蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「野村万作・萬斎狂言会」2009




恒例の「野村万作 萬斎狂言会」に行ってきました。
1月の新春狂言会と7月の狂言会は、ここ数年ほぼ毎年欠かすことなく見ています。
新しい番組を見るのも楽しみですが、なにより万作さんの円熟した芸と萬斎さんの躍動感溢れる芸を楽しむ事も大きな目的の1つです。

さて今回の番組は、


「合柿(あわせがき)」

柿売り 野村万作
所の者 石田幸雄
立衆  深田博治
立衆  竹山悠樹
立衆  高野和憲
立衆  月崎晴夫


小舞「八島」
舞 野村萬斎   ほか連吟


芸話
野村万作


「素襖落(すおうおとし)」

太郎冠者 野村萬斎
主    高野和憲
伯父   野村万之介
後見   深田博治



今回特筆すべきは、急遽プログラムに入れられた小舞「八島」でしょうか。
番組表にも書かれていなかったのですが、会場の大阪・大槻能楽堂に行くと、休憩の後に萬斎さんの小舞が追加されたと張り紙がありました。
わ、ラッキー!萬斎さんの舞って大好きなんです。所作がきびきびしていて、目に美しいんですよね。小舞を楽しみにしながら、座席につきました。
今回は珍しく橋掛り真横の席でした。いわゆる花道真横という感じでしょうか。演者が舞台に立つと正面からははずれるのですが、橋掛りを出ていたときは顔のしわまで見えてしまう距離でした。だから萬斎さんが揚げ幕から出てきて、橋掛りを歩いている時は、穴が開くほど萬斎さんの御顔を拝見してしまいました。(いわゆるガン見ですね。笑)

まず万作さんの「合柿」
万作さん演じる柿売りに、市場の見物をしていた男達が声をかけます。売り物の柿は渋そうだけれど、甘ければ買おうというので、柿売りは彼らに売り物の柿を味見させます。しかしどの柿も渋く、男達はこんなに渋い柿は買えないといいます。柿売りは、そんなことはない絶対に甘いはずだと言い張り、男達は柿売り自身に味見をさせます。選び選び柿を手に取り、柿売りは柿にかじりつきますが・・・。
さんざん男達にからかわれた後、1人になった柿売りが柿本人麿の「取り残されし木まもりの、古の人丸は、柿の本に住みながら、歌を案じてそらうそを吹かせ給ひしたとえあり」と謡います。
この場面が物悲しく、柿売りの哀れさが出ていて、胸が詰まりました。

後の芸談で万作さんがこの「合柿」について話をされていましたが、柿が甘かったのか渋かったのか、実際のところはわからず、観客が判断すればよいと言われていました。私は最初から渋柿なんだろうなと思いつつ見ていたのですが、最後の人麿の歌の場面を見ると、柿売りが哀れで、彼は最初から渋柿だと認識していなかったのではないかと思い始めました。

20分の休憩の後は、お待ちかねの小舞「八島」
この舞についての知識は全く無かったのですが、見ているとどうやら戦記物のようでした。
調べてみると、八島は屋島のことで、源平合戦のお話だとか。
ええ、ええ、それはわかりましたよ。勇壮な舞でございました。拍子を踏んだり、跳び返りのときなどは、もう私の魂が抜け出てしまいそうになるほどの萬斎さんの凛としたお姿。
久しぶりに心がキリリと引き締まるほど鮮烈な舞を拝見することができました。
相変わらず萬斎さんは素敵過ぎます。

次は万作さんの芸話。狂言の始まりと終わりについて、面白おかしく語ってくれました。
揚げ幕をあげる係りにも上下があり、舞台から見て右手の方が位が上の人が担当するとか。そこは観客から見える場所なので紋付を着るけれど、左側は見えないので、たまにラフな格好をしている・・・と本当とも嘘ともつかないような話をされ、観客の笑いを誘っていました。


最後の番組は「素襖落」
萬斎さんが太郎冠者を演じます。先ほどの小舞のきりりとした表情はどこへやら、すっとぼけた表情の太郎冠者に早代わり。いいかげんでお酒好きで、おっちょこちょいの太郎冠者を好演していました。
伊勢参りを思い立った主が、かねてから約束をしていた伯父も誘おうと、太郎冠者を使者に遣わします。急な事で伯父は行く事ができないのですが、使者である太郎冠者の労をねぎらい酒を振舞い、餞別に素襖まで渡してやります。太郎冠者はすっかり酒に酔い、千鳥足で主のところに帰宅。酔っているので、素襖を落としてしまいます。それを主が拾いますが、太郎冠者が自分のものだから返してくれといっても返さず、退場します。
何より見所だと感じたのは、酔っ払った太郎冠者の動き。酒の飲み方は言うに及ばず、酩酊振りがなかなか良かったです。


最近はすっかり韓流漬けのワタクシですが、久しぶりに日本に戻ってきたような感じがしました。小舞の連吟も心地よく、舞の美しさも見ていて心が浮き立ちました。
萬斎さんの舞は、東方神起のダンスに匹敵するほどエキサイティングでございました!


2009年7月22日 大阪 大槻能楽堂


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