっきり楽しめて、謡の響きに体中がしびれ、母娘ともども狂言に酔いしれた舞台。おまけに花までいただいて、大満足の夜だった。




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