蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「野村万作・萬斎狂言会」2007




狂言会の番組は、「昆布売(こんぶうり)」と「縄綯(なわない)」、そして万作さんの芸話でした。
いつも最初に萬斎さんのトークがあって、これから始まる番組の解説をしていたのですが、今回はなし。最初に野村万作さんと野村万之介さんの「昆布売」があり、15分の休憩。
そして万作さんの芸話があり、次に萬斎さんと高野和憲さん、石田幸雄さんの「縄綯」がありました。


「昆布売」

昆布売・・・野村万作     大名・・・野村万之介

大名は外出のお供がいないので、適当な者を見つけて供をさせようと思い、往来で通りかかった昆布売に声をかけ、嫌がるのを脅して、むりやり供にして太刀持ちをさせる。怒った昆布売は隙を見て太刀を抜き、逆に大名を脅して昆布を売らせる。「昆布召せ、昆布召せ、お昆布召せ、若狭の小浜の召し(献上)の昆布」という売り声を謡い節、小歌節、踊り節など、色々に変えてなぶるうちに、大名は夢中になって・・・。(パンフより抜粋)


万作さんの芸には、円熟味を感じました。大仰ではなく、それでいておかしさは伝わってきます。昆布売りの売り声が、色々に変化するところが、なかなか面白く、昔の物売りには芸があったんだなぁ~と感心しました。(笑)


休憩をはさんで、万作さんの芸話を聞きました。
萬斎さんはいつもクールに、ユーモアを混ぜながら話すのですが、万作さんの場合はまた違う味わいがありました。もちろんユーモアを感じさせるところは随所に盛り込まれていますが、何よりも感心したのは、舞の美しさです。
能の「鞍馬天狗」の中に、狂言方の舞があるという説明があり、実際にその舞を舞われたのですが、ほんの数分の舞が、ホレボレするほど見事なものでした。
義経役の子どもに向かって、いろいろなおもちゃの名前を謡いながら舞うそうなのですが、張子の虎・・・などと謡いつつ、機敏に舞う万作さんの躍動感のある所作に感動しました。もしかしたら、今回1番感動したところかもしれません。(笑)


「縄綯」

太郎冠者・・・野村萬斎    主・・・高野和憲   何某・・・石田幸雄

博打に大負けした主人は、太郎冠者を借金のカタに取られることになり、本人に訳を言わずに相手の何某の家に使いにやる。何某から聞いて初めて事情を知った太郎冠者は、縄綯いや水汲みを命じられるが、反抗して働かない。怒った何某に金の返済を迫られた主人は、いったん太郎冠者を戻らせて、その働きぶりを何某に見せようとする。さて帰ってきた太郎冠者は縄綯いを命じられると、嬉々として綯いながら、何某の家の悪口を言いたい放題・・・。(パンフより抜粋)

この「縄綯」は、以前大蔵流のものを見ていたので、だいたい内容は知っていた。
今回は和泉流なので、どういう違いがあるのか比べられるし・・・。(というほど、くわしくはないけれど)茂山家の「縄綯」観劇記は こちら
私の持っている「狂言集」という狂言のシナリオ集のような本に、「縄綯」が載っているので、読んでみたが、この本は大蔵流ものを掲載しているので、もしかしたら和泉流とは少し違う部分があるのかもしれない。
そういえば、太郎冠者が何某に仕事を命じられていた時、縄を綯うことを「卑しい仕事」と言っていたような気がする。「狂言集」を見ると、水を汲むことを卑しい仕事だと言っている。
解説を見ると、「当時は水を汲むのは、手に技術をもたない女のすることであった。太郎冠者の自尊心をはなはだ傷つけた命令である」と書かれてある。女性の私も自尊心をはなはだ傷つけられたケド。(笑)
縄を綯うことを卑しい仕事だと聞いた私の聞き間違いなのだろうか?
そういえば以前、あるドキュメンタリー番組で、神社などの注連縄を綯う仕事をしている女性をクローズアップしていた。彼女は同和地区出身者で、ずっと縄を綯う仕事をしてきたというのである。私はその番組を見るまで、縄を綯う仕事が、そのような意味を持つということを知らなかった。
もしかしたら、その部分は私の聞き違いかもしれないが、大蔵流と和泉流で違いがあるのかもしれない。
「狂言集」では「縄綯」を、太郎冠者が最後に長々と語り続けるだけに、太郎冠者を演ずる役者の話芸の巧拙が、この狂言の出来を決すると解説してある。なるほど。
萬斎さんは難なくこなしていたようだが、なんとなく気になったのは、オーバーアクションだったということ。もちろん笑わせどころなのだが、少々気になるほどだった。
あまりオーバーにしなくても、何某が後ろにいるとも知らずに、彼の家の悪口を言い続けるという状況設定だけでも笑いを誘うし、悪口の内容の滑稽さでも充分面白い。ことさら大きく目を見開いたり、口をあんぐりとあけたりしすぎる必要はないのではないか・・・と思ってしまった。ごめんね、萬斎さん。

でもまた来春の新春狂言2008のチケ、申し込んだからね。
萬斎さんの謡初を聴かないと、新年を迎えたという気がしないのよね。

そうそう、今回の番組には、囃子方がいなくて、かなり寂しかったですね。
やっぱりあの囃子方の音を聴かないと、なんだか物足りなくなってきました。


2007年5月18日  大阪・大槻能楽堂


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